ビン・ラディン殺害の影響は不透明

2011.6.3


 military.comによれば、ロンドンの王立統合防衛・安全保障研究所(Royal United Services Institute)で、統合参謀本部議長に指名された米陸軍参謀長マーティン・デンプシー大将(Gen. Martin Dempsey)が、アメリカは未だにオサマ・ビン・ラディンの死による長期的な意味合いを理解していないと言いました。

 、デンプシー大将は軍指導層は未だにアルカイダの能力と将来の脅威へにあり得る影響を評価中だと言いました。デンプシー大将は、先月のビン・ラディン殺害は「アルカイダの指導者を確保し、組織に困難を作り出した点では大いなる瞬間」だったと言いました。しかし、デンプシー大将は、彼とその他の者たちは「特別な彼の死が何を意味して、将来に何を意味するかを、未だに理解に到達していません」と言いました。

 デンプシー大将は、アメリカ、イギリス、中国、ブラジルから来た軍指導者の聴衆に、中東から北アフリカにわたるアラブ諸国の反乱が世界に広範と関係を形成するかは依然として不透明だと言いました。「私は、我々の想像力は、それが何を意味するかもしれないことの端を触ったばかりだと考えます」「それが狭い中東だけでなく、世界全般にどう影響するかです」と言いました。

 彼は軍指導者への教訓は、自分たちの軍隊を急速に変化する出来事、最近の世界の歴史を反映しない展開に対応するように形作ることだと言いました。エジプトのホスニ・ムバラク元大統領(President Hosni Mubarak)に言及し、デンプシー大将は「ムバラク大統領を倒したのは、我々がアラブの春と呼ぶものを立ち上げた、フェイスブックでありソーシャルネットワーク、指導者のいない組織体でした。物事は過去に比べて極めて早く起こり得ます」。


 アフガニスタンでの活動に関する話の部分は短くて、意図がつかみにくいので省略しました。

 陸軍の最高位の人物が、先の見通しが分からないと言うのは不安ですが、これが正直なところだろうと思います。

 ビン・ラディンが今後も偶像視され、英雄としてイスラム教徒の間にシンパを生み続ければ、殺害は誤りだったということになります。前にも書きましたが、彼を捕らえて裁判にかける方法もありました。しかし、ビン・ラディンは以前からテロリストとして米政府の殺害リストに入れられており、オバマ政権があえてそれを覆すのは困難でした。過去の事例からすると、ビン・ラディンへの尊敬は継続し、テロ志願者を生み続けると考えられます。

 一方で、アラブの春による民主化への大きな動きは、その足かせとなるかもしれません。アルカイダは当初、各国で起きた反乱は、既存の政権を倒すという自分たちの目標に合致していると考えました。しかし、実際には穏健派による独裁者の妥当運動であり、アルカイダとは相容れないことが分かってきました。穏健派は過激主義のアルカイダの影響力を排除しようとするでしょう。デンプシー大将が心配するほど、この変動は世界の不安定材料にはならないと思われます。

 デンプシー大将が言う、インターネットを媒体とした素早い政治的な変化は適切な分析と思いました。しかし、各国の政府や軍隊の現実の動きは、過去の教訓に縛られ、動きが鈍いと感じています。NATO軍のリビア介入のやり方を私は何度も批判してきました。新しい動きが起きているのに、対応は冷戦中のやり方みたいです。腰は重いし、都合が悪い部分は民間軍事会社に任せるのでは、責任感もやる気も感じられません。それでも、先進国としての格好だけはつけたいという印象しかありません。これでは目の前の問題を解決できません。

 一部の過激派がテロに走り、北アフリカや中東は穏健派が増え、その中でさまざまな事件が起きると推測するのが妥当なところです。大きく世界の潮流をとらえ、どう対応すればよいかを考えておくことが重要なのです。



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