オスプレイはCH-46よりも性能が上か?

2012.7.28

 オスプレイはCH-46と比べて速度が2倍、積載重量が3倍、航続距離5〜6倍で、抑止力を高めるという説明が最近、日本国内で繰り返されています。

 このように単純な数字の比較が繰り返して言われる時は、必ず何かの意図があって流布されていると考えなければなりません。原子力発電に関しても、かつて「自然界にも放射能はある。正しく知れば原発は決して恐くない」という宣伝が行われました。これは、いわゆる放射能アレルギーを抑えるために流布された宣伝文句に過ぎませんでした。福島第1原発がメルトダウンした後となっては、この主張に何の意味もないことは明らかです。オスプレイの性能3項目オスプレイのような兵器について考える場合、たった3項目の性能評価で結論を出すのは意味がありません。しかし、性能が高い兵器だから、抑止力を高めるために重要、つまり日本の国益にかなうという話で、国民を納得させるために流布されているのです。なぜか日本のメディアはこういう政府筋の情報を喜んで流します。なぜなら、彼らはとても勉強不足なので、こういう分かりやすい話に飛びつきやすいのです。

 まず、ボーイング社のウェブサイトから、V-22CH-46の性能データを取り出して比較します。こうしたデータは資料によって違いますし、本当に正確なのかは分かりません。軍事マニアはこうした数字を信じたがりますが、軍事問題を考える上で、あらゆる数字は眉に唾しながら見るべきです。たとえば、Wikipediaには固定翼機モードでの海面高度の最高速度は509km/hと書いてあり、ボーイング社のデータを大きく上回ります。なぜ、数値が違うのかは理由が分かりません。それに、テストの方法が妥当だったのかについては、開発企業にお任せするしかありません。

 速度と航続距離は海面高度の場合です。航続距離のデータは下の図からの引用です。

  V-22 CH-46 比率
最高速度
485km/h
248km/h

1.96

積載重量
9,070kg
3,975kg
2.28
航続距離
602km
139km
4.3

 以上のように、政府の主張から見ると、数字は見劣りすることが分かります。速度が2倍なのは妥当としても、積載重量は2倍、航続距離は4倍というのが正確なところです。すでにこの段階で水増しが発覚しましたが、問題はさらにあります。

 速度はV-22が固定翼機の場合です。CH-46は回転翼機ですから、そもそもこの2つの数字を比較するのはおかしいのです。V-22の回転翼機モードの場合の最高速度は185km/h(引用元はこちら)と、ヘリコプターとしてはかなり遅いのです。

 積載重量は単純に重量で見ればV-22が有利ですが、この機体がもっぱら使われる兵員輸送について言えば、V-22には兵士24人分、CH-46には25人分の座席があり、CH-46の方が1人分多いのです。

 航続距離も常に回転翼で飛ぶCH-46と固定翼機モードが使えるV-22を単純に比べることはできません。任務によって、回転翼機モードを長く使う場合、この航続距離はあてになりません。

 元海兵隊将校で軍事評論家のカールトン・メイヤー氏によると、こうしたデータは誇張されています(関連記事はこちら)。記事の一部を紹介します。

 V-22は24,000フィート(7.3km)まで、ヘリコプターよりも速く飛べます。しかし、もろい機体は与圧できないため、パイロットは10,000フィート以上(3km)で極地用衣類と酸素マスクを着用しなければならず、安全規則はこの状態で1時間以上飛ぶことを禁じています。乗客はヘリコプターができる10,000フィート以上では運ぶことはできないので、V-22は8,000フィート(2.4km)で飛びます。V-22は固定翼機モードでだけ高く飛べ、ヘリコプターモードではヘリコプターが飛ぶのと同じ高度では飛べません。結局、V-22よりも高い高度でヘリコプターは垂直に離着陸できるのです。

 地上の砲火を避けるために高い高度を飛ぶことは、中高度から高高度の防空システムを持つ現代の敵を避けるには賢明ではありません。直撃を避けるには、低高度を飛ぶ方が安全です。さらに、高く飛ぶことは非現実的であることも多いのです。基本的なヘリコプター任務は50マイル(80km)未満で行われています。こうした任務は航空機が8,000フィートまでらせん状に上昇して、着陸場所に降りてくるほど長くはありません。さらに、敵がいるかも知れない着陸地点へらせん状に降下して、敵にやって来る航空機を狙う十分な時間を与える者は愚かです。敵を驚かし、燃料を節約し、より早い進路転換を可能にするので、低高度を飛ぶ方がより早くて安全です。

 速度に関しては、機外に積荷がある場合、V-22は早く飛べず、それは安全上の理由で滅多に行われません。内部に積荷があると、それは横転を避けるために、安定した800fpm(244mpm)の降下率でヘリコプターよりもゆっくりと着陸しなければなりません。V-22はヘリコプターよりも早く飛べますが、主張される通りに2倍速くは飛べません。ボーイング社は最高速度は250knot(463km/h)だと言いますが、1969年の外部エンジン2基を持つベル社のUH-1「533」は275knot(509km/h)を示しました。海兵隊はペイロード能力がより重要であるために興味を示しませんでした。

 CH-53Kのような現代のヘリコプターは160knot(296km/h)で巡航し、新型のヘリコプターは同じ大きさなのに、より遠い距離をV-22よりも5倍多く運べます。運用評価の中でV-22は220knot(407km/h)を示しましたが、それは完全装備として約2,000ポンドの空虚重量を与えられたためで、V-22は3,000 フィート(914m)を約220knotで飛びました。しかし、ほとんどの空輸任務は、V-22の巡航速度が200knot(370km/h)に落ちる、ずっと低い高度で行われます。だから、V-22は荷物の積み卸しや燃料補給をヘリコプターよりも早く行えず、格納庫の中で動かなくなると何もできません。V-22がヘリコプターよりも約30%早くても、それは唯一の利点でしかありません。V-22は同じサイズのヘリコプターのペイロードよりも半分少ない荷物しか運べないので、1日にずっと少ない荷物しか運べません。

 さらに、メイヤー氏はZV-22の性能は運用評価の目標値を達成していないと批判します(記事はこちら)。

計画目標値
運用評価
高度3,000フィート(914m)
での巡航速度

300knot以上

(556km/h)

240knot

(444.4km/h)

200海里(370km)飛行時の内部積載量

~10,000 lbs

(~4,536 kg)

4,760 lbs

(2,159kg)

空中給油1回での空荷での航続距離

2,261nm

(4,187m)

1,600 nm

(2,963m)

 話がかなり複雑になりましたが、多分、これは序章みたいなものでしょう。日本政府が言うほどV-22は高性能ではなく、それが容認された背景には軍産複合体による世界への働きかけがあったはずです。それは数十年分の物語です。

 抑止力の話となると、それは戦術上の話となります。尖閣諸島などを防衛するために、V-22はほとんど役に立ちません。米海軍の水上戦闘能力と、海兵隊の強襲上陸能力がその骨格なのです。



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