シリア政府軍はジリ貧、反政府派が優勢
アルジャジーラによると、山本さんが死亡したのはアレッポのスレイマニヤ地区(Suleimanya・kmzファイルはこちら)でした。
古城のアレッポ城から北に1.4kmくらいの場所です。BBCの戦況マップでは、ここは戦闘が報告されていません。南東にあるアジジヤ地区(Aziziya)や北西にあるアシュラフィア地区(Ashrafiya)のような地区では戦闘が報告されていますが、ここでは報告がなかったのです。戦闘が報告されている場所の外側から戦闘地域の様子を取材しようとする目的が感じられ、妥当性があると考えられます。
死亡の状況は記事によって異なります。時事通信によると、米政府が出資するアラビア語衛星テレビのアルフッラは、山本さんがアレッポで3人のジャーナリストと自動車に同乗していた際、親アサド大統領派の民兵組織に攻撃されたと報じました。毎日新聞はジャパンプレスの佐藤和孝氏の話として、自由シリア軍に同行し、政府軍との空白地帯に入り、ドラム缶などで各所を封鎖しながら進んでいたとしています。「午後3時半ごろ、前方から迷彩服を着た10人以上の一団が向かってくるのが見えた。恫喝するような大きな声を上げて銃を乱射してきたので、身をかがめながら一目散に逃げた。山本さんは最初、僕の右後ろにいたが、はぐれてしまった」。
別の記事で、銃撃者が反政府派に見えたという証言も出ていますが、政府軍から寝返った反政府派は政府軍の制服を着ている場合がありますし、佐藤氏は迷彩服から政府軍と判断しているようです。状況からすると、銃撃者はスレイマニヤ地区に斥候に出た政府軍兵士か政府軍系民兵だと考えた方がよいでしょう。だから、藤村修官房長官の「銃撃戦に巻き込まれ、亡くなったと承知している」という発言はあまり正確ではありません。
なお、フランス外務省報道官が「シリア当局は報道の自由を守る義務があるにもかかわらず、報道関係者を抑圧している(時事通信)」と、シリア政府を批判したのは、戦闘地域では当事国にマスコミを保護する義務があるからです。国際人道法(ジュネーブ条約)第1追加議定書第79条に「報道員」に関する規定があります。国際法の提唱者でもあったフランスは、こういう時に発言する場合があります。藤村官房長官は「極めて遺憾であり、かかる行為を強く非難するとともに、ご遺族に心からの哀悼の意を表したい」と定形の声明しか出していません。日本政府は常に国際法に関する立場を明確にしようとしません。フランス外務省が「世界、とりわけシリアにおけるジャーナリストと連帯する」と強いメッセージを出したのとは対照的です。
今回は2004年にイラクで人質になった日本人に対して起きたような大規模な批判が起きていないのが皮肉です。彼らは日本政府の意向に反し、足を引っ張ったから批判されたのであり、当時、理由として挙げられた「自己責任」なんて関係なかったことが、これで証明されました。つまり、日本人はお上の意向に逆らうことに、強力な抵抗感を持っているということです。
なお、BBCがアサド大統領が会談のために出国することを検討していると言います。これは事実上の海外逃亡です。会談の後でアサド大統領がシリアに戻るチャンスはほとんどありません。これもシリア政府が劣勢に陥っている証拠です。
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