ビン・ラディンがタンカー襲撃を構想

2011.5.23


 military.comによれば、オサマ・ビン・ラディンの個人的なファイルは、昨年、石油タンカーを乗っ取り、洋上で爆破し、世界経済を揺るがして、石油価格を急騰させようとしていたことを明らかにしました。

 米当局者は、3週間前に彼が殺された住居から見つかった書類に含まれていたアイデアはアルカイダの空想に過ぎないと言いました。しかし、FBIと国土安全保障省は、警察とエネルギー業界へ秘密の警告を発しました。AP通信が入手した警告は、石油タンカーの大きさと構造に関する情報を探すアルカイダが、春と夏が船に接近するための最良の天候だと決め、内部からタンカーを爆破することは簡単で、極度の経済危機を作り出すと断定していると言いました。

 ビン・ラディンの書類は、2010年2月にテロ組織はニューヨーク、ワシントンD.C.、ロスアンゼルスとシカゴを、攻撃すべき重要都市と特定し、10回目の同時多発テロ記念日、クリスマス、建国記念日、一般教書演説の日に目をつけたたことも明らかにしました。これらの街に関係する進行中の計画、日付け、戦法を示す情報はありませんでした。

 「我々は、海外と国内の石油と天然ガス地帯に対する、いかなる特定の、差し迫ったテロ攻撃を示す兆候を知りません」と国土安全保障省の広報官、マシュー・チャンドラー(Matthew Chandler)は金曜日の声明で言いました。「しかし、2010年にはアルカイダのメンバーは、石油タンカーと洋上の商業石油インフラに継続的な関心を送っていました」。世界の洋上を移動する石油供給の半数について、業界と警備の専門家はこうした攻撃が世界市場に衝撃を与えると何年も警告してきました。テロリストがそれを輸送の要所である狭い水路で行うなら、それは特に真実です。「あなたが洋上の石油タンカーを爆破して、輸送用航路を閉鎖し始めれば、それは経済に巨大な波紋を引き起こすでしょう」と「スファングループ警備会社(the Sufan Group security firm)」の副社長で元FBI対テロリズム担当者だったドン・ボレッリ(Don Borelli)は言いました。

 しかし、たとえアルカイダが世界に石油を運ぶスーパータンカーの1隻を破壊できても、それは世界の石油供給を僅かに落ち込ませるだけだと、1983年にニューヨーク商品取引所で先物取引が始まって以来、石油貿易業者である「リッターブシュ・アンド・アソシエイツ(Ritterbusch and Associates)」の社長、ジム・リッターブッシュ(Jim Ritterbusch)は言いました。タンカーは世界が30分間に使う石油に足る、200万バレルを積めます。

 政府は、従業員に脅威の可能性を警告する無作為の審査を続け、疑わしい活動を報告する手順を確立することを奨励しました。しかし、石油市場に即時の効果はなく、船会社と警備当局者は洋上ではいつもの通りの仕事をしていると言いました。

 船会社は特に、アフリカ沿岸で増加する海賊の脅威を警告されています。2008年にソマリアの海賊はスーパータンカーのシリウススター号(Sirius Star)を捕獲し、身代金を要求しました。2007年、日本のゴールデン・ノリ号(Golden Nori)は40,000トンの起爆性の高いベンゼンを積んでハイジャックされました。諜報当局者は、テロリストが船を沖合の石油採掘装置に衝突させるか、巨大な爆弾として使うかも知れないと懸念しましたが、それは身代金を探している別の海賊の攻撃だと分かりました。2010年、マーラン・ケンタウルス号(Maran Centaurus)の身代金について議論している間に、海賊の2つのグループが銃撃戦になり、船を巨大な火の玉に変えると脅しました。

 海賊には比較的ローテクの戦略で成功が見られました。彼らは発砲して船を減速させ、スキフを船の傍に寄せます。ロープ式のハシゴや鉤を引っかけて、銃を持って乗船します。積荷が水夫が喫煙を禁じられるほど可燃性が高いので、多くの船主は武装した警備員を乗船させるのを嫌います。

 ソマリアの海賊は船を金と考えています。ビン・ラディンの住居から得られた情報は、アルカイダが脅迫の戦略を変えることに興味を持っていることを示しました。

 米国はオマーンとイランの間のホルムズ海峡のような狭い水路の中での攻撃が石油価格をすぐに高騰させると警告してきました。アジアでは、インドネシアとマレーシア、シンガポールの間にあるマラッカ海峡に懸念が集中しています。昨年、インドネシアのアルカイダ系組織は海峡の入り口に訓練基地を設け、ここでの攻撃の予想を導き、シンガポールに警告が出されました。

 「船が速く動かないのはよいことです。それは阻止するための多くの時間を与えます」と、中東で最も大きな民間警備会社「オリーブ・グループ(Olive Group)」の航程管理者、クリスピアン・クース(Crispian Cuss)は言いました。「船がアルカイダ組織に乗っ取られ、主要港へ向かったら、当局は船をどこであれ港の近くにいさせないでしょう」。

 また、military.comによれば、バラク・オバマ大統領は、テロ攻撃を止めることが必要なら、ビン・ラディンを殺したような別の秘密の急襲を命じると言いました。

 オバマ大統領は土曜日に放送されたBBCの番組「Andrew Marr Show」で、「我々はパキスタンの主権を非常に尊重しています」が「我々の仕事は米国を守ることです」と言いました。「我々は自国民や同盟国の人々を殺す計画を立てる者を許すことはできません。我々は我々が対処せずに達成される活動中の計画を許すことはできません」。


 タンカー襲撃はアクション映画向けのシナリオです。フレデリック・フォーサイスの小説「悪魔の選択」とか、映画「東京湾炎上」などでは、テロリストがタンカーを乗っ取って、要求をのまないと爆破すると政府を脅迫します。

 しかし、記事にあるように、船は速度が遅く、戦闘艦や航空機で舵を破壊するなどすれば、目的を達する前に洋上で動かなくなります。

 そこで、映画や小説では、テロリストたちは攻撃すれば乗員を殺すといって政府を脅かすという手を使います。現実の世界では、政府は最初にテロリストを排除する方法を考えます。それが無理なら船を止める方を選択します。なぜなら、そうすればテロリストの目的は達成できず、武力介入の妨げとなっていた乗員もいなくなるからです。人質が殺されるという最悪の結末にはなるものの、テロリストは特殊部隊が突入するのを待つしかなく、こういう選択肢がない状態になることは、彼らも望みません。よって、テロ計画自体も検討されなくなるわけです。

 船を乗っ取るのはよいアイデアではないのです。1970年に起きた「ぷりんす号シージャック事件」では、別の事件で警察に追われた犯人が定期旅客船を乗っ取りました。乗客は全員解放したものの、乗員は人質となりました。交渉役を命じられた船長が、犯人が警官隊と撃ち合って死ぬつもりだと言ったことを伝え、犯人の発砲により警官の多くに負傷者が出たため、逮捕は断念されました。急所を外すという命令でしたが、狙撃手が撃った弾が犯人の左胸に命中し、犯人は病院で死亡しました。

 船は周囲に隠れる場所がなく、立て篭もったら逃げることができないことから、自爆型のテロ攻撃にしかなりません。海賊がやっているように、小型船で乗り込み、携帯した爆薬を石油タンクに仕掛けて爆発させれば、重油を燃やすことはできます。日本の石油タンカー、エム・スター号に対するテロ攻撃では、自爆ボートが使われたと考えられていますが、船体がへこんだだけで、石油タンクは破壊できないことが分かっただけでした。アルカイダが言うとおり、石油タンカーは内部から爆破する必要があります。しかし、石油市場に影響を及ぼすだけのテロ攻撃を行うには、かなりの数の攻撃を繰り返す必要があるでしょう。

 こうした成功率の低そうなテロ攻撃をビン・ラディンが構想していたという点は、彼が割と古いタイプのテロリストであることを想像させます。知的ではない、力ずくの自己顕示型のテロ攻撃を好むのです。彼に対する脅威は少し薄れた、意外と時代遅れの人だったのかも知れないという印象です。


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