事件の行き詰まりで、早期の人質解放は困難か

2015.1.30


 BBCによれば、ヨルダン政府は捕虜交換の交渉を続ける努力として、イスラム国に拘束されたパイロットの生存証明を模索しています。

 モアズ・アル・カサスバ中尉(Lt Moaz al-Kasasbeh)の家族は、情報源が捕虜交換の新しい期限が過ぎる直前に、彼が生きていることを保証したと言いました。

BBCの安全保障担当、フランク・ガードナー(Frank Gardner)の見解

 この人質事件の行き詰まり全体の不愉快な真実は、イスラム国の過激派がすべてのカードを握っているらしいということです。

 彼らは実際には、自爆未遂のイラク人、サジダ・アル・リシャウィ(Sajida Al-Rishawi)の釈放を必要としません。彼女は十年間近くヨルダンで拘束されていて、軍事的あるいは戦略的な価値を持たず、彼らは以前はまったく彼女を釈放させようとしませんでした。

 遙かに重要な過激派の囚人がヨルダンの刑務所にいます。イスラム国にとって、リシャウィはシンボルです。彼女は彼らの前身、ヨルダンのホテルを爆破するためにイラクのアルカイダが派遣したチームの一部でした。

 しかし、イスラム国の戦略家たちはより大きな賞品を狙っており、それは彼らに対抗する米主導の同盟を弱体化することです。

 リシャウィの釈放を手に入れることは、主権を有する西欧志向の国がテロリストの要求に屈服することです。それはイスラム国にとっての勝利であり。ヨルダンのアブドラ国王にとっては困惑です。

 取引をしないと、イスラム国は彼らの脅しを実行し、拘束されたヨルダン人パイロットを殺害し、彼らの支持者と新兵にアピールするためにインターネットにその証明を投稿することを考えそうです。

 何を置いても、イスラム国は世界の注目を数日間集め、無視することがあまりにも危険な暴力組織としての評判を強化します。


 記事は一部を紹介しました。

 ガードナー氏が言うとおり、私もイスラム国がリシャウィの釈放にこだわる理由が分かりません。昨日紹介したように、他にも大勢のイスラム国の囚人がいるのです。

 ただ、イスラム国が恐怖を世界にまき散らすためだけに、この事件を行っているとも考えにくいと思っています。

 テロに屈しないというパラダイムが崩壊していることは、昨日紹介した記事の通りです。もちろん、イスラム国がそう思っていない可能性はあります。しかし、そのために、彼らは人質を斬首して、映像を公開するのが常でした。今回は、何度も要求を繰り返し、リシャウィを釈放させようとしています。目的はリシャウィ解放そのものだと、私は考えます。

 ヨルダンの威信を失墜させることが目的とも思えません。その程度が彼らの目的なのでしょうか?。一時的にヨルダンの威信が落ちても、それは人質をとられてやむを得ないことだったとの同情論が広まり、時間が経つと傷は癒えるからです。テロ組織が誘拐で大金を手にしていることから、単なる犯罪とみなされていて、大義がないことも十分に認知されています。

 ヨルダンが中尉の生死確認にこだわる理由が私には分かりません。昨日の刻限を守らなければ、中尉が殺された可能性も十分にありました。後藤さんが道連れになる危険もあったのです。そして、イスラム国がヨルダンが約束を反故にしたことについて、何のメッセージも出さないことも理解できません。

 カサスバ中尉の家族が、彼が無事だという情報を手に入れたとの話は信憑性を疑うべきです。ヨルダン政府が無事を確認したのなら、公式発表があるはずです。何者かが金目当てに家族に偽情報を提供したと考えた方が自然です。

 このまま事件が長期化する危険があります。イスラム国が一方的に接触を断ち、事件を塩漬けにする可能性です。

 


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