自衛隊南スーダン派遣隊は撤退しない?

2013.12.26


 南スーダン内戦は、日本にとっては、自衛隊から韓国軍への弾薬提供という新しい問題を生みました。本来、内戦の戦況を調べるつもりでしたが、韓国軍がいるボルの戦況を知ることは、自衛隊がいる首都ジュバの案線を考える上、今回の弾薬提供の妥当性を考える上で必要とみなせることに気が付きました。しっかりまとめたいところですが、時間がないので簡単に書きます。

 globalsecurity.orgの記事から状況をまとめました。

 内戦は今年7月に解任されたレイク・マシャル元副大統領(deputy president Riek Machar)が12月15日にクーデターを始めたと、サルバ・キール大統領(President Salva Kiir)が主張しました。首都でクーデターが起きたのです。自衛隊は首都北部に駐屯しており、キール大統領が属する最大部族、ディンカ族(the Dinka)に対して支援活動を行っています。一方で、マシャル元副大統領はヌエル族(the Lou Nuer)に所属します。内戦は部族闘争の様相となっており、ヌエル族によるディンカ族の虐殺、強姦も報告されています。

 首都でクーデターが起き、首都では鎮圧されたものの、地方では戦闘が続いています。この時点で、自衛隊が撤退する条件が揃ったといえます。自衛隊は国際平和協力法に基づいて国連南スーダン派遣団(UNMISS)へ派遣されており、その5原則は以下のとおりです。

  1. 紛争当事者の間で停戦合意が成立していること。
  2. 当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
  3. 当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
  4. 上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
  5. 武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。

 これらの条件を守ることがすでにできないか、難しくなっています。昨日は政府が撤退を検討していると報じられましたが、その後、ロイターが、25日の記者会見で菅義偉官房長官が自衛隊の撤収を検討している事実はないと語ったと報じました。もともと、民主党政権で首都が安全なことを確認して派遣したはずですが、首都が危険な状態になっても撤退しないように、話が都合よく変えられていることに注意が必要です。このように、自衛隊の海外派遣には何の戦略も、軍事哲学もなく、「派遣ありき」で進められているのです。

 19日、ジョングレイ州のアコボ(Akobo)にあるUNMISS基地を重装備の兵士2,000人以上が襲撃し、国連平和維持軍2人、ディンカ族の民間人約20人を殺害しました。この時、インド軍43人、国連警察顧問6人、国連民間人職員2人が基地にいました。南スーダン国民約30人がアコボ郡からの保護を求めました。アコボはボルから北東に230kmにあり、幹線道路でつながっています。

 17日、米国務省は緊急性のないアメリカ大使館要員を南スーダンから出国させました。21日、ボルからアメリカ人を救出しようとした米軍兵士4人が負傷しました。CV-22オスプレイがボルの空港に着陸しようとしたところ、何者かが小火器で攻撃しました。22日、国連と南スーダン政府との協調の下で、アメリカ人は脱出しました。

 ジョン・ケリー米国務長官(Secretary of State John Kerry)はキール大統領とマシャル元副大統領に電話をしましたが、両者は対話の準備があると言ったものの、キール大統領はマシャル元副大統領の野党指導者を先に釈放するという要請を拒否しました。

 南スーダン政府はマシャル元副大統領派の軍隊が、反政府軍が支配する2つの州の1つの州都、ベンティーウ(Bentiu)を支配したままだと言いました。ボルは火曜日に奪還し、反政府軍の残兵を掃討中です。

 聯合ニュースによれば、24日午後5時(現地時間)、韓国軍の基地に迫撃砲2発が基地内に着弾しました。韓国軍の基地から4kmの地点で戦闘が発生し、韓国軍部隊から300メートル離れたネパール軍区域(基地)内に迫撃砲2発が落ちたのです。迫撃砲の着弾でネパール軍兵士数人がかすり傷を負ったもようです。

 この迫撃砲弾は流れ弾です。心配いらないと言えばそうですが、首都にいる自衛隊基地に同様の流れ弾が落ち、死傷者が出る可能性もあります。

 私は何人の日本国民が、南スーダンを助けるために、自衛隊が派遣されたのかを理解し、説明できるのか疑問に思います。インターネット上には「丸腰で派遣する方がおかしい」といった無責任な意見が散見されます。しかし、武器使用条件の緩和には防衛省自体が消極的で、派遣を促進する外務省が積極的というおかしな構造もあります。軍事を知る者ならば、武器を使えば相手はそれ以上の武器を使うことを知っています。

 すでに平和憲法や自衛隊という特別な武装組織の意義は失われつつあり、日本国民はそれを支持しようとしています。これは平和教育の反動かも知れません。軍事を正確に知ろうとするのではなく、戦争体験中心に平和を説いてきたため、日本人には目の前の新しい軍事危機を分析して、正しく対処しようとする能力が育たなかったのです。もしかしたら、もうこれを正すことは不可能かも知れないと、私は考え始めています。


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