太平洋地域に米海軍の6割を配備へ
military.comがレオン・パネッタ国防長官(Defense Secretary Leon Panetta)がアジア安全保障会議での発言を報じました。
パネッタ長官は、アメリカは太平洋地域のバランスを取り直す必要に迫られ、2020年までに海軍の60%を太平洋に配備されると言いました。米軍の駐留はより鋭敏、柔軟、ハイテクになると言いました。兵力は全般的に増強されますが大幅ではないでしょう。
日本、オーストラリア、韓国のような長年の同盟国は米軍の駐留を強く支持し、この移行を喜ばしい発展としてみています。「アメリカは世界の経済の重心がいまやこの地域にあるという事実を反映するためにアジア太平洋を最優先としました」とオーストラリアのニューサウスウェールズ大学教授、カーライル・セアー(Carlyle Thayer)は言いました。しかし、他の国々はアメリカが中国を孤立させようとしていると懸念します。「大きな経済的可能性のために、多くの国が中国とアメリカの両方と友好関係を築こうとすることは自然です」「アジアは間違いなく既存、新興すべての勢力にとって十分な規模があります」とインドネシアのスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領(President Susilo Bambang Yudhoyono)は言いました。
米当局は外国の沿岸に新しい永続的な施設は求めず、地域全体に存在する基地で部隊を交替させ、共同軍事演習を発展させ、主要な港へのアクセスを促進することで、より脅威の小さな、より費用のかからない政策を考えていると強調します。「これはアメリカが突入した冷戦の状況ではありません」とパネッタ長官は言いました。彼は聴衆に、アメリカの予算問題と今後十年間にわたる5,000億ドルの削減は変化の邪魔にはならず、国防総省は目標を達成するために5年間の予算計画の費用を確保していると言いました。
この記事の後半は中国の軍事力増強になるので省略しました。
ワシントン・ポスト紙からもパネッタ長官の発言を抽出しました(記事はこちら)。
「私たちはどちらも自分たちが持つ違いを理解しています。私たちは自分たちが持つ対立を理解しています。しかし、私たちは双方が意思疎通を行って向上させ、(軍事的)関係を向上させざるを得ないということも理解しているのです」。同時に、パネッタ長官はアメリカは常に助けに来られないので、アジア諸国は自身の紛争を解決する方法を見つけなければならないと言いました。
珍しく大きな会議の記事を取り上げてみましたが、こうした席での発言から実際にとられる戦略を推察することは難しいことが分かり、部分的な紹介に留めました。大きな会議では一般的な発言に終始するものなのです。
読売新聞が「アジア太平洋の米海軍強化、金欠続き実現不透明」というタイトルで、予算削減がアジアへの増強を難しくするという記事を書いています。パネッタ長官の発言は、現在存在する艦船や部隊の再配備を言っているのであり、増強させる部隊すべてを新設するわけではありません。予算は削減されますが、新兵の募集を減らし、任期の更新も難しくすることで兵数は今後減らされていきます。イラクとアフガニスタンでの戦いが終われば、米軍はよりコンパクトで,より効率的な運用へとシフトしていくのは当然なのです。予算が削減されるのだから増強は不可能という読売新聞の論調はあまりにも単純すぎます。それを主張するには、もう少し主要な数字をあげて,根拠を示す必要があります。こうした単純すぎる論調が、特に海外記事には多すぎると私は日々感じています。
港へのアクセスを促進するという言葉通りに、パネッタ長官はシンガポールでの会議の後でベトナムとインドを訪問します。この地域で利用できる港を増やしておこうという動きです。中国からは、これはアメリカによる封じ込めのように感じられることでしょう。こういう動きが日本に与える影響を、今後意識しておかなければなりません。一番まずいのは、中東で失敗したから目先をちょっと変えてみようという感覚でアメリカがアジアにシフトすることです。アメリカが安直にアジアに介入して失敗されて、困るのはアジアの国々です。もっとも、アメリカは中東とアフリカでの対テロ戦を進めていくため、アジアよりもアフリカでの活動が活発化するのではないかと思われます。その必要もあって太平洋地域を増強するわけです。
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