安倍政権の側近が特攻隊に涙?
朝日新聞デジタルによると、米紙ウォールストリート・ジャーナルが安倍晋三首相の経済ブレーン・本田悦朗内閣官房参与にインタビューし、神風特攻隊を例に首相の靖国参拝を擁護したなどと伝えました。
本田氏は20日、「私の真意が全く伝わっていない」と述べ、発言内容を否定しました。
記事は一部を紹介しました。(WSJ誌の記事はこちら)
騒動の発端になったWSJ誌の記事を読んで、私は少なからずショックを受けました。本田氏の発言があまりにも情緒的に思えたからです。こんな人たちが軍事を司れば、どのような間違いも起こり得ます。
指摘したいのは下の部分です。
本田氏は大学教授でもあるが、その言わんとすることを強調するため神風特攻隊が米空母に体当たりするさまを頭の高さに上げた左手を落として表現した。同氏は「日本の平和と繁栄は彼らの犠牲の上にある」と、目を真っ赤にさせながら言い、「だから安倍首相は靖国へ行かなければならなかったのだ」と語った。
読者が本田氏と共通する感情を少しでも持つなら、軍事を語るのは待った方がよいでしょう。こういう感情は、中途半端に戦争を知る者に共通する意識だということを、私は経験から知っています。
本田氏は特攻隊員になったような気分になって、その感情に酔い、陶酔しているだけです。手で空母に突っ込む特攻機を演じて、目頭が熱くなるようでは、到底、目の前の危機について、冷静に考えることはできないでしょう。本田氏が知る戦争は、色づけされた、メディアの中の戦争であり、本物の戦争とは思えません。
本田氏は彼らと同じ犠牲を払った訳ではありませんし、苦痛を味わった訳でもありません。そもそも戦争の本質である「暴力」を知る訳でもありません。試しに、彼の頬を叩いたら、どんな反応をするのだろうと考えてしまいます。これは特攻隊員が体験した暴力の足元に及ばないほど、低レベルな暴力です。
戦争を知ろうとするなら、できるだけ多くの人たちの体験や研究を読み、それらを総合して、戦争の実態を解き明かさなければなりません。戦争を体験し得ない者にとって、過去の経験から謙虚に学ぶしか方法はありません。
軍事を勉強すると、次第に戦争を客観的に見ようとする意識が強くなります。特攻隊を賞賛する前に、特攻隊が必要にならない状況を作るにはどうするかを考えるようになります。さらには、戦争を回避するにはどうするかを考えるようになるのです。次第に、本田氏みたいな感傷は、現実の暴力の前には、何の足しにもならないことを理解するようになります。センチメンタルな感情は、心の隙としか思わなくなります。そんな心を少しでも持っていれば、判断を誤り、それこそ無用な戦争犠牲者を生んでしまいます。
WSJ誌は、おそらく、アベノミクスについて聞くために、本田氏にインタビューしたのでしょう。そこで本田氏の意外なナショナリストの面に遭遇し、記事は別の方向へ向かったのです。本田氏が「あまりにもバランスを欠いた記事だ」とWSJ誌に電話で抗議したのは、多分、下の部分でしょう。(関連記事はこちら)
安倍首相の経済分野での政策を練るブレインの1人である本田氏は、「アベノミクス」の背後にナショナリスト的な目標があることを隠そうとしない。同氏は、日本が力強い経済を必要としているのは、賃金上昇と生活向上のほかに、より強力な軍隊を持って中国に対峙できるようにするためだと語った。同氏は中国に「深刻な脅威を感じている」としている。
この程度の戦略はどの国も行うことで、これを書かれたからと言って、慌てふためくのは疑問です。むしろ、記事になってほくそ笑むくらいでなくてはなりません。本田氏は、間違いなく、こういう主旨のことを言っているはずです。当然、記者は発言を録音したはずです。取材したダウ・ジョーンズ社は「記事の内容は正確だと確信している」と主張しています。菅義偉官房長官は、ダウ・ジョーンズ社から、内容を修正する用意があるとの回答があったとも説明しましたが、同社は「修正をする用意があると申し出た事実もない」と否定しています。なんと情けない展開でしょうか。
放言して、批判されると、慌てて否定するのは、日本の保守政治家などにみられる特徴です。安倍政権になってから、この種のドタバタ劇が急増しました。民主党政権には問題もありましたが、こういうトラブルはほとんどありませんでした。こういう人たちが国家戦略を決める立場にあることに、私は非常に不安を感じます。せめて、安全保障政策は、冷静な考え方の人に決めて欲しいと思いますが。政界を広く見渡しても、適任者が見えてこないのが不安です。
戦国時代の有名な逸話に、北条氏直が汁かけ飯に汁を二度がけしたのを見て、彼の父親の氏康が手際の悪さを嘆いたというのがあります。一回でかけるべき汁の量も加減できないようでは、家を滅ぼすというわけです。安倍政権が北条氏直にならないように、祈るしかないのでしょうか。
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