政権が変わると防衛方針も変わる?
衆議院選挙に先立ち、民主党がマニフェストを発表しました(pdfファイルはこちら)。その要点は次の通りです。
- 動的防衛力を強化しつつ、外交安全保障の基軸である日米同盟を深化させます。
- 「領域警備法」を制定します。グレーゾー ン事態を含めた日本防衛のため、海上保安庁等の対処能力向上を図りつつ、自衛隊による切れ目のない危機対処を可能とします。
「動的防衛力」は民主党政権中の平成22年(2010年)に制定された防衛大綱に示された方針です。昭和51年(1976年)に制定された防衛大綱では「基盤的防衛力」という概念が制定されていました。自衛隊が存在することで外国による侵略を未然に防ぐという考え方です。しかし、尖閣諸島の問題などが浮上した中、自衛隊は存在するだけでなく、機動性・即応性を確立し、テロ・ゲリラ攻撃や中国の軍事力増強・海洋進出などに対応する能力をつけろという訳です。意外に思えるかも知れませんが、不変のように思われた防衛方針を変更したのは民主党でした。
自公連立政権が誕生すると、民主党が制定した防衛大綱が気に入らないのか、新しい防衛大綱が制定され、動的防衛力は「総合機動防衛力」という概念が盛り込まれました。
しかし、この概念はどう見ても、動的防衛力に対抗して考案されたようにしか見えません。
「機動」は「動的」を言い換えたに過ぎないと思われますし、それに総合力を追加するという意味で、「総合」を付け加え、「総合機動防衛力」と名付けたと見えます。
総合機動防衛力の中身を見ても、動的防衛力にいくつかを補っただけという感じです。防衛省の資料を見ると「幅広い後方支援基盤の確立に配意しつつ、ハードおよびソフト両面における即応性、持続性、強靱性 および連接性も重視」とか「厳しさを増す安全保障環境に即応し、海上優勢・航空優勢の確保など事態にシームレスかつ状況に臨機に対応して機動的に行ない得るよう」などと書いていますが、その意味はいよいよ分かりにくくなった感じがします。
さらに言えば、もともと、動的防衛力という言葉自体、軍事の分野で伝統的に用いられてはおらず、その意味を理解しにくいという問題があります。分からないところに意味を付け足すと、さらに分かりにくくなるのは当然です。
戦後、全部で三種類の防衛概念が考案されたことになりますが、私はいずれも防衛の基本を無視していると考えます。
いずれの防衛概念も、脅威を根本に置いています。そもそも、これが間違いです。
国家防衛とは自国の領域を守ることです。よって、考えの基盤は「領域」に置かれるべきです。これは地理的要素なので、他国や組織など人為的な脅威に比べると変化の少ないものです。
過去、ソ連が脅威の中心でしたが、ソ連が崩壊すると、北朝鮮や中国が脅威だとみなされるようになりました。仮想的は国の都合に合わせて作られることに勘の良い人は気がついているはずです。
領域の地形、気象条件は、防衛組織の性質や量を大きく左右します。防衛概念はこうした要素によって内容が決まると考えなければなりません。というのも兵器の性能は、それを使用する場所によって、効果が大きく変わるからです。
だから、古来、戦略家は兵器の性能を最も発揮できる形で運用しようとしてきました。それが戦術・戦略です。
ところが、日本の防衛方針は、そこからスタートするのではなく、当面の脅威をスタート地点としてきました。そのため、議論が分かりにくくなったのだと考えます。警察予備隊、保安隊、自衛隊は軍隊ではないという説明づけのために、表立って話せなかったのかも知れませんが、それが現在の防衛議論が曖昧に感じられる原因となっているように思われます。
政治家にとっては即時性、時事性が重要です。外国の脅威に目がいきやすく、脅威中心の防衛概念に飛びつきやすいのは理解できます。しかし、このまま行けば、どの政党が政権を握っても、防衛議論は曖昧なままでしょう。
|