危機に自ら踊らされた自衛隊・総理官邸
少し前の記事になりますが、4月のテポドン2号発射に関して産経新聞の記事から気になる部分を解説します。
1日付けの「北ミサイル発射確認は3時間後 首相は軍事機密を囲い込み」は、日本政府中枢に事態を現実的に捉える能力がないことを露呈しています。
米軍は各国のミサイルについて膨大なデータを蓄積しており、発射の瞬間を捉えるSEWだけで射程や種類まで瞬時に推定できるとされる。これを踏まえ、政府はSEWとして(1)発射場所(2)発射方向(3)発射時刻(4)発射弾数(5)落下予想地域・時刻-が米側から伝えられると期待していたが、実際に伝達されたのは(1)と(2)のみで、ほかの3つは不明とされた。
このため自衛隊と総理官邸の危機管理センターで、発射されたのはテポドン2号ではないとか、2006年のように連続発射するという見方が広がったといいます。
まず、SEWの解析能力ですが、確実なのは何度も打ち上げられて実績を積んだ機種に限られることくらい、最初から予想しなければなりません。テポドン2号のように、打ち上げる度に仕様を少しずつ改良する実験段階のロケットに関して、完全な解析は期待できないのです。
北朝鮮は記者たちに現地取材も許し、白く塗られたロケットを見せ、地上に露出して、「準備に時間がかかるロケットが軍事用のはずがない」という発射場責任者のコメントも提示したことを完全に忘れています。わざわざテポドン2号が人工衛星ロケットだという宣伝をした上で、なぜ軍事ロケットに戻す必要があるのでしょうか。
つまり、2項目しか情報が伝えられなかったことは、打ち上げられたのはテポドン2号であると大胆に推測すべきでした。野田総理だけはテポドン2号が発射されたことを確信していたとされますが、それは別筋で極秘情報が伝達されていたからだと言います。このように「答え」を教えてもらったから分かっていたというのは、大した意味はありません。
14日付けの「北ミサイル発射に米『迎撃は本国防衛のみ』と通告」には、公開に配置した米軍のイージス艦から海上自衛隊にデータが提供されたと書いています。
北朝鮮が4月に長距離弾道ミサイルを発射した際の米軍の迎撃態勢と日米の情報共有の全容が13日、分かった。米海軍は7隻のイージス艦を展開させ、大半が海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載。うち1隻を北朝鮮に最も近い黄海に配置したのは日本側の要請だった。米政府は発射前の協議で日本側に「ミサイルを迎撃するのは米国の防衛目的に限る」との対処方針も通告してきていた。
米イージス艦の配置は黄海=1隻▽日本海=2隻▽鹿児島県沖=1隻▽太平洋=1隻▽フィリピン沖=2隻-の計7隻。海上自衛隊はイージス艦を沖縄周辺に2隻、日本海に1隻展開させた。
このため、自衛艦隊司令部が「カーチス・ウィルバー」が公開に展開し、航跡情報をデータリンクで提供したと言います。
この話は政府がまとめた報告書には載っていません。なぜ、この事実が当時や報告書の作成時に明かされなかったのかは疑問です。公開して問題があることどころか、海上自衛隊の機転を示す材料とみるべきだったはずです。
米軍から情報が得られていたのなら、発表が遅れる必要もなかったはずです。逆に見れば、海上自衛隊がテポドン2号を探知していても、官邸がもたついて発表は遅れたということです。情報は自衛隊と防衛省で止まり、総理官邸でも止まり、国民には伝えられません。東日本大震災でも、福島第1原発がメルトダウンしていることが知らされたのは、2ヶ月を少し過ぎた時だったのと同じです。どちらも即時性が重要な情報なのに、あちこちでいじくり回して公表を遅らせる点も同じです。
これだけ米軍と共同して動けるのなら、韓国軍とも連携して、完全な探知ネットワークを事前に作れたはずです。なぜこうも万事後手なのかが分かりません。
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