ホルムズ海峡での機雷除去が可能に?
菅義偉官房長官は3日のNHKの報道番組で、集団的自衛権を使って中東ペルシャ湾のホルムズ海峡で機雷除去を行うことについて、「(武力行使のための)新3要件を満たす場合に限り、(自衛隊が)機雷を除去しに行くことは可能だ」と述べ、機雷除去に地理的制限はないとの考えを示しました。
菅氏は、ホルムズ海峡が日本に原油を輸送する重要な航路だと位置づけた上で、「機雷がまかれるような事態になれば、国民生活にとって死活的な問題になる」と強調しました。
菅官房長官は、自分が言っていることが分かっているのでしょうか?。
ホルムズ海峡は狭いところで幅50km程度しかなく、接続水域や排他的経済水域を設定できない場所です。領海は基線となる場所から約22.2kmまでの沖合で、接続水域はさらに22.2kmもあるのです。こういう場所は対馬海峡と同じく、中心部に国際水域と呼ぶ水路を設けて船を通しています(地図はこちら)。
イランと接していることから、イラン軍はここを米海軍の船が通るときに、盛んに挑発行為を行います。高速ボートで、あたかも自爆攻撃をかけるようなコースで接近するのです。過去には、米海軍艦がイランの旅客機を戦闘機と勘違いして撃墜するという事件が起きていますが、この事件はイラン軍の挑発行為に対処する間に自艦の位置を見失った米艦船が、自分が国際水域を出て領海侵犯をしていることを理解しないまま、接近してきた旅客機にミサイルを撃ったことで起こりました。
こうした過去を持つ場所で、戦時に掃海作戦を行うには、掃海艇だけを派遣したのでは間に合いません。掃海艇を守るための戦闘艦も必要になり、船団を組んで派遣するしかなくなります。かなりの規模の艦船が戦争をするために派遣されることになります。掃海艇が地道に機雷除去を行うイメージとはほど遠い、本格的な戦争を想定しなければなりません。対艦ミサイルの射程は数百メートルで、ホルムズ海峡はごく狭いのです。 防空兵器の盾を破るために、敵は多数のミサイルを同時発射するに決まっています。
不思議なのは、起きてもいない事象について、政治家があれこれと対処を語ることに、誰も疑問を持たないことです。アメリカだと、こういう発言はむしろマイナスなので、政治家は「あらゆる可能性を排除しない」といった抽象的な発言で済ませるものです。事前に、こちらの対処を宣言する政治家は、敵に手の内を見せているのです。ホルムズ海峡が機雷で封鎖されたら、まず、国連安保理で対処を議論することになり、そこで各国の分担が決まります。どうするかは、その段階で判断することであって、事前に公言する必要はありません。
また、集団的自衛権の議論が「事例」を中心に進んだのも変な話でした。国内法や国際法、軍事常識から順を追って議論すべきなのに、政府は適当に選んだ、非現実的な事例を並べて、むしろ議論を萎縮させたのです。 これほど馬鹿げた議論はありませんでした。
こういうことを日本のメディアはまともに批判しません。彼らもまた権力の魅力に取り憑かれているのです。
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