小さく報じられ続ける原発事故

2011.4.4


 福島第1原発の放射能漏れは長期にわたって続く可能性があります。事故の当初から書いていますが、情報の出し方がかなり酷い状況が続いています。

 各種メディアは電源用トンネルの海側の端にある立て坑「ピット」近くの岸壁に開いた穴を「約20cmの亀裂」と書いていますが、水漏れの様子を示す写真を見ると、「約20cmの亀裂」ではなく「約20cm四方の穴」と書くのが的確に思えてきます。亀裂は横長の細い裂け目のことを指します。亀裂という表現は東京電力と政府の表現であり、事故を小さく見せる計略としか思えません。メディアには「穴」と書き換える勇気はないのでしょうか?。

 この「穴」をコンクリートで塞ごうとして失敗し、高分子ポリマーも駄目でした。やけくそなのか、おが屑や新聞紙まで突っ込んで失敗しています。かなりの勢いで水が流出しているのは明らかです。こういう場合にミルクセメントは使えないのかが気になります。今日の調査でトレンチとピットは通じていないことが明らかになりましたが、それなら流出している水はどこから来ているのかという疑問が湧きます。

 毎日新聞が4日付けの記事「<福島第1原発>東電、ベント着手遅れ 首相『おれが話す』」で、批判されている12日の原発視察について報じています。

 これまで、この視察は菅総理を批判する方向で報じられていました。この視察が障害となって格納容器の弁を開放する作業「ベント」を遅らせたと報じたメディアがいくつかあり、これを元に国会でも質問がなされました。しかし、少し考えると、総理が行ったことでベントが遅れるような事態があるとは考えられません。緊急にやらなければならないとすれば、総理が来ていようがベントを実施しなければならないのは明白だからです。だから、私はこうした報道に疑問を感じていました。同時に、菅総理がなぜ現地視察に行ったのかも分かりませんでした。

 毎日新聞の記事によると、11日の段階から、内閣はベントを実施するように求めていました。しかし、原子力安全・保安院は「原子炉は現状では大丈夫です」と回答しました。そこで、政府は東京電力に直接ベントを要請したものの、東京電力は動きませんでした。ベントを行うと放射性物質が大気中に出てしまい、東京電力はそこを批判されると考えたのかも知れません。翌12日午前1時30分、海江田万里経済産業大臣の名前でベントの指示を出しましたが、原子力安全・保安院は作業は東京電力の判断で行われるという態度を変えませんでした。この展開に苛立った菅総理は、「ここにいても何も分からないじゃないか。行って原発の話ができるのは、おれ以外に誰がいるんだ」と午前2時に視察を決定したと、記事は書いています。午前6時すぎに総理はヘリコプターで出発し、午前10時17分にベントが実行されました。しかし、午後3時半すぎに1号機は水素爆発を起こしました。

 つまり、菅総理の視察がベントを遅らせたのではなく、主に東京電力、保安院の対応にあるということができるわけです。

 しかし、週刊ポスト4月1日号は「『原発職員は被曝で死ね』と命じた菅総理『亡国の7日間』」というタイトルを掲げ、視察はO-157で風評被害を受けたカイワレ大根を菅総理が食べてみせたのと同じパフォーマンスだと批判しました。いわゆる死守命令についても、「百歩譲って、自衛隊に『撤退などありえない』と命じたのであれば話は違う。軍人は国家の危機に命を投げ出して戦うことを責務とし、最高司令官である総理大臣の命令であれば、たとえそれが誤った判断でも従う義務を負うからだ。しかし、民間人は根本的に違う」と批判しました。これは、東京電力のような独占企業が、都合が悪くなると「民間企業だから」と責任を逃れることを許す意見に過ぎません。

 週刊現代4月2日号は東京電力社員の言として「15日には、いきなり早朝4時半に首相官邸に呼びつけられ、直後に菅首相自身が福山(哲郎)官房副長官を伴って本社に乗り込んできた。『あなたたちしかいない。ここで引いたら、東京電力は百パーセント潰れる!』という言葉には、かなりの社員が反発を感じたんじゃないですか」と書きました。非常時に、早朝に呼びつけられるのを嫌がっているのなら、それこそ東京電力には当事者能力がないと言わざるを得ません。また、菅総理が東京電力本社で言った言葉は、当たり前のことを言っただけということが分かります。こんな情報を飛ばして責任回避をする余裕が東京電力にはあるのでしょうか。

 不幸にして、菅総理の指導力はメディアが否定的に報じ、世論調査によれば、国民も支持していないようです。菅総理のファンではない私でも、これこそ問題だと考え去るを得ません。CS放送で、毎日のように東京電力や保安院の記者会見を見ていますが、彼らの危機意識のなさには呆れています。さきほどテレビで観た某専門家は、事故の処理に「10年かかるかも」と言った直後に「100年かも」と言いました。原子力専門家の発想は到底、経済上の利益にかなっていません。

 こうした原子力専門家の発想は、メディア報道において、事故の状況をより小さく表現するという形で国民に提示されています。よって、私は報道を毎日自分の頭で翻訳しながら解釈するという作業を繰り返しています。

 ところで、以前に書いた4号機の使用済み燃料プールの水位と温度が地震以降に計測されていないという読売新聞の記事ですが、最近の記者会見で、一時的に計測できない状態だったという発言がありました。これで真相が判明したと考えています。

 今朝届いたニュースレター「Nuclear Power Daily」は、ほとんどが福島第1原発関連の記事です。海外での事故への関心の高さが分かります。(ウェブ版はこちら



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