シリアのトルコ領内砲撃で6人が死亡

2012.10.4


 BBCによれば、シリアがトルコ国境の町で5人を殺した後、トルコの砲兵隊がシリア国内を砲撃しました。

 シリア政府によって撃たれたとみられる砲撃が、アクチャカレ(Akcakale・kmzファイルはこちら)に着弾して、女性2人と子供3人が殺されました。トルコの反応は18ヶ月になるシリア内乱で最初のシリア国内への攻撃となりました。NATO大使たちはこの危機を討議しました。会議の後、NATOはトルコの側に立ち、こうした同盟国に対する攻撃的な行為の即時停止を求め、シリア政府に国際法に対する目に余る違反を止めるよう求めました。NATO大使たちはトルコが対応を抑制していることに感謝しました。トルコ政府は木曜日に、越境作戦を承認する件で議会を招集する予定です。トルコ軍はイラク北部を拠点とするクルドの武装勢力を追跡するために、イラク北部に移動したことがあります。

 トルコ国境はシリア内乱がはじまってから、何度も攻撃を受けました。しかし、水曜日の事件は最悪でした。トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン首相(Prime Minister Recep Tayyip Erdogan)は「国境の我が軍は交戦規定の範囲内で憎むべき攻撃に即時に対応しました」と言いました。レーダーで特定されたシリア内の場所に対する砲撃が目標を叩きました。「トルコはシリア政府による我が国の安全に対する、この手の挑発に必ず応えます」。

 シリアはアクチャカレに対する砲撃の原因を調査中だと言いました。オムラン・ゾアビ情報大臣(Information Minister Omran Zoabi)は、犠牲者の家族と、トルコの友人に心からの哀悼を捧げます」と言いました。

 トルコのアーメト・ダビュトグル外務大臣(Foreign Minister Ahmet Davutoglu)は事件後、潘基文国連事務総長(UN Secretary-General Ban Ki-moon)、国連シリア和平特使のラハダル・ブラヒミ(Syria peace envoy Lakhdar Brahimi)、アンダース・フォー・ラスムッセンNATO事務総長(Nato secretary general Anders Fogh Rasmussen)に会いました。

 潘事務総長は、越境事件がシリアがシリア国民の安全を脅かすだけでなく、隣人への危害を増やしていることを示すと言い、シリアに隣国の領土主権を尊重するように主張しました。ラスムッセン事務総長はトルコの外務大臣に、事件に対して強く非難し、この地域での今後の進展を密接かつ重大な懸念をもって見続けると言いました。彼はNATO軍はシリアに介入するつもりはないものの、必要ならトルコを防衛する準備はできていると言いました。

 ヒラリー・クリントン国務長官(Secretary of State Hillary Clinton)は、シリアが越境砲撃を行ったことに憤りを覚え、トルコ側の人命の損失を遺憾に思う」と言いました。トルコを訪問中だったイギリスのニック・クレグ副首相(Deputy Prime Minister Nick Clegg)は「我々はシリア政府による暴力すべてを非難し、トルコ国境での本日の事件が繰り返されることを避けるよう求めます」と言いました。

 アクチャカレは過去数週間にわたり数回攻撃されました。BBCのジム・ミュアー記者(Jim Muir)は、シリア軍は先月反政府派が奪取したタル・アル・アビアッド(Tall al-Abyad)の検問所を取り戻して補給路を切断しようとしていると言います。住民は国境から離れるように勧告され、この地域の100校以上の学校がシリアの暴力が原因で閉鎖されました。

 トルコの国営アナトリア通信社は、怒った街の人びとが水曜日の死に抗議するために市役所に向けて行進したと報じました。アブドルハキム・エイハム(Abdulhakim Ayhan)は「我々のコミュニティにシリアに対する怒りがあります」と言い、流れ弾と砲弾が過去10日間に住民をパニックにさせたと付け加えました。水曜日の攻撃は、シリアからトルコへ越境した暴力の結果として国民が死亡するものとしては2度目と考えられています。4月にシリアからの流れ弾でシリア人2人がトルコ内で殺されていました。


 シリアがヘマをやったようです。多分、これは意図的ではなく、照準ミスによる誤爆でしょう。アクチャカレは大きな検問所がある国境街で、ここに自由シリア軍がいると判断して攻撃したところ、何らかの理由で砲弾がトルコ領内に落ちたのです。

 間接砲撃にありがちなミスです。間接砲撃は戦車の直接砲撃と違い、地図上で砲撃する方位と砲身の仰角、火薬量を計算で算出して攻撃します。着弾してみないと命中するかどうかは分かりません。近年の技術進歩で精度は非常に高くなったものの、どこかで間違いが起きると誤爆になるのです。着弾位置を観測するシリア軍の砲撃観測員は、砲弾がトルコ領内に落ちたのを見て、すぐに砲撃中止を要請したはずです。

 これまで自由シリア軍への補給路はアレッポからのルートが強調されてきましたが、今回の報道で、そのずっと東のアクチャカレも利用されていることが確認できました。補給路は他にもあるはずです。複数の補給路を持つことで、補給を確実にするだけでなく、シリア軍の対応を困難にして、兵を分散させることができるのです。

 それにしても、トルコの対応はいつも冷静です。これが陸続きの国の特徴なのです。撃ち返したことは、まったく問題はありません。外交ルートで相手国に通告する時間の余裕はありません。即刻撃ち返さないと、シリアが誤爆に気がつかず、次の砲弾を発射するかも知れないからです。砲撃地点に対する反撃は、シリアにトルコ領内を撃っていることを知らせる最速で最良の方法なのです。それでシリア側に犠牲が出たとしても、それはやむを得ないことだったと判断するのが常識です。シリアが公式の報告書を作成してトルコに渡し、シリアが関係者を処分することで幕引きとなるでしょう。

 だから、今回の事件は直ちにトルコのシリア内乱への介入にはつながらないと思われます。越境作戦が承認されても、トルコ国内への被害を防ぐ目的で行われます。NATO軍も直ちにシリア軍を攻撃すべきとは考えませんが、今回の攻撃は介入の口実を探る手がかりにはなります。自由シリア軍への支援をさらに進める口実にもなります。



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