ツァルナエフに黙秘権を認めない報道の誤り

2013.4.24


 どうやら、ボストン爆弾事件の犯人、ジョハル・ツァルナエフ容疑者に黙秘権を認めないという報道は、誤報とも言える欠陥報道だったようです。
 
 読売新聞は、ニューヨーク・タイムズ紙が報じた裁判所の記録によると、同容疑者は病室での訴追手続きの説明にうなずいて理解した意思を示し、弁護士を選任する費用があるかどうかの質問には肉声で「ノー」と答えたと書いています。

 弁護士をつけるのなら、被疑者の基本的権利は守るということであり、話がまるで違っています。そこで、BBCの記事を読んだら、疑問が解消されました。記事の一部を紹介します。

なぜ、彼(ジョハル・ツァルナエフ)は逮捕された時に法律上の権利について通知されなかったのですか?

司法省当局は、極めて重要な情報を手に入れるために、彼らは、黙秘し、尋問の際に弁護士を同席させる権利、いわゆるミランダ警告を告げる前に、ツァルナエフに広範に質問しようとしたと言いました。

後刻、ツァルナエフが起訴された時、病床の罪状認否に出席した治安判事が、彼の権利と彼に対する起訴について通知しました。

さらに興味深い記述もあります。

ツァルナエフは敵性戦闘員として処遇されるのですか?

いいえ。ホワイトハウスはツァルナエフは帰化した米国民なので、軍事裁判で敵性戦闘員にはならないと言いました。

 共和党議員の一部から、彼を敵性戦闘員として扱えとの声があがっているとも書いてありますが、省略します。

 ミランダ権利を黙秘権と訳したから誤解が生じたのです。捜査当局はミランダ警告の読み上げを省略し、すぐに尋問をはじめただけであり、継続的に黙秘権を認めない訳ではありません。

 情けない間違いです。日本の刑事捜査における低い人権保護に慣れている記者たちは、単純な間違いに気がつかなかったのです。日本の報道機関は図らずも、自分たちの人権意識の低さを露呈したに等しいといえます。

 常識的に考えても、被告人がしゃべらなければ、黙秘を認めないといっても意味はありません。どうしても口を割らせたければ拷問という話になり、それは裁判所ではなく、CIAの仕事になってしまいます。第一、弁護士なしで刑事裁判をするのは前代未聞であり、アメリカの民主主義の威信が失墜することは目に見えています。

 ここが日本の報道の決定的に弱い部分です。海外の報道を紹介する時に、日本人に分かりやすくしようとして、事実を反映しない記事を書いてしまうとか、省略してしまう傾向が、日本の報道にはあります。おまけに、恥知らずにも訂正もしようとしません。

 私の22日付けのコメントは、国内報道に基づいて、疑問点を書いたのですが、実態とは違っていたことになります。(記事はこちら


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