誤爆が部隊の行動基準に違反の疑い

2015.10.8


 military.comによれば、アフガニスタンで病院を空爆したことは1年前に戦闘任務を終えて以来、米軍が運用してきたルールを越えていたかもしれないと当局者が言いました。

 米当局者はクンドーズ(Kunduz)で22人を殺した攻撃の詳細は述べませんでした。

 米軍には米軍の火力を求めるアフガン軍すべてを満たす包括的な権限はありません。バラク・オバマ大統領(President Barack Obama)が戦闘任務を終えさせた時、彼は残存する米部隊にアフガン軍への訓練と顧問、対テロリズム任務に集中するように命じました。

 武力行使の権限は3つの状況に限られました。

部隊防護、米軍及び同盟軍の防衛
アフガンのアルカイダ残兵を目標とした任務の支援
大量の犠牲者に直面した極限的状況でのアフガン軍の支援

 これら3つの基準がクンドーズに当てはまるかどうかは不明です。キャンベル大将は米軍はその時に直接的な脅威を受けていなかったと言い、アルカイダが存在した徴候はありません。

 6月の議会報告で、米国防総省は米軍はタリバンやアルカイダ以外のその他のグループその連携する個人を狙う権限はないと言いました。米軍は米軍と同盟軍に直接的な脅威を及ぼす個人に対する行動を行うことが許可されます。「たとえば、米軍はタリバンのメンバーだということだけでは個人を狙うことはありません。しかし、タリバンのメンバーが米軍や同盟軍に脅威をもたらしたり、アルカイダに直接的な支援を行う場合、米軍は適切な行動を行えます」と報告書は言いました。


 記事は一部を紹介しました。

 今回の誤爆事件を耳にしたとき、確かに違和感を感じたのですが、それは戦闘任務終了後の部隊行動基準のことだったと、この記事を読んで思い当たりました。

 しかし、基準の1番目「部隊防護」がアフガン軍の支援も含まれるように思われます。

 これまでの報道で分かったのは、タリバンとアフガン軍が交戦中で、付近に米特殊部隊がおり、アフガン軍が米特殊部隊に空爆を要請し、米特殊部隊とAC-130が無線交信で空爆を行うことを決定したということです。これは「部隊防護」に該当すると考えられます。

 もっとも、報道する側としては部隊行動基準違反を指摘するのは当然です。日本のマスコミなら沈黙するかも知れません。

 通常、砲爆撃を要請する時、ユニバーサル横メルカトルグリッド座標(UTM)で位置を指定します。「あそこの山の8合目を爆撃しろ」「赤い屋根の建物を破壊しろ」といった曖昧な言い方で攻撃場所を指定するのではありません。

 事前に地図上を1000m幅に仕切り、それに番号を振っておきます。x軸とy軸は2桁の数字で表現され、たとえば「0305」のように表現します。これはx軸が「03」y軸が「05」の番号が振られているという意味です。これでは指定する範囲が広すぎるので、頭の中で「0305」をさらに100mに仕切った位置を考えます。x軸を範囲の左端から右へ0〜9、y軸の下から上へ0〜9の数字を振ります。目標のx軸が7、y軸が9の位置だとすると、「037059」と読みます。さらに細かく指定したければ10m単位で同様の指定を行い、8桁の数字で位置を指定します。具体例は「TacOps」のユーザーマニュアル127ページを参照してください(マニュアルはこちら)。

 この方法は非常に便利ですが、数字を読み間違えたり、無線の音声が不明瞭で別の数字に聞こえたりすると、大きな誤りが起こります。

 米特殊部隊がどこにいたのかは不明ですが、顧問が主任務なので、アフガン軍の後方だったと考えられます。イラクでも米顧問団がもっと前方に出たいと文句を言ったことがあるほどです。アフガンでも同じでしょう。米特殊部隊はアフガン軍から空爆要請を受け取り、その妥当性を判断した上でAC-130と連絡を取ったはずです。アフガン軍特殊部隊指揮官が「病院を爆撃するつもりはありませんでした」と述べていることから、彼らは別の位置を攻撃するよう要請したのです。アフガン軍が座標の指定を間違えたのか、通訳の段階で誤りが起きたのか、米特殊部隊とAC-130のどちらかが聞き違えた可能性があります。

 アフガン軍が間違った場所を指定しても、特殊部隊とAC-130が誤りに気がついて、攻撃を却下し、正しい攻撃場所を割り出したはずです。

 アフガン軍が正しい座標を伝えていた場合、米特殊部隊とAC-130の連絡の間か、AC-130が聞き間違えた可能性があります。いずれの部隊にも病院の位置が伝わっていれば、座標が攻撃すべき場所ではないことに気がついたはずです。あるいはAC-130の無線兵が正しく聞き取ったのに、それを砲手たちに伝える間に誤りが起きたのかもしれません。攻撃の最終決定権はAC-130にあるはずなので、彼らの責任は免れないでしょう。また、病院の位置が特殊部隊にもAC-130にも伝えられていなかったのなら、それは現地司令部の重大な過失で、処罰はかなり上にまで遡ります。

 病院はタリバンが実際にいた建物の真北にあります。もし、座標が間違っていたら、攻撃地点が真北に移動した可能性は十分にあります。昨日の記事で指摘した可能性は、こうした根拠に基づいています。

 支援団体には戦地にある施設の屋根に大きな文字を描き、誤爆を防ぐ対策を取って欲しいと考えます。AC-130のモニタなら、標識は間違いなく視認できます。最後の段階で安全を確保するために実践して欲しいのです。

 この事件の責任は米軍にあるのでしょうが、過度に批判するのも問題です。ちょうど、シリアではロシア軍が空爆をはじめており、彼らも民間人の犠牲者を出していると報じられています。しかし、ロシアは民間人の犠牲を一切認めていません。責任を認めるだけ、米軍の方がましといえます。ロシアは誤爆事件をアメリカを非難する材料として使うでしょう。こういうのが現在の国際環境なのです。国連で第三者による調査を行うにしても、ロシアがメンバーに入ると期待はできなくなります。

 報告書の内容はまだ分かりませんが、この件で軍事裁判は行われないと想像します。部隊指揮官による処罰で終わる可能性の方が高いといえます。

 これも集団的自衛権の活動で起こり得る問題の一つでもあります。

 


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