ISISが『カリフ』の統治を宣言へ

2014.7.1


 BBCによれば、イラクのティクリート(Tikrit)で新しい衝突がありました。

 目撃者は複数の空襲があり、サダム・フセイン元大統領(Saddam Hussein)の宮殿が攻撃されたと言いました。地元筋は、反政府派が反撃で軍事基地の一部を占領したと言いました。前日に『イラクとレヴァントのイスラム国家(ISIS)』が『カリフの統治』を創設したと発表していました。

 反政府派は、政府軍のヘリコプターの攻撃にも関わらず、ティクリート北部のスピーシャー陸軍基地(the Speicher army base)の一部を占領しました。

 イラク軍は反政府派が基地の支援のために来た車列を追い返したという報道を否定しました。
 
 金曜日、イラク軍はティクリート大学のキャンパスの一部を奪還しました。週末の攻勢は激しい抵抗に遭い、兵士はディジュラ(Dijla)まで撤退しなければなりませんでした。

 土曜日、ISISはイラクとシリアの支配領域にイスラム国家(カリフ)を確立したと言いました。また、グループの指導者、アブ・バクル・アル・バグダッディ(Abu Bakr al-Baghdadi)をカリフ(あらゆる場所のイスラム教徒の指導者)と宣言しました。

 厳しいイスラム法で支配される国家の建設は、イスラム過激派の長年の夢でした。ISISは、いまからグループは単に『イスラム国家』と呼ばれるとも言いました。

 アル・バグダッディは、カリフ・イブラヒム(Caliph Ibrahim)と呼ばれると言いました。

 一方、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相(Prime Minister Benjamin Netanyahu)は、スンニ派武装勢力に対抗するために、クルド人の独立国家を創設することを要請しました。


 記事は一部を紹介しました。

 元記事にはティクリートの写真も掲載されており、重要な場所の位置関係が分かります。

 元記事には、ISISが製作したビデオ映像も掲載されており、それはなかなか洗練された内容です。

 ティクリートは完全に奪還できていないという印象を受けました。かなり失望しました。これでは、今後の展開に期待が持てません。現地は平地の住宅街で、市街戦の戦術が用いられるべき場所です。これができるように米軍は占領中にイラク軍を訓練したのですが、身についていないようです。

 イラク軍がどういう戦いをやっているかは分かりませんが、こういう戦場では、歩兵部隊で接近して、敵の位置を特定し、動けないようにしてから砲爆撃で建物ごと敵を粉砕するという方法が用いられます。それを近くの街まで後退させられたというのは、まともに銃撃戦で打ち負かそうとしているようにも見えます。これでは犠牲者が増えるばかりです。

 さらに問題なのは、ISISが『カリフの統治』を宣言したことです。彼らにそこまでの力があるとは考えていませんでしたが、これを宣言したことにより、イスラム主義者の反西欧活動はさらに拍車がかかり、外国人戦士がISISに志願することが増えるようになります。

 カリフとは、マホメットが死亡した後の指導者のことです。私の解釈では、イスラム過激派は、イスラム教がスンニ派とシーア派に分裂する前の状態に戻すことを『カリフの統治』と呼んでいて、シャリア法のような厳しいイスラム法で社会を統治することを意味します。対極に位置する世俗派とは、まったく違う社会を理想としています。

 ISISがその名称を単に『イスラム国家』と変えたのは、すでにシリアとイラクの区別は不要だという発想でしょう。しかし、シリアは未だにアサド政権が支配し、イラクも健在です。両国を完全に支配下に置くには、もっと勢力を増す必要があります。特に、サウジアラビアのような国は、ISISを受け入れるはずがなく、強固に反発するはずです。こうした隣国の介入はISISにとって、抗しがたい障害となります。ネタニヤフ首相がクルド独立を主張したのも、その一環と言えます。その他の近隣国もアル・バグダッディをカリフとして受け入れることはありません。

 それでも、カリフの統治を宣言したことは、今後の紛争の激化に拍車をかけるとみなければなりません。

 中東はかなり厳しい状況です。日本は公明党が集団的自衛権を容認し、政権に残る道を選択しました。こうした日和見的な考え方は、ISISが展開する容赦ない闘争とは対極にあります。本当の戦争ではない偽物の戦争を日本はやっているのです。そして、この偽物の戦争がいつか本物の戦争に変わる危険もあります。戦争を理解しない人たちによって、それはいとも簡単に起きるはずです。

 


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