カダフィの息子を狙ったテロ攻撃が失敗?

2011.7.25
追加 同日 17:20


 military.comによれば、リビアの反政府派広報官は、ムアマール・カダフィ大佐(Moammar Gadhafi)が権力を放棄すればリビア国内に留まってよいという西欧で固まりつつあるコンセンサスにも関わらず、大佐が国際司法裁判所の法廷に立つことを望んでいます。

 NATO軍のジェット機は土曜の早朝に、トリポリのバブ・アル・アジジヤ(Bab al-Aziziyah)のカダフィの司令部を攻撃しました。現地時間2時30分頃、数個の明るい閃光と爆発音が闇を裂き、ジェットの音が上空を旋回するのが聞かれました。

 NATO軍の航空機は金曜日、ブレガ近くの施設を攻撃し、6人の警備兵を殺したとリビア政府は言いました。工場は戦略的石油施設の南10kmに位置し、リビア大人工河川灌漑プロジェクト(the Great Man Made River irrigation project.)の一環として、地下帯水層からの水を輸送する巨大なパイプを形成します。「施設の主要部分が損傷を受けました」とプロジェクトを運営する会社の社長、アブデル・ハキム・エル・シュアディ(Abdel-Hakim el-Shwehdy)は言いました。「将来のプロジェクトに大きな妨げがあるかもしれません」。政府統計によれば、少なくとも70%のリビア人がこの計画で沿岸部にパイプで運んだ水で生存しています。「ほとんどのリビア人はリビア大人工河川からの水を飲んでいます。ほとんどのリビアの土地は水を使って工作されます。この不可欠なプロジェクトに対するどのような危害も、リビア人すべてに対する危害です」と政府広報官、ムーサ・イブラヒム(Moussa Ibrahim)は警告しました。「我々はこれがNATO軍の攻撃のとても危険な展開だと考えます」。

 ローマで反政府広報官、アリ・アル・イサウイ(Ali al-Issawi )はイタリアのフランコ・フラティーニ外務大臣(Foreign Minister Franco Frattini)に会いました。いわゆる「カダフィを国内に据え置くオプション」について、アル・イサウイは「二案の間に矛盾はありません」と言いました。「最初の原則はカダフィが退陣するということです」「詳細はその後で議論できます」「我々はカダフィを国際刑事裁判所へ連れて行きたいのです」。

 フラティーニ外務大臣はリビアがそうした逮捕状による逮捕の義務を負う合意に調印した国ではない点を指摘し、「(カダフィを)刑事免責にするのは間違いでしょうが、カダフィの運命を決めるのはリビア人でなければなりません」と言いました。決定が何であれ、「我々はそれを尊重します」と外務大臣は付け加えました。

 アル・イサウイは木曜日に、カダフィの息子、サイム・アル・イスラム(Saif al-Islam)を含む政権の数名のメンバーがいたトリポリホテルで起きた爆発は、市内から発射されたロケットによるものだったと言いました。「これはトリポリ市内で人々が(カダフィに対抗して)組織を作っているシグナルです」。反政府派広報官は、攻撃がカダフィの側近、アブドラ・マンスール(Abdullah Mansour)に銃傷を負わせたと言いました。トリポリの反政府グループ「the Free Generation Movement」は声明で、3発の携帯式ロケット弾がホテルの攻撃で使われたと言いました。政府広報官、イブラヒムはいかなる攻撃が起きたことも否定し、事故が反政府派によってプロパガンダに転用されただけだと言いました。「昨日、攻撃はまったくなく、シェラトンの近くで(料理用の)ガスボンベが爆発しました」「台所の爆発が(反政府派の)士気を吊り上げるために、即座に攻撃に転用されたのです」。

 イタリアへの主要な石油と天然ガスの輸出国であるリビアは、内戦前にローマの最大の取引相手でした。アル・イサウイはフラティーニ外務大臣、将来、その地位を回復することを約束しました。「我々はすべてのイタリア企業をリビアで活動を再開するように促します」とアル・イサウイは記者に言いました。完全な活動に復帰するのを待ちきれないのは、イタリアのエネルギー会社「Eni」です。イタリアがNATO軍の攻撃に参加しているため、この会社はリビア政府が国内での活動を禁止しました。フラティーニ外務大臣は、いくつかのグッドニュースを反政府派の政治家に与えました。数日の内に、現金で3億5千万ユーロ(5億300万ドル)と石油がベンガジへ届けられます。一方、イタリアとその他の国は国連が凍結されたカダフィ政権の資産を解除するのを待っています。


 飲料水のパイプラインが破壊された件は、NATO軍の攻撃を躊躇させたり、政府軍の武器をパイプライン付近に隠すための偽情報かも知れません。リビア国民を守るのがNATO軍の目的ですが、飲料水は生活必需品であり、上下水道の不備が伝染病の蔓延を招くのは常識です。カダフィ政権はそこを狙っているかもしれません。NATO軍が施設の近くを攻撃した場合でも、施設が破壊されたと言えば、NATO軍を慌てさせることができます。もちろん、NATO軍は攻撃の結果を評価して、間違いないことを確認できます。

 反政府派からカダフィ大佐を裁判にかけたいという意志がまた示されました。これは当然のことです。逆に先進国から、裁判を回避する案が出ているのが興味深いところです。
 
 記事で一番気になるのは、サイム・アル・イスラムを狙ったというテロ攻撃です。農薬で作った爆弾ではなく、携帯式ロケット弾が使われたのは、軍の関与を疑わせます。声明が本当なら、トリポリにいる反政府派の存在を裏付けることになります(過去の記事はこちら)。カダフィ大佐は、どこに裏切り者がいるか分からない状態になってきました。攻撃は失敗でも、カダフィの行動や考えに与える影響は大きいものがあります。

 このことがカダフィ政権にどんな影響を与えるに注目する必要があります。影響があるなら、数日中には何らかの変化が見えるのではないかと思われます。

 リビア内乱は行き詰まったと書くメディアが多いのですが、私は進展は遅いものの、ゆっくりと前進していると考えます。



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