集団的自衛権の想定事例は非現実的
産経新聞によれば、小野寺五典防衛相は24日午前の読売テレビの番組で、平時でも有事でもない「グレーゾーン事態」をめぐり、武装漁民が日本の島に不法上陸してその国の国旗を立てた場合には、自衛隊が自衛権に基づき防衛出動することも有り得るとの見解を示しました。
「ある国が日本の領土を支配に置く明確な意図があれば、武力攻撃と同じような事態になる」と述べました。
一方、グレーゾーン事態への対応で自衛隊が出動するには、関係機関との協議や首相の承認、閣議決定などの手続きが必要なことから「相当の時間がかかる。『自衛隊が速やかに行かないと助けられない時に、時間的に許されるのか』という問題意識で、議論しようとしている」と強調しました。
毎日新聞によれば、政府は、与党協議で焦点の一つになっている「米艦防護」のうち、武力攻撃には至らない「グレーゾーン事態」の事例として提示する「ミサイル防衛で展開する米艦船の防護」について、自衛隊法の規定「武器等防護」の対象を拡大して対応する方向で調整に入りました。集団的自衛権の行使として行うべきだとの意見もありましたが、武力攻撃がない段階では、現行の憲法解釈で対応可能と判断する見通しです。
自衛隊法95条の「武器等防護」は本来、自衛隊が自らの武器などを守るために武器を使用するための規定。政府はこれまで、米艦に適用できるのは、自衛隊の艦船と近接し、どちらが狙われたか判然としない場合などに限られると解釈してきました。
だが、北朝鮮が弾道ミサイル発射の動きを見せている段階では、自衛隊と米艦が情報を共有しながらミサイル防衛にあたります。このため政府は、防護の対象を、同じ目的で展開している米艦まで拡大する必要があると判断しました。対象拡大により、自衛権発動に踏み切らなくても米軍艦船への攻撃を阻止することが可能となります。
記事は一部を紹介しました。
この小野寺大臣の見解は、安倍総理が主張するグレーゾーン議論に真っ向から反対しているように見えます。防衛大臣による防衛出動命令が可能なら、もともと、グレーゾーンの設定など不要だということになります。閣内不一致でもあり、発言の意図を知りたいものです。
この発言で集団的自衛権の議論で出された事例が嘘だということが、改めて明白になりました。
漁民に偽装した特殊部隊が離島を占拠した場合は、国家による侵略ではないので、防衛出動ができないという主張は、そもそもが不合理であり、疑問を持たない方がおかしいのですが、マスコミは垂れ流しにしてきました。
「漁民に偽装した特殊部隊」と判明した時点で、上陸した集団が民間人ではないことは分かっているはずです。明らかに他国の軍隊が領土を侵略しているのに、それを侵略とみなさないという主張は、最初から理屈に合わないのです。
また、離島を領土と主張するために軍を派遣するならば、漁民に変装したのでは政治目的を達成できません。軍服を着て、国旗を立て、世界に占領した事実を知らせなければ無意味なのです。
これとは別に、北朝鮮からアメリカ本土に弾道ミサイルを撃つと、日本ではなく、中国やロシアの上空を通り、日本が迎撃する余地はないことは、当サイトで以前に指摘しました。日本上空を通過するのはハワイなどを攻撃する場合だけに限られます。さらに、現在の迎撃ミサイルでは、高い高度を飛ぶ弾道ミサイルには届きません。こうした情報が国民に伏せられたまま議論が進められています。
毎日新聞が報じたミサイル防衛での米艦防護も非現実的な話です。
北朝鮮の弾道ミサイルへの対処が現実化したとして、自衛隊と米艦が情報を共有しながらミサイル防衛にあたったと仮定しましょう。
イージス艦は同じ場所にいても意味がありません。互いに遙か離れた場所にいて、広範な範囲をレーダーで網羅しようとします。このため、お互いに水平線の遥か向こうに位置します。色々な種類の武器を搭載する戦闘艦でも、こういう距離では互いに援護はできません。どの武器でも射程が足りなかったり、照準する手段がなかったりで、遠すぎて攻撃が間に合わないという状況が起こります。なにより、イージス艦は単独では行動せず、他の艦と艦隊を組んでいます。周りにいる味方の防護を受けられるのです。なぜ、遠くにいる自衛隊の艦船の防護が必要なのかが分かりません。これが、米艦隊に自衛隊の艦船が従属していくのだとすれば、いよいよ話は分からなくなります。それは米軍のイージス艦と自衛隊の艦船が艦隊を組むことを意味します。米軍がそれを受け入れるとは思えませんし、米政府から要請があった訳でもありません。米海軍は自分たちだけで行動する方がやりやすいのです。そもそも、そんな軍事作戦の構想が米軍にあると聞いたこともありません。
有り得ない事例を提示し、国民に無用の危機を煽る安倍政権の手法は、正当な政治行為とは言えません。彼はアメリカから支持を得るために、小泉純一郎がやったように、軍事面での支援がしたいに過ぎません。そのためだけに憲法すら変えたがっているのです。政権の延命のために憲法を変えるなど、一政権の行為として、行き過ぎています。
とにかく、安倍政権が主張する集団的自衛権論は現実とずれすぎています。軍事的には、まるで漫画です。本当の危機なら、南スーダンに派遣されている自衛隊の目の前にあります。何度も指摘しているように、反政府派が盛り返した場合、政府派が国連に対する不満を拡大させた場合のいずれでも、自衛隊がいる国連基地が攻撃を受ける危険があります。そういう現実に危機に目を背け、空論に血眼になっている日本の現状こそ危険なのです。
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