米陸軍の救護ヘリ運用は妥当か?

2012.1.19
修正 2012.1.20 19:10


 military.comによれば、米陸軍はアフガニスタンで赤十字の表記をつけた非武装の救護ヘリコプターが他のヘリコプターよりも多く攻撃されることがあることには証拠がないと言い、連邦議員からの批判に対して、その医療方針を擁護しました。この記事は19日に掲載したあとで元記事が変更されたので、改めて訳し直しました。

 共和党の下院軍事委員会の高官、トッド・アキン下院議員(Rep. Todd Akin)は、レオン・パネッタ国防長官(Defense Secretary Leon Panetta)への書簡の中で、救護ヘリが武装した護衛が来るのを待つ間に死亡した兵士の話を引用し、救護任務の陸軍の取り扱い方について疑問を呈し、米空軍と英軍が武装した非表記のヘリを救助任務に使っていることを考え、陸軍に救護ヘリを武装させるか、標章を取り去るかするよう要請しました(アキン議員の書簡はこちら)。

 陸軍の広報官、ビル・レイヤー(Bill Layer)は、陸軍当局は航空医療を2008年に見直し、変更する必要はないと結論したと言いました。アフガンの指揮官も変更を要請していません。救護ヘリの想定された脆弱さについては、他者以上に標的になってはないとしました。「アフガンの敵はどの米軍や同盟軍の航空機も攻撃します。我々の救護ヘリが他の航空機よりも多く攻撃を受けているという証拠はありません」。

 陸軍には、救護ヘリを非武装にすることに合理的、実際的な理由があります。レイヤー広報官は「救護機はジュネーブ条約の精神と意図の範囲内で、航空救急ともっぱら医療救助の基盤として活動するように特化されています」「他の米軍、他の陸軍のヘリは医療任務に使われますが、それらの主要な機能は、赤十字を取り外し、他の陸軍ヘリのように武装して、非医療任務に向け直されることを前提としています。

 医療部隊のUH-60「ブラックホーク」を武装することは、患者と装備品のための場所をより狭くすることを意味すると、レイヤー広報官は言いました。「我々の救急ヘリを武装することは、航空機の活動能力に重大な影響を与えるでしょう。それには、機関銃、人員と弾薬のための追加の重量が必要です。こうした追加重量は揚力を減らすためにアフガンでより高い高度で活動するための能力を損ないます。陸軍の救護ヘリは担架に乗せた急患4人を乗せられますが、武器が追加されると患者は2人に減ります。もっと多くの救護ヘリが必要になります。追加重量は航空機の速度と航続距離にも影響し、すでに多く展開され、低密度になった資産である救護機をもっと多く必要とすることになります」。

 アキン下院議員が書簡に引用した兵士、チャズレイ・クラーク技術兵(Spc. Chazray Clark)の事件は、軍当局は救護ヘリの対応の遅れは彼の死に関係がないと結論しました。しかし、「現在定められる陸軍の方針がクラーク技術兵がカンダハル飛行場の病院へ転送するのを大きく遅らせたという事実は残ります。救護ヘリが武装して、(着陸地点で)待機していれば、クラーク技術兵をカンダハル飛行場へ30分早く運び、彼の命を救ったのではありませんか?」。 陸軍当局は、特定のケースにはコメントしませんが、今日の兵士が受ける対応と治療は過去最高だと主張します。ジョン・マクヒュー陸軍長官(Army Secretary John McHugh)はチャック・グラスリー上院議員(Sen. Chuck Grassley)への書簡の中で、アフガンの負傷兵の生存率が92%であると書きました。この書簡は救護問題について大々的に書いているブロガーのマイケル・ヨン(Michael Yon)によって公表されました。

 ヨンは陸軍の非武装・表記つきの救護ヘリを、敵に非武装であることを教えるのは茶番だと厳しく批判します。彼は、十字軍との関連から、赤十字のシンボルは特にアフガン人の感情を逆撫でするとも言いました。

 記事は以上ですが、アキン下院議員の書簡は、この記事を理解する上で重要なので、簡単に紹介します。

 2011年9月18日、クラーク技術兵はパトロール中にIEDにより重傷を負いました。仲間が彼を着陸地点へ運んだ時に彼は生きており、数分で来られるパサブ(Pasab)前線基地か、さらに遠いカンダハル飛行場の救護ヘリを待ちました。陸軍の方針では、犠牲者が「危険高」に指定された場所にいる場合、救護ヘリは武装護衛を待たなければならず、彼がカンダハル飛行場に到着するのに30分間かかりました。中央軍の分析によれば、遅れは上空の護衛が現在の任務を離れられず、AH-60の要員が離陸して、救護ヘリに合流するよう通知されなかったためでした。


 アキン下院議員の質問は議員として当然ですし、軍事問題の微妙な部分を突いていると私は思います。

 クラーク技術兵の死を考えるには、これらの情報だけでは不十分です。しかし、陸軍が彼の死は搬送の遅れのためではないと考えたのなら、それは衛生兵の証言を分析した結果だろうと思われます。数分でヘリが到着しても、クラーク技術兵は助からなかったということです。戦場でやる治療は、傷口を大きな包帯で包み、後方の病院施設へ渡すことです。止血はしますが、消毒などはせずに、それらは病院に任せます。点滴やモルヒネなどの投与も必要に応じて行われます。この処置では間に合わないほどの重傷者は戦場で命を落とすことになります。以上を結論するには、陸軍が検証した内容も知る必要がありますから、ここでは赤十字の表示をつけた非武装ヘリコプターについて考えます。

 赤十字の表示のないヘリコプターで負傷者を運んではいけないという理由はありません。赤十字のマークをつけた航空機、車両、船舶は攻撃してはいけないという規則があるだけです。確かに、表示をすることで非武装であることを暴露し、敵の攻撃を引き付けるかも知れません。しかし、表示のない航空機、車両、船舶は、逆に武装していることを教えているわけですから、やはり攻撃の対象となります。救護ヘリだから攻撃を受けやすいかと言われると、それは疑問です。

 米陸軍は大規模な軍隊を展開する任務を中心としており、その中では、救護任務には医療部隊があたるのは自然なことです。多くの負傷者が出やすい環境では、救護ヘリは搬送だけを行い、他の部隊が救護ヘリを守る形にした方が考えやすいからです。アキン議員も書簡で書いていますが、アフガンではヘリコプターが不足しています。この上、余計にヘリコプターを必要とする形に規則を変えるべきとは思えません。

 さらに言えば、そういう戦場で戦うと決意したのは、アメリカ自身だということを思い出すべきです。それを戦場の環境のせいにして、制限を緩めることは、軍隊の堕落につながる危険があります。「敵が悪いから」という話は、交戦規定に関してもいわれることです。タリバンは女性や子供を自分たちが陣取る建物の外に配置して、米兵が攻撃できないようにします。非武装の者を攻撃するなという規則は、女性や子供が武装勢力のために弾薬を運ぶのを止められません。さらに、装備品がやり玉にあがることもありますが、大抵の場合、武器を改良しても事態は好転しません。なによりも、根幹の戦略が正しくないと、望ましい結果は出ないものなのです。我々は安直に戦争をしようと考える前に、その戦争がどう展開するのかを、本当に真剣に分析する必要があります。残念ながら、それが理想的な形で行われることは少なく、これだけの犠牲を払った現在でも、共和党のロムニー大統領候補者のように「タリバンを殺せ」などと放言する人に大衆は拍手をするものなのです。戦争はギャンブルです。汚いものです。それを凌駕してあまりある器量を自分が持っていると確信できない場合は、戦争をしようなどとは思うべきではありません。簡単に言えば、同時多発テロくらいで理性を失って、鼻血を出すような者は、戦争を語るべきではないということです。戦争を決断するのなら、最悪のことも想定し、起こり得ることは我慢することです。



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