カダフィ大佐が拡声器を通して演説

2011.6.19


 military.comによれば、リビアのカダフィ大佐がトリポリの緑の広場でデモをしている数千人の人たちに、拡声器を通じて電話で演説をしました。

 「NATO軍は敗北します」と彼はしわがれた、扇動的な声で叫びました。「彼らは敗北して引き揚げます」。

 熱烈な演説の中で、カダフィ大佐は唾を吐く音を立て、彼を追放するために戦う反政府派、カダフィから離反した政治家、兵士を臆病者と呼びました。彼は反政府派を、特にアラブ世界で強烈な蔑称「犬の息子(sons of dogs)」と呼びました。さらに、彼は反政府派の首都、ベンガジの人たちを「カタールのロバたち、湾岸諸国のロバたち」からもらった金で生きているといいました。


 記事の残りは省略しました。すでに知られていることや、特に目新しくないことが多いからです。

 昼間の爆撃が増えてきたために、トリポリの士気を高めようとしてカダフィ大佐が演説を行いました。内容はほとんどが中傷ですが、NATO軍が敗北するという部分には、紛争を長期化させてNATO軍をまいらせようとする彼の戦略が表現されていると感じます。NATO軍の方は、自分たちが勝っていると言っています。カダフィは政治的にNATO軍を敗北させることを考えています。つまり、NATO諸国の政治家がカダフィを追放するのは無理だと考え、NATO軍が介入の度合いを減らすとか、撤退することを狙っているわけです。NATO軍の主張は戦術的な評価で、前進している反政府派を有利とします。言っています。こんな風に戦争の評価は視点によって正反対にもなります。

 もう少し、カダフィ軍と反政府派の戦力に関する情報があれば戦況を予測できるのですが、現在手に入る情報だけでは確実なことは言えません。しかし、カダフィ軍の戦力に余力がないことは確かで、各地で反政府派が活動を激化していることも確実です。反政府派が補給品を受け取れるのに対して、カダフィ軍は海上封鎖でそれができません。ミスラタの防衛線を破られたことからも、先は長いものの、いずれは反政府派はトリポリへ入るでしょう。

 そうなれば、リビアを離れないと宣言していたカダフィ大佐は行き場を失います。トリポリを離れれば、彼の政治的な公約は破られ、存在意義を失うのです。つまり、自分の決意によって、自分が倒れるということです。トリポリを脱出して各地を逃げ回っても、すでに威厳は失われ、追っ手もかけられます。外国に逃げても、国際刑事裁判所が彼を起訴する可能性が高い以上、逃げる場所は限られてしまいます。

 しかし、NATO軍がいつまでリビア介入を続けられるかという問題があります。もちろん、NATO加盟国はリビア介入を失敗に終わらせる気はありませんが、積極的な介入も躊躇しています。様子を見ながら介入の強度を調整しているつもりでしょうが、カダフィ大佐は意外としぶとく粘っています。もう1ヶ月もすれば、カダフィ軍が全体的に崩壊するのではないかという漠然とした予測はできます。でも、確実なことは現段階では断言できません。



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