石破幹事長がアジア版NATO構想?

2014.3.7


 産経新聞によると、安倍晋三首相は6日、石破茂幹事長ら自民党幹部と相次いで会談し、集団的自衛権の行使容認に向けた手続きを調整するよう指示しました。

 石破氏は同日、軍事的な台頭を続ける中国への抑止力として「アジア版NATO(北大西洋条約機構)創設構想」も披露。

 石破氏は首相との会談後、国会内で開いた会合で「中国の国防予算が伸び、米国の力が弱まる。この地域では中国とのバランスを取らねばならない」と述べ、「アジア版NATO」に言及しました。

 欧米の自由主義諸国が旧ソ連圏と安全保障で対抗するために結成したNATOのように、アジアでも米国を中心に東南アジアなどと連携した対中国の安全保障体制の構築が必要だとする考え。首相の意向に沿った発言というのが衆目の一致した見方で、国際社会で主導的な役割を担う安倍政権の「積極的平和主義」を具現化する構想といえます。

 構想の実現に、集団的自衛権の行使容認は避けて通れません。石破氏は会合で、行使容認について「今回やり損なうと、当分だめだろう」とも述べました。


 何か悪い冗談みたいな話です。石破氏はこういう突飛なことを言う癖があります。また、そこに別の目的が隠されていることも多いのです。先に、原発を全廃すると、原爆を造れなくなると主張したのと同じ手法。今回の発言は無視して構いません。(関連記事はこちら

 記事には「首相の意向に沿った発言」と書かれていますが、これは周辺の見解に過ぎず、信じるに値しません。アジア版NATOを創設するのは大仕事であり、まず政府内での十分な検討とアジア各国との協議が必要です。現段階では石破氏の個人的見解に過ぎません。本気なら、議員の会合では言いません。

 要するに、別の理由を持ち出して、集団的自衛権を正当化したいだけです。今までは、集団的自衛権はアメリカを守るためと説明してきたのに、急に中国からアジアを守るためと言い出した訳です。この急変は、集団的自衛権論がいかにいい加減で、破綻しているかを証明しています。実現が重要で、理由はどうでもよいという、戦略理論なき発想です。

 第一、安倍総理の靖国参拝で中国と韓国とトップ会談ができない状態で、村山談話の見直し、従軍慰安婦問題を抱えながら、アジア版NATOを創設できるとは思えません。それをやりたいのなら、まず、第2次世界大戦から引きずる問題を解決すべきです。そして、それは安倍政権にできないことはハッキリしています。やれば自己矛盾になるだけです。

 アジア版NATOは、確かに将来的にアジアにあるべき組織です。しかし、現状は目標には遠く、簡単には実現しません。

 さらに、アメリカを守るためだけの集団的自衛権と、アジア版NATOのそれとは、武力行使のレベルは、後者が数段高いと見積もられます。

 たとえば、ベトナムがアジア版NATOの加盟国で、中国がベトナムを攻撃した場合、日本は直ちに中国と交戦状態になります。ベトナムへの自衛隊派兵や中国軍による日本本土への攻撃を想定しなければなりません。

 ヨーロッパでは、成熟した政治制度を持つ国同士がNATOを結成できましたが、アジア諸国は政治的に不安定で、こうした高度な義務を有する同盟が機能するかも疑問です。

 集団的自衛権を実現できないかもしれないという不安が、こういう妄言を引き出すのでしょう。


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