シリア軍のゴラン高原誤射の詳細
military.comによれば、シリアからイスラエル領域へ迫撃砲弾が撃ち込まれた後、イスラエル軍の戦車がシリアの軍用車両を攻撃しました。記事はイスラエルがシリア内乱に巻き込まれる危険を指摘しています。
イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相(Prime Minister Benjamin Netanyahu)は外国大使に対する演説で、「我々は何が起きているか緊密に監視しており、適切に対応しています。我々は国境が侵犯されることや国民が攻撃されることを許しません」と言いました。
声明でイスラエル軍は、同軍の迫撃砲弾がゴラン高原の開墾地に着弾した後で、戦車が攻撃源を狙ったと言いました。目標に直接命中したことを確認しました。軍の規則に従って匿名のイスラエル軍当局者は「シリアの移動砲に命中しました。シリア側の被害は通知がありませんが、イスラエル当局は車両がシリア政府のものと考えています」と言いました。
事件は、シリア軍部隊が、ゴラン高原との国境線から数百メートルのところにある、シリアのバリカ村(Bariqa・kmzファイルはこちら)の銃を持った男を砲撃している時に起こりました。ゴラン高原側にいるAP通信のカメラマンは銃を持った、恐らくは反政府派の男と、約2km離れたところに見えるシリア軍の移動砲の砲撃で村に爆発のショックが走るのを目撃しました。
反政府派は自動火器で反撃し、それから逃げ、ゴラン高原の国境に向けて走り、木の下に逃れました。数分後、反政府派は村へ戻っていきました。砲撃の爆発音が数分ごとに聞こえ、約30分後、シリア軍はゴラン高原を砲撃し、着弾の前に空を切る、けたたましい音を立てました。
人権団体「The Syrian Observatory for Human Rights」は、反政府兵士3人が、バリカ村の隣村、バイア・アジャム村(Bir Ajam)で、月曜日にシリア軍に殺されたと言いました。
迫撃砲弾数発がここ数週間、今月早くにゴラン高原に着弾し、シリア軍の戦車が偶然、約40年間で初めてゴラン高原の国境線をに沿った緩衝地帯へ入りました。イスラエルは日曜日に初めて応戦し、迫撃砲弾が国境を越えて逸れ、イスラエル軍の前哨の近くへ着弾した後で、警告弾と呼ぶものをシリア内へ発射しました。イスラエルは、攻撃が続くなら、より厳しい対応をするとも警告しました。
記事は一部だけを紹介しました。
記事は「mobile artillery」という表現を使っており、それは移動砲と訳しました。普通、自走迫撃砲と呼んでいるものだと思います。
kmzファイルを使い、Google Earthでバリカ村の位置を確認してみてください。村は国連が設定した緩衝地帯の中にあることが分かります。シリア軍はそこを構わずに攻撃しているわけです。
ビデオ映像とGoogle Earthを合わせると、事件が起きた位置が大凡わかります。イスラエル軍の戦車がいる高地の向こうに湖が見えます。これはバリカダムによってできた人口湖です。この湖の位置からすると、戦車の位置は下図の青丸です。戦車の砲身の向き、陣地との着弾地点の位置関係からすると、シリア軍の自走迫撃砲は赤丸の地点、バイア・アジャム村にいたものと推定できます。射程約900mの直接照準射撃だったのです。これで状況は手に取るようになりました。
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バイア・アジャム村からバリカ村を砲撃していたのに、青丸の付近に砲弾が落下したのは、率直に言って、シリア軍の練度が低すぎるのです。900mなんて、戦車にとっては目の前です。近くにイスラエル軍がいることは分かっているのに、シリア軍がこんな雑な操作をする理由が分かりません。
一方、自走迫撃砲は明らかに住宅地の近くにいました。民間人への被害も予測されますが、それでも攻撃したのはイスラエルらしいと感じます。映像に赤い屋根の大きな建物が見えますが、これらしい建物はGoogle Earthでも確認できます。多分、自走迫撃砲は村を南北に通る幹線道路上にいたのです。住宅からは少し離れており、正確に攻撃できる距離なので、イスラエル軍はためらわなかったのかも知れません。恐らく、イスラエル軍はシリア軍が反政府派掃討を行っているのを継続的に監視し、事前に砲の位置も確認していたのでしょう。音で発砲点の方向を監視し、砲が見えていた可能性もあります。そこに至近弾が落ちたので、戦車を前進させて、壕から砲塔だけを出させ、発砲したというのが、考えやすい経緯です。
この程度の挑発で、イスラエル軍がシリア内乱に巻き込まれていくとも思えません。周囲の地勢を見てもらえば分かりますが、交通上も特に重要な場所ではなく、策謀のために砲撃が行われたとは思えません。
このように、自宅で、パソコンを使い、インターネット配信の記事とGoogle Earthだけで、これだけの解析ができるのです。まったくとんでもない時代が来たものです。ここでの解析と、国内報道記事だけで解釈した場合の違いを、よく考えてみてください。精度がどれほど違うか思い知らされるはずです。
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