アブド上等兵にテロ攻撃は可能だったか?

2011.7.31


 military.comが、爆発物を持っていて逮捕されたナセル・アブド上等兵(Pfc. Naser Abdo)の、かなり詳しい続報を報じました。

 アブド上等兵は良心的兵役拒否と除隊を嘆願した時、フォート・フッド基地で13人を殺したイスラム教の兵士を非難しました。そうした行為は「私がイスラム教徒として信じるものに逆行します」と彼は書きました。

 一年未満で、当局者はアブド上等兵がバックパックに入れ、フォート・フッド基地の正門から3マイルの距離にあって、彼が逮捕されたモーテルに隠した爆弾で、フォート・フッド基地でもう一つの攻撃を行おうとしたと認めたと言いました。

 アブド上等兵はAP通信が入手した彼が書いた文章の中で、2009年の銃撃事件を遺憾に思い、戦地派遣の見込みに直面して彼の信心と奮闘する信心深い歩兵を表現しています。彼は仲間からの軽蔑を感じていました。「全般的に、良心的な異議のために、イスラム教徒として私は私が自分の軍の任務を実行できないと感じます」と、兵役拒否の申請書に彼は書きました。「従って、私は軍隊から切り離されない限り、私は危険にさらされた兵士のままです」「この場合、私は私の部隊、私の陸軍、私の神への任務を損ねます」。

 アブド上等兵は今年、良心的兵役拒否を承認されましたが、彼が使うコンピューターから34枚の児童ポルノ写真が見つかって軍に起訴され、彼の除隊は保留にされていました。7月4日から、彼はケンタッキー州のフォート・キャンベル基地(Fort Campbell)から無許可離隊をしていました。

 店を所有する会社によれば、7月3日、アブド上等兵はケンタッキーの基地に近い店で銃を買おうとしました。アブド上等兵は一週間後に、AP通信の記者に、彼は安全が心配で、身を守るために銃を買おうと思っているが、まだそうしていないと言いました。

 キルイーン警察は、二ダル・ハサン少佐が2009年の攻撃で使った拳銃を買ったのと同じ銃砲店「Guns Galore LLC」から火曜日に事件を知らされたと言いました。店員のグレッグ・エーベルト(Greg Ebert)はアブド上等兵がタクシーでやって来て、無煙火薬6ポンド、散弾銃の弾薬3箱、セミオートマチック拳銃の弾倉1個を買ったと言いました。

 エーベルトは彼と彼の同僚は「アブドの全体的な態度が不快で、彼が買おうとしている物をまったく知らなかったという事実により」通報したと言いました。

 電子メールで送られ、AP通信が入手した陸軍の警報文によると、キルイーン警察は、アブド上等兵がモーテルから乗車して、彼がフォート・フッド基地の部隊記章がついた軍服を買った陸軍の放出品店を訪れたことをタクシー会社から知りました。

 捜査員は武器と火薬を含む「爆弾を作る部品と特定できる物品」をアブドのモーテルの部屋から見つけたと、FBI広報官、エリック・ベーシス(Erik Vasys)は言いました。FBIはアブドを爆弾製造の部品を所持した罪で起訴する予定です。

 アブドの弁護士、ジェームズ・ブラナム(James Branum)は、数週間、アブドの消息がなかったと言いました。「彼に接触することを熱望していました」。

 陸軍の警報文は、アブドが「バックパックの中に大量の弾薬、武器、爆弾を所持している」と言い、フォート・フッド基地を攻撃する計画だったと尋問で認めたと言いました。

 捜査を説明した米当局者によると、軍の犯罪捜査部は、連邦統合テロリズム・タスクフォース(the federal Joint Terrorism Task Force)と共に、以前、アブドが語学授業を受けた時に、特定されていない反米的なコメントを出したあとで調査をしました。

 匿名を希望した当局者は、その時点では、軍もタスクフォースも、アブドが攻撃を計画していることを示すものは何も見つけられなかったと言いました。

 2009年のフォート・フッド基地の乱射事件の最初の記念日が近づくと、アブドはAP通信に、フォート・ベニング基地(Fort Benning)での基礎訓練と絶え間ない宗教上の嫌がらせを経験したあとで、彼がどのように「普通ではないイスラム教徒」になったかを述べた文章を送りました。

 「基礎訓練の間、頻繁に、教官はイスラム教を侮辱し、イスラム教徒を侮辱しました」と彼は書きました。結局、彼は孤立し、人との関わりを止めました。

 アブド上等兵は、フォート・フッド基地から170マイル離れたダラス近郊のガーランド(Garland)で育ちました。文章の中で、彼は母親はキリスト教徒で父親はイスラム教徒、17歳に彼はイスラム教に入信すると決めたと書きました。

 「最初にイスラム教徒になると決めた時、イスラム教が私に何を求めるかを、そのために何を犠牲にするかを学ぼうとしているかを、ほとんど知りませんでした」と彼は書きました。

 アブドは、最初の勤務地に到着した後で、人生はよいものになりましたが、戦地派遣が近づくと、「戦争に行くことが、イスラム教徒として正しいことかどうか」を学ぶために、より密接にイスラム教を学んだと言いました。

 「私は神だけが戦争を正当化でき、人間にはできないことを理解し、信じるようになりました」「それは私の良心は私が派遣されるのを許さないと理解した時です」。

 彼の申請は2010年6月に出されました。アブド上等兵は、申請が認められたら、「ダラスのイスラム社会にまた参加して、『アラーの道』で少し時間を過ごすのを楽しみにしました」と書きました。彼は他の州への旅行し、「イスラム教国の信仰を蘇らせる」ためにモスクで眠るために数日か数ヶ月をついやしたいと言いました。

 陸軍の良心的兵役拒否審査委員会は彼の申請を却下しましたが、陸軍審査委員部の副部長は今年、彼を良心的兵役拒否者として除隊させるよう勧告しました。5月13日、彼は児童ポルノ写真を所持していて起訴された時、彼の除隊は延期されました。

 フォート・キャンベル基地の民間人広報官、ボブ・ジェンキンス(Bob Jenkins)は、11月以来、アブドはポルノ写真の捜査に気がついていたと言いました。

 アブドは7月3日にフォート・キャンベル基地に近い店「Quantico Tactical」から銃を買おうとしたと、チェーン店7店舗を持つ社長、デビッド・ヘンズレー(David Hensley)は言いました。

 ヘンズレーは、アブドはこの日に2回来店したと言いました。最初は、質問をしたあとで彼は帰りました。2回目は、彼は拳銃を買おうとしました。

 「彼は私たちのスタッフに警戒させる振る舞いをして、その行為により、スタッフは銃を売るのを断りました」と彼は言いました。

 AP通信は、アブドが良心的兵役拒否を申請したと報じられた時、昨年、彼にインタビューするメディアの中にいました。7月12日、アブドは以前にインタビューしたAP通信の記者に接触し、彼が無許可離隊をして、自己防衛のために銃を買おうと考えていると言いました。アブドは、銃砲店に名前とその他の情報を知らせる必要があるのを知ったので、まだそうしていないと言いました。

 AP通信は7月14日に陸軍の民間人広報官に、この会話の内容を説明しました。翌日、陸軍の捜査官が接触した時、AP通信はアブドの居場所は知らないと言い、彼がかけてきた電話番号を提供しました。


 アブドの買い物の内容からは、テロ攻撃は失敗する可能性の方が高かったように思えます。

 無煙火薬は自分で好みの弾を作るために使い、射撃を沢山する者が買うものです。6ポンドは約2.7kgで、テロ攻撃に使えるほど大量とは言えません。

 散弾銃の弾薬3箱は、散弾の直径を表す号数が不明ですが、多分、彼が弾薬75発を買ったことを意味します。鳥撃ちやクレー射撃の散弾銃の弾薬は一箱25発入りです。大型獣用の散弾の粒が大きいものは、大抵は一箱10発です。競技人口が多いクレー射撃のトラップ射撃なら、1ラウンドに25枚のクレーを飛ばして、それに2発発砲できるので、1ラウンドに使う弾数は25〜50発です。75発という数は特に多くはありません。

 セミオートマチック拳銃の弾倉1個は、使途が不明です。拳銃が買えなかったのに弾倉を買っても、意味はありません。投げて誰かにぶつけることはできそうです。

 散弾の弾薬をほぐして、無煙火薬と混ぜたとしても、総重量は3kgを超えないでしょう。爆発力を高めるために固い容器いっぱいに火薬を入れ、殺傷力を高めるために、弾から取った散弾も入れたとしても、爆発させるには雷管が必要です。導火線で点火すると、爆発というよりは、勢いよく燃える感じにしかなりませんから、雷管で高温と圧力を加える必要があります。確実性を考えると、銃用の雷管ではなく、ダイナマイト用のがよいでしょう。銃用の雷管は銃砲店で手に入りますが、ダイナマイト用のは業者向けで、市販はしていません。

 多分、彼の爆弾は、大量殺戮を可能にするほど強力にはなりません。運がよければ、何人かを殺傷できるだけです。

 さらに、時限装置のタイマーや雷管のための電池などが要ります。しかし、これらが押収されたとは、記事には書いてありません。彼が買ったものは、普通の銃砲愛好家なら持っていてもおかしくないものです。

 フォート・フッド基地の兵士の軍服を買ったのは、すでに彼が無許可離隊として、自分の部隊では知られているからでしょう。しかし、身分証を持っていても、上等兵が一人で他の部隊の中に入ろうとしたら目立ちそうです。米軍の身分証には所属部隊も書いてあるでしょう。なのに、フォート・フッド基地の軍服を着ていたら変です。営門の兵士がそこに気がついたら終わりです。すでに彼が手配されていたら、身分証を見せた時点で捕まったかも知れません。事実、軍は彼が銃を買おうとしていると知り、警告文を出していました。

 つまり、彼のテロ計画は実行できた可能性はあるものの、かなり初歩的、空想的だったと言えます。時事通信の「爆弾材料所持で米兵逮捕=陸軍基地でテロ計画か—米南部」という記事は、説明不足で無用に危機を煽るばかりです。

 アブドは善良ながらも、性的には未熟で、不安を抱えた人物であることが想像されます。そうした人物を軍隊が受け入れないのは、特段に不思議ではありません。軍隊というところは、現実世界での行動力が必要なところで、個人の内面は無視されがちです。精神が安定していて、命じたことを確実にこなす人が信頼されるのです。よって、訓練教官が「イスラム野郎を殺せ!」と檄を飛ばしても、特に不思議ではありません。兵士への暴力はおろか、救護などの必要な時以外に触ることすら禁じられても、イスラム過激派と戦う時代には、こんなことはあり得るのです。

 多分、アブドは事前に適切なアドバイスを受ける機会に恵まれていたら、こんな事件は起こさなかったでしょう。もう少し我慢すれば除隊でき、まったく別の人生を切り開くことができたはずです。記者に接触したのは、そういうサインだったかも知れません。しかし、軍隊というところは閉じた社会で、その中にいると世界はすべて同じにしか思えなくなります。その人にとって軍隊が軍事が地獄なら、世界はすべてが地獄であり、逃れる為には何でもやるという気になるのです。

 ブラナム弁護士がアブドを心配している様子なのは、彼の性格を知る者であるためと想像します。多分、彼は良心的兵役拒否の申請を出す時にアブドが依頼した、軍事裁判専門の弁護士でしょう。彼はアブドが事件を起こす前に捕まって安堵しているはずです。反抗後では、弁護が極度に難しいからです。この段階なら、まだ彼にやり直すチャンスを作ってやる可能性があります。アブドが短気を起こして、ブラナム弁護士を拒絶しないことを期待します。

 米軍は事件を教訓として、訓練教官が兵士に用いる暴力だけでなく、言葉も規制すべきです。イスラム教徒を侮辱する言葉は用いなくても訓練はできます。

 児童ポルノ写真の件は、彼が異議を申し立てないので事実なのでしょうが、米軍のイスラム教徒への嫌がらせ連想させました。なぜ、彼のコンピュータに児童ポルノ写真があるのかを軍が知ったのかが記事に書かれていないので、疑問が残ります。そして、起訴されたことが、この事件の直接的な原因である可能性が高いと考えられます。

 ところで、AP通信は取材相手の情報を米軍に通報したので、その点の説明があるのは好ましいことです。



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