「アメリカの言いなりにならない」とは?

2012.7.30

 FNNによれば、森本敏防衛大臣は29日に「新報道2001」に出演し、オスプレイ」の配備について、「アメリカの言いなりになってはならない」と述べました。

 以下は出演者の発言です。

自民党の石破茂元防衛大臣
「何のために、これ(オスプレイ)持ってくるのってことは、もっとちゃんと説明しないといかんですよ。『アメリカが配備するって言ってるから、仕方がないです』では、日本国政府の責任を果たしたことにならない」

森本防衛大臣
「アメリカの言いなりになるということであってもいけない。日本が飛行の安全について責任を持つという姿勢は、国民にきちっと示さないといけない」
「飛行の安全性を確保しながら、アメリカ軍に能力向上のためのシステムを根づかせていくかが、これからの課題」
「(固定翼から回転翼への)転換が行われるときに、どのように安定的に飛行するのかを自分で体験したい」


 石破氏がオスプレイの用途をどう説明するかは、まったく想像できません。オスプレイはその計画存続を賭けた攻防が繰り返された挙げ句、開発意義が見えなくなった航空機に過ぎません。彼は別の発言で「抑止力」をあげているので、それを言いたいのでしょう。しかし、オスプレイは武装はできるものの輸送機です。これを離島防衛のためにどう運用し、抑止力がこれだけ上がりますという説明はできないでしょう。MV-22の航続距離が長いとしても、実際には本土から飛ばすのではなく、離島に接近した揚陸艦などから発進する形で運用されるのです。これならCH-46でもできます。オスプレイでなければならない決定的な理由はありません。

 前にも説明したように、日本政府は最初にアメリカに打診すべき項目をいまだに放置しています。森本防衛大臣は、日本政府が安全に責任をもつと言っていますが、それをやらずにどうやって責任をもつのかが理解できません。その項目とは、MV-22が普天間基地で離発着する場合は航空機モードだけに制限することです。

 今年4月に米海軍と海兵隊が公表した環境評価の報告書の中に、MV-22は普天間基地でVTOLモードかコンバージョンモードで離着陸する計画であると書いてあります(pdfファイルはこちら・ページES-8の図を参照)。

 VTOLモードは、ティルトローターを完全に上に向けてヘリコプターとして飛ぶ方法で、ヘリコプターモードや回転翼機モードとも呼びます。ティルトローターを完全に前に倒して飛ぶのは航空機モードで、固定翼モードとも呼びます。ティルトローターがVTOLモードと航空機モードの中間で、斜めの状態で飛ぶのがコンバージョンモードです。

 普天間基地では危険度が高いVTOLモードとコンバージョンモードでは飛ばないように米政府に申し入れをすることは極めて重要なことと考えられますが、これまで日本政府から聞こえてきたのは洋上ルートを使うことだけです。航空機が危険なのは離着陸時というのは常識です。だから、より安全な航空機モードに制限するという要求は当然出てこなければなりません。

 報告書にはこんなことも書いてあります(ES-6)。

VTOLモードでの飛行はMV-22の総飛行時間の約5%以下です。

 たった5%なら許容範囲と思うのは間違いです。離着陸時はVTOLモードで飛ぶので、普天間基地周辺はほぼ100%をVTOLモードで飛ぶのです。海兵隊は航空機モードでの離着陸では訓練の成果をあげにくいと言うでしょう。これは間違っているとは言えませんが、否定する余地もたくさんあります。図を見てもらえば分かるように、演習場でもVTOLモードで離着陸するのです。基地と演習場とどちらが離着陸が難しいかと言えば、見通しが悪い演習場に決まっています。だから、基地での訓練不足は演習場の訓練で補えます。日本は海兵隊に「海兵隊の訓練の必要条件は理解できるものの、普天間基地が住宅街に囲まれているという特殊条件を理解してもらわなければ困る」と伝えなければなりません。元海兵隊将校で軍事評論家のカールトン・メイヤー氏は書いています。「ニューヨークの人たちは、普天間基地よりも僅かに小さいセントラルパークで、外国の空軍基地が活動することを許容しないでしょう」。(記事はこちら

 この意見に対して、こんな反論をする人たちが出てくると思われます。「海兵隊の訓練の内容にまで口出しするのは治外法権であり、不可能だ」と。確かに、海兵隊の訓練を禁じることはできません。しかし、それはアメリカの領域内や公海上での話であり、日本が合意の上で使うことを認めている日本領域に関しては、日本政府は当然必要な発言をできるのです。特に、安全面での問題は最大限に尊重されて当然です。日米安保条約上、海兵隊基地は日本を守るために駐留しているのではなく、アメリカの戦争のために日本が海兵隊に土地を貸し、その見返りに米軍は日本を守ると約束しているのです。

 日本政府には当然の主張をする意欲はありませんし、オスプレイを取り巻く環境はそれをことさらに難しくしています。すでに大掛かりな性能偽装が行われており、それは政府間の交渉には馴染まないものなのです。メイヤー氏のような主張を米政府にぶつければ、交渉は頓挫することが明らかです。

 森本防衛大臣が試乗して安全性を確認するという話は冗談のように聞こえます。私が米軍の窓口なら、通常よりも時間をとってでも安全飛行をするようパイロットに命じ、それを森本大臣に通常の手順だと説明します。どうせ一回しか乗らないのだから、この工作はまず発覚しません。森本大臣は「思ったよりも飛行は安定していた」と報告するでしょう。

 日本政府がどんな決着を予定しているのかはまったく分かりません。これまでは沖縄を従わせれば済んだので、今回もそのつもりかも知れません。しかし、沖縄がこの問題で妥協する可能性は低く、残された道は行き詰まりだけのように見えます。



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