映画『ローン・サバイバー』が日本で好評

2014.3.25


 アフガニスタンで行われたレッド・ウィング作戦の悲劇を描いた映画『ローン・サバイバー』が公開され、観客の感想がインターネットで読めるようになりましたが、シールズ隊員を称賛する意見ばかりなのに驚かされます。

 私は原作は読んでいないので、原作の内容は理解していないし、映画がどこまで事実を反映しているかも分かりません。映画を鑑賞した段階で言えるのは、作品が非常に高い技術で制作されているということです。

 しかし、そこに描かれた戦いには、反省すべき部分が多々あります。それを指摘した感想がみられないのは残念です。

 そこで、軍事的には、レッド・ウィング作戦をどう評価するかを書いてみました。この作品を鑑賞する予定がある人は、以下は読まないでください。内容に触れた部分があります。

 作戦の目的はタリバン指揮官、アフマド・シャーを拘束もしくは殺害することでした。襲撃する村を監視するために、偵察班として4人のシールズ隊員が村を見下ろせる山地に進入します。しかし、4人は羊飼いたちに発見され、それをきっかけにタリバン兵200人に追跡されることになります……。

 まず、作戦に対する疑問が浮かばなければなりません。

 第一に、無線も衛星電話もつながらない場所に偵察班を置いたことが誤りです。高山が通信を遮断しかねないことは予見できたはずです。誰も地図を見ていなかったかのような怠慢です。遠隔地で活動し、少人数の特殊部隊は敵の攻撃に脆弱であり、十分な支援がない限りは戦力を発揮できません。偵察班をそこに置きたいなら、山頂か上空に無線の中継点を設けるべきです。

 第二に、武装ヘリコプターやガンシップのような近接航空支援の資源が足りないのに、敵勢力圏内に兵を出したのは誤りです。この問題は、アフガン東部の他の作戦でも起きています。支援なしに4人の救援に赴いたために、さらに別のヘリコプターと乗員が犠牲になりました。RPGがヘリコプターを撃墜できることは、1993年にソマリアのモガディシュで実証済みなのに、同じ誤りを繰り返したのです。

 実際どうだったかは分かりませんが、襲撃する村を監視するために、漫然と偵察班を配置した結果の失敗と言いたくなります。

 また、被害がこれだけで済んだのは幸運でした。無線が通じない場所に置いた偵察班は、アフガン人に発見されなくても、本隊が村に入った時に何の連絡もできなかったはずで、状況によっては、本隊の大勢を危険にさらしたかも知れません。

 偵察班が犯した誤りもあります。

 まず、簡単にアフガン人に発見されたことです。誰も通るはずかないという油断が原因です。偽装を完璧にしていれば、羊飼いをやり過ごせました。

 偵察班はアフガン人を解放した後、全力で逃げなければならないのに、なぜか途中で休み、敵に捕捉されます。敵が大勢なのは分かっており、追いつかれたら勝負にならないことも分かっています。なのに、彼らはタリバンとの銃撃戦を回避しようとしません。

 そこには、自分たちの力への過信があるように思われます。過酷な訓練を生き残ったことから、自分たちがタリバンよりも優秀だという思い込んでいたのではないかと思うのです。

 訓練、装備、どちらを取っても、タリバンよりシールズは優秀です。シールズの訓練は、あらゆる状況を想定したもので、米軍のコンバットブーツはハイテク製品で、一日中履いても疲れません。小銃もタリバンのAK-47にはない装備がついています。

 しかし、こうした優位性は、戦場では常に効果を生まないのです。

 練度は数で補える上、山狩りでは追跡側が有利な場合が多く、精鋭兵でなくてもできる任務です。タリバンの靴は安物でも、山に慣れた彼らは、シールズ隊員より早く山を歩けるのです。

 劇中に「なぜ、奴らは俺たちより早く歩ける?」という、シールズ隊員のセリフがあります。ここに、彼らがタリバンをなめていた証拠が提示されています。ジョギングシューズで早く走れても、山の中で早く移動できるかは別問題です。

 銃撃戦は長時間になるほど、被弾する危険を増やし、少数側が不利になります。銃で相手を狙うということは、相手から見られる危険もある行為なのです。撃ち合いを続ければ、それだけ危険に入り込みます。だから、シールズ隊員は、タリバンとの銃撃戦を避けなければならなかったのです。

 止まらずに動きながら戦う戦術は正しいのですが、多勢に無勢では結果は見えています。

 唯一の脱出方法は、捕らえたアフガン人2人を木に縛り、1人を連れて山を登り、夜が近くなってから、アフガン人を解放することでした。後は徹夜で歩き、通信を回復させつつ、進入地点まで戻るのです。これにより、追跡の開始を遅らせられたかも知れません。

 私はアフガン人をこそ称賛します。タリバンは不利な装備を数の力で補い、短時間で敵を補足し、攻撃したのです。また、主人公のマーカスを助けたパシュトン人の勇気は称賛されるべきで、アフガン文化の凄さを知らしめています。私はこの作品はアメリカ人が犯した誤りを、図らずも露呈させているように思えました。


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