原発事故からの教訓
依然として原発は危険な状態ですが、事態は好転しつつあります。簡単ですが、今回は原発事故の問題点を考えます。
最も基礎にある問題は、原発建設の想定基準が間違っていたということです。400kmの断層がずれるような大規模な地震と、それによって引き起こされる巨大な津波は誰も予測していませんでした。
このためか、政府の事故対策は、ひたすら安全性を訴え続けるものになりました。しかし、最初から政府発表には疑問があり、私は被害を小さく発表していると直感し、怒り心頭でした。そう考えた人は多かったはずです。
1号機と3号機の建屋が水素爆発で破損したあと、原子炉には危険がないと即座に発表されました。しかし、水素が生じたのは高熱で燃料棒のジルコニウム合金が溶けた証拠であり、これは炉心溶融が起きたことを示していました。しかし、枝野官房長官は炉心溶融とメルトダウンという言葉を使い分けました。外国語では「炉心溶融」と「メルトダウン」は同じ単語になります。多分、これは外国語に翻訳されたときに誤訳されたのではないかと思われます。枝野官房長官は水素爆発後に「メルトダウンは起きていない」と言いました。このまま翻訳すれば、外国の核専門家には意味不明でしょう。
また、建屋の壁の厚さは資料により違うものの、1〜1.5mとされます。これほど厚いコンクリートが完全に吹き飛ぶ衝撃です。内部の構造物に何の損傷もないとは考えにくいことです。原子炉の格納容器は3cmの鋼鉄の容器の外側に厚さ2mの鉄筋コンクリート製の外壁があり、その外に同質の厚さ1mの遮蔽外壁があります。地震の振動でこれらが損傷している可能性も考えるべきです。余震を含めて、地震は今後も起こり得るのです。
これらが破損しうるという証拠は2号機の圧力抑制室で爆発が起きたらしいことでも明らかです。1号機が水素爆発する直前に観測された直下型の揺れも、私は原子炉のどこかで爆発が起きた可能性を考えます。
地震当時運転していなかった4号機の使用済み燃料プールが破損しているという米原子力規制委員会の推測があります。ここから水蒸気が出たのは、プールに水が漏れるような損傷があり、水位が下がって使用済み燃料棒が発熱しているのだと考えられるわけです。しかし、4号機のこうした問題は水蒸気があがるまではまったく知らされていませんでした。危険なのは1号機、2号機、3号機だけだとされたのです。後に、5号機、6号機の使用済み燃料プールも発熱していることが確認されました。つまり、これらの使用済み燃料プールも破損しているわけです。
福島第1原発の3号機から黒煙が上がっています。明らかに、3号機には内部に高熱の部分があるのです。表面温度が下がったとしても、それは参考程度にしかなりません。
先日、以前にテポドン2号の性能解析でお世話になったチャールズ・ビック氏から地震と津波のお見舞いメールが届き、原発事故の話になりました。実はビック氏は、かつて原発の専門家でもあったのです。ビック氏は天井がドーム型の建屋なら水素爆発は起きないのだと言いました。ドーム部分に水を溜めておき、すべての冷却手段が機能しないときに、原子炉に水を落下させて冷やすのです。冷却に成功すれば過剰な熱はなくなり、水素が生成されることもありません。先日、中国が「我が国の原発はいざというときに水を落として冷やすから安全」と言ったのは、こういうことを意味するのです。
すでに新しい日本の原発はドーム型の建屋を持っています。ちょっと見たところでも、北海道の泊原発、鹿児島県の川内原発、愛媛県の伊方原発、福井県の高浜原発と大飯原発などがドーム型建屋を持っています。他にもあるかも知れません。もっとも、水を落下させるのにも電力が必要でしょうから、その電力が途絶することもあり得ます。今後、建設済みの原発について、こうした冷却用水の貯蔵施設を増設するかという話になるのかも知れません。
それにしても、これまでは分からなかった中央制御室が原子炉2基の中間地点で、それも海側に近い位置にあるとは驚きでした。2基の原子炉が暴走したときに、制御室が強い放射線にさらされるという想定はなかったわけです。福島第1原発に到達した津波は14mとも言われますが、その備えもありませんでした。おまけに、離れた場所に同じものをもう1つ設けるなどの工夫もなく、災害やテロに遭った場合の備えなどなきに等しかったことが明らかになりました。日本のエンジニアの思考癖からして、その程度だろうと想像はしていましたが、その通りであったことには驚きでした。
一ヶ所に多くの原子炉を集中しないということも大事です。福島第1原発はさらに2基の原子炉を増設する計画がありました。1号機から4号機までは廃炉ですし、5号機、6号機もそうなる可能性を秘めています。しかし、分散するということは、各地に原発を沢山作ることでもあります。
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