北朝鮮が12月12日に打ち上げたテポドン2号(銀河3号)について、簡単にまとめてみます。
今回、打ち上げ時期について、韓国が間違った報道を行い、それが韓国政府の情報部門が間違った分析をして、それが韓国政府経由で報道機関に伝わったためであることが分かりました。私も、まさか韓国が情報分析を間違えるとは考えませんでした。
しかし、韓国筋から流れる「奇襲」「不意を突かれた」といった意見は聞くに値しません。韓国は、ことあるたびに嘆きたがる国であり、その点では日本とよく似ています。国防上の失敗となれば、その嘆きはなおさらです。そこで、敵の謀略説を主張し、納得しようとするわけです。言うまでもなく、これは後ろ向きの反応であり、意味のない行為です。それに、いくら発射台上でトリックを仕掛けても、打ち上げの直前にはロケットを追跡する電波などが放出されるなどの変化があるのであり、本当の意味での不意打ちはあり得ません。
面白いのは、これが韓国だけでなく、アメリカの38north.orgのアナリストたちにも見られることです。テポドン2号(銀河3号)の打ち上げ予告を誤った38north.orgは、打ち上げの翌日に簡単なコメントを出しましたが、それはなぜか日本人の感情を刺激するものでした。真珠湾奇襲の諜報活動に関する名著『パールハーバー―トップは情報洪水の中でいかに決断すべきか(Pearl Harbor: Warning and Decision)』の一節を引用しているからです。
「我々の諜報システム化とその他の情報筋すべてが日本人の意図と脳力の正確なイメージを提供できなくても、それは関連資料が不足しているのではありません。我々が敵の情報の図式を、それほど完全に得たことはないのです」。
真珠湾奇襲が行われたのと同じ12月に北朝鮮がロケットを打ち上げたので、必然的にこういう連想をするのでしょうが、実験的ロケットの打ち上げを奇襲で大損害を被った真珠湾奇襲になぞらえるとは、落ち込みすぎという感じがしますし、日本人にとっては不愉快です。
それほど今回の打ち上げが深刻な事態かといえば、そうではありません。下のような事実が報じられています。
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人工衛星を軌道上に打ち上げたものの、人工衛星から電波が出ているのが確認されておらず、軌道の調整や収集したデータの送信が行われていません。NHKによると、NORAD関係者は「どう見ても北朝鮮の物体(衛星)は地上からの制御ができずにいる。物体が地上の管制センターと情報をやりとりしている事実も確認できなかった」と述べました。
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聯合ニュースによれば、北朝鮮は国連機関の国際電気通信連合(ITU)に人工衛星が使う電波の周波数を申告していません。
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朝鮮日報によれば、北朝鮮は高度500kmの円軌道を予定していたのに、実際には、遠地点588km、近地点494kmの楕円軌道になっています。これではいつまで飛んでいるかが分かりません。
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北朝鮮国民向けのニュースによると、公開された人工衛星の絵は実際の光明星3号と違い、展開式の太陽電池パネルを持つ、数世代先のもののように偽られていました。
実用衛星と言いながら、それを目指した形跡がないことから、今回の実験目的は、軌道に物体を投入することであり、それを確認することに意義があったことになります。
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核爆弾を搭載するには1トンの重量のペイロードを搭載できる必要がありますが、今回は100kg程度であること。ペイロードが重くなれば、必然的に、射程も短くなります。よって、テポドン2号がアメリカまで届くのかどうかは疑問です。
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軌道上に打ち上げた物体を制御する技術を北朝鮮が持たないこと。つまり、銀河3号が弾道ミサイルであっても、弾頭のコースを制御できないので、兵器としての価値はありません。
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軌道に上げるだけでは弾道ミサイルは完成しません。弾頭部分を海上に落下させ、誘導の精度を証明する必要があります。
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核爆弾を熱と圧力から守る再突入体の技術が未完成であること。これは必要な高度まで弾頭を落下させるために不可欠です。
北朝鮮が偽装工作を行ったかどうかは判然としませんが、単純に1段機体に異常が起こり、突貫作業でスペアと交換した可能性はあります。これは普通の国なら、打ち上げを中止するような重大事件です。しかし、物体を軌道に打ち上げられることを確認するだけの実験なので、北朝鮮はそれでもよかったのでしょう。その程度の打ち上げ実験だったのだと思えます。普通はしないことをやったので、韓国やアメリカで分析の誤りが起きたのです。
チャールズ・ビック氏のレポートはすでに公開されているのですが、まとめる時間が持てていません。(レポートはこちら)
今後とも、北朝鮮はロケット開発を続けます。近い将来は無理でも、いつかは銀河3号をアメリカに届く弾道ミサイルにできるのかも知れません。そうなると、北朝鮮は益々増長するはずで、それはどうしても避けなければならないことです。
ところで、衆議院選挙で民主党が大敗したことにより、自民党政権が誕生することが確実になりました。余談ですが、その自民党の幹部たちの発言が滅茶苦茶です。
読売新聞によれば、北朝鮮がテポドン2号を打ち上げた日、自民党の安倍総裁は長崎市での街頭演説で「とんでもないことだ。日本を射程に入れていることを示すために打ち上げたと言っていい。厳しい制裁を科すように政府に求めたい」と述べました。安倍総裁はテポドン2号が日本よりも遠くにしか落とせないことも知らないのです。
朝日新聞デジタルによれば、自民党の石破茂幹事長は佐賀市内での街頭演説で「日本ができることは日本でやっていかないといかん。もし仮に、北朝鮮が米国まで届くミサイルを持ったとして、日本のイージス艦が落とすことができる場所にいたとして、撃ち落とさない。そして、そのミサイルがロサンゼルス、サンフランシスコに届きました。何十万人と死にました。その時は、日米同盟は終わりなんでしょう。日本が困ったら助けてちょうだいね、米国が困っても知らないからごめんなと。そのような同盟は長続きしない。当たり前だ。当たり前のことを、自民党は語っていかないといけない」と述べました。石破氏は、北朝鮮からテポドン2号をアメリカに向けて撃っても、日本の領域は通過しないことを知らないのです。
結局、政権が変わっても、安全保障問題で国民は安心できるようにはなりません。政治家たちは何をすべきかが分かっていません。