陸自内に海兵隊創設論の愚

2012.10.28


 朝日新聞デジタルが「陸自、進む『海兵隊化構想』 装備に課題、省内に疑問も」といった記事を報じました。

 要旨は、尖閣諸島をめぐる日中の緊張を前提に、陸上自衛隊に上陸作戦を担う「海兵隊」の機能を持たせようとする構想が進んでいるということです。

 記事は「装備に課題」と言いながら、どこに問題があるのかは書いていません。防衛省内に島の争奪戦は現実性に乏しいという認識があることだけが書かれています。

 記事の不備もさることながら、こういう構想を提唱する人たちの頭も問題です。この案は、フジテレビの番組『新報道2001』で、石破茂と安倍晋三が主張したものです。

 まず、言葉の使い方から明確にやって欲しいものです。提唱者たちは「海兵隊」は、どんな部隊だと思っているのでしょう。一般的には、常に海軍艦艇に乗り込み、基地警備や陸上戦闘を行うのが海兵隊です。主に上陸作戦を担う部隊が海兵隊だと説明する国語辞書もあり、この説明は間違ってはいません。そういう国もあるからです。しかし、日本の歴史上、術語は前者の意味で使われていて、幕末から明治にかけて「海兵隊」という名称の部隊が、幕府と明治政府の両方に存在していました。その後、「海軍陸戦隊」が創設されますが、上陸作戦はあまりやっていませんし、「海兵隊」とは区別されていました。基本的に旧軍は強襲上陸はあまりやっていません。だから、陸自内にそれを設けるのなら「沿岸強襲隊」といった別の名称が相応しいのです。

 さらに、すでに西部方面普通科連隊のような離島を担当する部隊があるのに、さらに海兵隊を作る意味が分かりません。離島防衛が重要だというのなら、こうした部隊を強化すればよいだけです。

 装備に課題とは、多分、防衛省内から出た声を書いたのでしょう。確かに、現在は本格的な上陸作戦をやるまでの用意は自衛隊にないかも知れません。しかし、むしろ作戦の要諦を定める方が先決で、重要です。陸自だけでなく、海自、空自を含めた作戦運用を定めなければ、装備があっても動けません。上陸作戦は艦艇が洋上に拠点を作り、そこから部隊を発進させる形を取ります。水面下では、敵の潜水艦が接近しないように、海自の潜水艦が待機しています。こういう連携ができるように、作戦の要諦を定めなければならないのです。先に作戦論があって、そこから装備が導き出されなければなりません。

 さらに、「海兵隊」という言葉が出てきたことは、この発想が米軍を真似すれば日本は強くなれるという安直で、無知な考えに基盤を置いていないかと、私は強く疑っています。

 以前から私は書いていますが、日本がアメリカの真似をするのは、自分の首を絞めるようなものです。国土の広さと経済力を軍事上の強みにできるアメリカと日本は違います。似たような道を選べば安心だと考えるのは、考察のなさを示しています。最小限の努力で必要なものを手に入れる狡猾さを認めなければ、私たちは多くを失います。

 尖閣諸島のような小さな無人島は上陸されても、洋上封鎖だけで敵を全滅できるのです。中国海軍は海自の包囲網を突破できません。軍事的に、魚釣島にホバークラフトで上陸することは可能でしょう。その後は潜んでいる敵兵と地上戦を行うことになります。そこで貴重な隊員を失うよりは、島を包囲して、補給を行えないようにした方が遥かに犠牲は少ないのです。

 また、日本の領土を占領したことで、中国は侵略国となり、国連で面目を失います。拒否権を持つ理事国が侵略行為を行うことが、国際社会にどれだけ大きな影響を与えるかということです。地下資源のためだけに、中国がそんなミスをするとは、私は考えません。逆に見れば、できないからこそ、中国は各地でデモ騒ぎを演出してみせたのです。

 自民党は民主党は安全保障政策の素人で、防衛を任せられないと言います。しかし、自民党も素人で、彼らにも任せたくないというのが私の見方です。そもそも、日本の政党に防衛を安心して任せられるところはありません。国民の意識も低く、強者に見える者に支配されたがることは、小泉内閣時の世論が証明しました。マスコミも同じです。今後の政局の動きで、自民党が政権をとれば、一気にこういう誤った戦略が採用される危険があり、また、焦る民主党が同じ誤りを犯す危険があります。私たちは好ましくない時代に差しかかっている恐れを認識すべきです。これこそが、本当の日本の危機だと、私は考えています。



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