シリア軍の化学兵器使用は本当か?

2012.12.28


 シリアで政府軍が化学兵器を使用したという疑惑について、他の記事を探したところ、rappler.comの記事が見つかりました。BBCも引用する「the Syrian Observatory for Human Rights and activists」の報告として、次のように事件を紹介しています。

 人権活動家は、日曜日の夜に反政府派6人が、ハリディヤ・バヤダ(Khaldiyeh-Bayada)の最前線で無臭ガスと白い煙を吸って死亡したと言いました。「政府軍兵士が、壁に当たった途端に白煙を発した爆弾(複数)を投げたあと、ガスが地域に拡散しました」と人権団体は言い、爆弾が反政府派との市街戦略の最中に投じられたと付け加えました。「ガスを吸った者たちは吐き気を催し、激しい頭痛を感じました。発作をおこした者もいました」「化学兵器はありませんでしたが、私たちにはそれらが国際的に禁じられているかは分かりません」「活動家はそれらがこうした効果を記録したのは初めてだと言います」「通常兵器ではありません」。

 地域調整委員会も、ガスが含有された爆弾が使われたと報告しました。「これらのガスは筋肉弛緩、重度の呼吸困難を起こし、虹彩を狭くさせます」と地域調整委員会は言いました。

 アマチュアビデオの映像に映る医師は「間違いなく毒ガスですが、どのタイプかは分かりません」と言いました。「この男性はガスで負傷しました。我々はどのタイプのガスかは分かりません。明らかにサリンではありません」。

 alarabiya.netは、元シリア軍の化学戦部局にいた将校の発言を紹介しています。

 アブドル・サラム・アハメド・アブドル・ラゼク大尉(Capt. Abdul Salam Ahmed Abdul Razek)は、体制が反政府派に向けて、国際的に禁止されたガス剤をイランとロシアの監督の下で使っていると言いました。「シリア軍はホムス侵入を容易にするために神経ガスを使い、同じことをジベル・アル・ザウィア(Jebel al-Zawia)とアル・ザバダニ(al-Zabadani)で使うつもりでした」。大尉によると、シリア軍は国際的に禁止されている有毒な窒息剤を大量に保有しています。ガスはロシアが提供し、イランが使い方をアドバイスしています。ガスはシリア軍の第4大隊と大統領警護隊だけが使えます。


 まず、私が航空機からガス弾が投下されたと思い込んでいた点を訂正します。rappler.comの記事では、手投げ式の爆弾だったということです。しかし「the Syrian Observatory for Human Rights and activists」の26日付の記事では、白い煙は砲撃が生んだと書いてあり、どれが本当なのかは判然としません。手投げ式の化学兵器は旧日本軍が「一式手投げちゃ瓶」を生産した事例がありますが、使われた形跡がありません。こういう兵器は使った者が被害を受ける恐れも高く、シリアに存在するかどうかは分かりません。

 それはともかく、ガス弾が手投げ式だったとすると、地面にあるくぼみはガス弾ではなく、別の理由でできたものと考えられます。同じ日に、この地域に砲撃もあり、実際にはどれがガス弾の攻撃かは、現場にいた者にも分からない可能性があります。

 臭いについても、上の記事は無臭だったといい、毎日新聞が反政府派公報に聞いたところとして「奇妙な臭い」を指摘し、産経新聞となると、記事によって無臭と塩酸の両方を指摘しており、どれが本当なのかは藪の中です。

 症状も毎日新聞は「腹痛」を含めていますが、これは「吐き気」のことかも知れません。毎日新聞は3人が視力を失ったとも書いており、これは産経新聞が「両目が焼けるように熱くなり」と、被害を受けた兵士の証言を紹介しているので、間違いなさそうです。

 それから、上の記事で、虹彩が狭くなると書いているのは、瞳孔が拡大するという意味だろうと思うのですが、自信はありません。瞳孔の周辺にあるのが虹彩ですから、瞳孔が広がると虹彩は狭くなります。しかし、瞳孔が縮小することを指している可能性もあります。アラビア語の説明を英語に直したものを読む場合、急いで思い込まない方がよいと考えます。

 ラゼク大尉の話では、シリア軍が持っているのは神経ガスと窒息剤とのことですが、具体的な物質名は述べていません。しかし、これらを持っているのが限られた部隊だという点は気になります。化学兵器を一部の部隊しか持っていないのなら、今回の攻撃は市街戦でよく使われる手製の武器だった可能性があります。比較的手に入りやすいトイレ用の塩素系漂白剤と塩酸系汚れ落としに爆弾を取り付け、爆発で両者が混じり合うようにした即製ガス弾だったとすると、今回確認された目への刺激、嘔吐、呼吸不全などの症状とも矛盾せず、一応筋は通ります。

 断定できないものの、この可能性は十分にあるのではないかと考えています。


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