ウクライナ東部へのロシア侵攻はあるのか

2014.4.8


 BBCによれば、アメリカは親ロシアの抗議者たちが3つの街で政府の建物を占領した後で、ウクライナ東部で高まる緊張に対して強い懸念を表明しました。

 アメリカのジョン・ケリー国務長官(Secretary of State John Kerry)は、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣(Sergei Lavrov)に電話で、不安定化へのいかなるロシアの活動も代償を払うことになると言いました。彼らは10日間以内に直接対話を行う可能性を検討しました。

 建物が襲撃された後、ウクライナ政府は治安当局者をドネツク(Donetsk・kmzファイルはこちら)、ルハンシク(Luhansk・kmzファイルはこちら)、ハリコフ(Kharkiv・kmzファイルはこちら)に派遣しました。

 ドネツク地方政府の建物を占領した反政府派は月曜日に人民共和国を宣言し、ウクライナからの脱退に関する住民投票を5月11日までに行うことを要請しました。

 米国務省広報官、ジェン・プサキ(Jen Psaki)は、ケリー長官は電話でウクライナの分離主義者、破壊活動家、工作員の活動を公に否定するように要請したと言いました。彼女は、ケリー長官はウクライナ東部の活動が自然発生的に起きた出来事には見えないと指摘しました。「彼はウクライナを不安定にするロシアのいかなる活動も、ロシアにとってさらなる代償を払うことになると明言しました」と言いました。

 ラブロフ大臣はイギリスのガーディアン紙のウエブサイト版で、ロシアがウクライナを不安定にしたことを否定し、西側が根拠なく緊張を煽り立てたと非難しました。彼は親ロシアの抗議者にいかなる武力も行使しないようにウクライナ政府にも警告しました。ロシア外務省はウクライナ東部、特にドネツク、ルハンシク、ハリコフでの出来事を注視していると言いました。州により広範な権力を認めるウクライナ連邦の創設というロシアの要求を繰り返しました。「ロシアを指さし、今日のウクライナの問題すべてをロシアの責任にするのを止めなさい」と声明は言いました。

 親ロシアの抗議者はハリコフ、ルハンシク、ドネツクの政府ビルを占拠しました。警察は、ハリコフの建物から抗議者を排除しましたが、ルハンシクでは抗議者が武器を手に入れたと言いました。
 ウクライナの暫定大統領、オレクサンドル・トゥルチノフ(President Oleksandr Turchynov)は、混乱をロシアによるウクライナ分割の試みと呼びました。国営テレビで彼は、それはウクライナを不安定にして、政府を妥当して、予定された選挙を混乱させる、ロシアの作戦の第二波だと言いました。彼は悪化する危機に対処するため、リトアニアへの訪問をキャンセルしました。

 暫定首相、アルセニ−・ヤツェニュク(Prime Minister Arseniy Yatsenyuk)は緊急閣僚会議で、ロシアを占領で非難しました。「計画は状況を不安定にすることです。計画は外国の軍隊に越境させ、国の領域を占領することです。我々はそれを許しません」。

 首相の言葉に、月曜日にドネツクにいたウクライナ大統領候補、ユーリヤ・ティモシェンコ(Yulia Tymoshenko)が同調しました。彼女は親ロシアの活動家はロシアの情報機関のために働いていると言いました。

 BBCのモスクワ特派員、ダニエル・サンドフォード(Daniel Sandford)は、ドネツクの事件はクリミアの事件と似ているようで、大きく違っていると言います。ドネツクはロシア語を話す多数派と同様にウクライナ語を話す者が多く、世論調査は統一されたウクライナに対してかなりの支持を示していると、彼は言います。


 記事は一部を紹介しました。

 ハリコフ、ルハンシク、ドネツクを含むようにウクライナを分割すると、直線距離で約380kmの戦線を作ることになります。これを軍隊で切り取るのは可能かも知れません。しかし、それを維持し続けるのは難しい話です。

 クリミア半島と違って、ウクライナ東部には防衛に使える地形があまりありません。クリミア半島は本土との連結部分に海が複雑に食い込んでいて、幹線道路も限られています。簡単にフタをしてしまえる上に、ロシア側からの補給路が安全な形で通じさせられるのです。

 ウクライナ東部の場合、補給路は問題なくても、長大な戦線に兵を配備し続ける必要があります。 それをする覚悟がロシアにあるかが問題です。南北朝鮮の非武装地帯が直線距離で約220kmです。ここは起伏の多い地形で、大河もあって、それらを防御に活用できるという利点があります。ウクライナはもっぱら平地で、防御拠点は森くらいです。そう考えると、ドネツクは排除して、ハリコフとルハンシクのラインで境界線を作る方が、森を活用できる点で楽です。抗議者がロシアの指図で動いているとすれば、ドネツクでの抗議は余計に見えます。

 サンドフォード記者が言うように、統一ウクライナを望む人が多い地域で、反政府派が異なる3ヶ所の場所で同時に実力行使に出るとは考えにくく、この事件がロシアの指図で行われたことは、否定しにくいものがあります。ドネツクでも行動を起こさせた理由はいくつか考えられます。

    1. これは政治的圧力のためで、ロシアは実際には侵攻する気がない。
    2. ロシアは侵攻するつもりだが、ドネツクは陽動で、ハリコフとルハンシクの間で境界線を引く
    3. ロシアはドネツクを含めて三都市へ侵攻する。

 依然として、私は最も現実的なのは1だと考えます。ウクライナ政府が侵攻の脅威を主張するのは当事者として当然といえますが、第三者の立場からは、ロシアがウクライナに侵攻しても得るものよりも、失うものが多いと思うのです。黒海艦隊を失わないためにクリミア半島に侵攻するのはともかくも、中途半端にウクライナの領土を得ても、国際的な立場を失うだけです。ウクライナ東部を不安定化させ、クリミア半島の実効支配を進めることが目的だと、私は考えます。


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