北朝鮮ミサイル探知でイージス艦は黄海へ入れるか?

2012.5.31


 31日付けのサーチナの「日本が黄海にイージス艦配備を検討…『新たな火種に』=韓国」と朝鮮日報日本語版の「日本、黄海へのイージス艦配備を検討」を読むと、韓国は黄海へのイージス艦配備にはあえて反対しないものの、北朝鮮と中国の反発を予測しているようです。

 サーチナは「韓国メディアは、日本がイージス艦を配備すると朝鮮半島を取り囲むことになるとし、黄海に面する中国や北朝鮮から反発を受けることになるだろうと指摘。韓国でも日本軍事力の朝鮮半島進出として新たな火種になり、世論からも強い反発が出るだろうと伝えた」と書きました。

 朝鮮日報は「日本が公海上にイージス艦を配備するのは日本の権利で、韓国と協議する必要はない」という韓国政府の公式見解を紹介しています。また「ある外交筋は『日本が北朝鮮によるミサイル発射の監視を口実に、イージス艦の作戦半径を西海上にまで広げようという意図があるのではないか、という疑念を感じる』と語った。イージス艦の探知能力は半径1000キロに及ぶため、ミサイル発射の探知を理由に、あえて西海まで進入する必要はないためだ」とも書いています。

 それから、週刊朝日5月4・11日合併号に辛坊治郎氏の論説「『地球が丸いから探知できなかった』という日本政府に喝!」が載っています。この記事は私が知る限りで唯一、イージス艦の配備について批判を試みています。「最大の問題はイージス艦の配置だ。少なくとも東シナ海の1隻を黄海寄りに配備しておけば、全く探知できないなどという事態は起こりえなかったはずだ。また日本海のイージス艦が本当に、韓国西岸上空150キロのミサイルを捉えることが不可能だったかの検証も怠るべきではない


  韓国は国際法を尊重し、イージス艦が黄海に入っても異議を主張しないということです。これは良識ある対応です。なぜ、こういう韓国の意向をテポドン2号打ち上げ前に確認して、イージス艦を配置しなかったのかが問題です。一部の韓国世論が反対しても、韓国政府はそれを抑えてくれたでしょう。また、過去の歴史的経緯を考えれば、日本政府も韓国人に納得のいく説明をした上でイージス艦を派遣すべきでした。それを単に自衛隊法第82条の3項の「弾道ミサイル破壊措置命令」を使ってみたいだけで作戦を考えるから失敗するのです。

 中国と北朝鮮の反発は当然ですが、中国は正面切っての反対はできないでしょう。北朝鮮を抑えられないのは中国の責任ですし、いくら反対しても諸外国の理解は得られません。むしろ、北朝鮮を抑えないと、日本の軍事的対応の強度が増すことを中国に教える格好の機会です。

 どのメディアも自衛隊の不備を批判しない中、辛坊氏の意見は最も建設的に思えますが、やはり、弾道ミサイル対策でイージス艦を活用する目的については意識していないように見えます。イージス艦は「迎撃」のために使うのではなく、テポドン2号の性能を評価するためのデータ収集のために使うのです。その点を分かっていたメディアは一つも見受けませんでした。

 しかし、辛坊氏は日本海に配備したイージス艦が本当にテポドン2号を探知できなかったのかについて疑問を提示しています。先月、私が行った検証では沖縄付近にいた2隻のイージス艦からテポドン2号は探知できなかったことが分かります(関連記事はこちら)。このデータを使って考えてみます。日本海のイージス艦の位置はおそらく、石川県沖合だったと想像できます。東倉里と東京の皇居を直線で結ぶと石川県を通過し、朝鮮日報の記事の1,000kmというレーダー探知範囲を信頼すると、石川県沖が考えられるのです(レーダーの探知範囲は資料により様々です)。ここからは分解する前のテポドン2号は探知できなかったはずです。レーダーが捉えとしても、分解してすでに飛行中とはいえないロケットの部品だけのはずです。分解前のデータでないと意味がありません。それも、打ち上げ直後からのデータが必要です。だから、イージス艦はできるだけ近くに行くべきなのです。朝鮮日報の記事には地球が丸いという観点が抜けています。

 迎撃するだけならイージス艦はそれほど近くに行かなくても構いません。打ち上げの事実はアメリカの早期警戒衛星が教えてくれます。日本が欲しいのは、テポドン2号のできる限り完全な飛行データです。それを指摘した記事は私は一つも見ていません。

 早くテポドン2号の対策を正しいものに修正すべきです。そして、本当の脅威であるノドンミサイルについても現実的な対策をとっていくのが政権与党の仕事です。



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