シリア空爆でトルコ、ロシア、フランスが食い違い
alarabiya.netによれば、トルコはシリア北部でロシア軍機がトルクメン人の村を爆撃したことに抗議するためにロシア大使を呼び出したと、アフメト・ダウトオール首相(Prime Minister Ahmet Davutoglu)は金曜日に言いました。
アンドレイ・カルロフ大使(Andrei Karlov)との会談で、トルコはトルコ国境付近でのロシア軍の作戦を即時中止するように求めたとトルコ外務省は声明で言いました。「ロシア側の行動はテロに対する戦いではなく、彼らはトルクメン人民間人の村を爆撃し、深刻な結果を引き起こしかねませんでした」。
トルコ政府は伝統的にシリア系トルクメン人との連帯を示してきました。彼らはトルコ人の先祖を持つシリア人です。
レジェプ・タイップ・エルドアン大統領(President Tayyip Erdogan)はロシアがシリア内戦に関与を増していることに懸念を、10月にロシアがトルコの空域を侵害したことに怒りを表明しました。バシャル・アル・アサド大統領(President Bashar al-Assad)の軍隊を支援するロシアの空爆は内紛の力の均衡を動かし、アサドを権力から追放するトルコの狙いを妨げました。
トルコ外務省はトルクメン人の村はハタイ州(Hatay)のイェラダグ国境検問(Yayladag)に近いシリア北西部のベイラブカク地区(Bayirbucak)でロシア軍機の重爆撃を受けたと言いました。
alarabiya.netによれば、フランスは金曜、シリアの石油施設に対する空爆が違法だったというロシアの指摘を、イスラム国による攻撃への適切で必要な反撃だったとして否定しました。
フランシス・オランド大統領(President Francois Hollande)は、イスラム国と戦う大連合を作る努力の一環として、11月26日にモスクワを訪問しますが、ロシアとイランが支援するアサド大統領の将来に関する意見は食い違っています。
フランス政府は今週、11月13日にパリで130人が殺された攻撃に続いて、民兵の拠点ラッカ(Raqqa)への空爆を開始しました。フランス政府は先に、イスラム国が支配する石油施設を攻撃目標として、イスラム国の主要な収益の流れを断ち切ろうとしたと言いました。
ロシア外務省のイリア・ロガチョフ(Ilya Rogachev)は金曜日、フランスが国連憲章第51条による自衛行為だとして攻撃を正当化したことを非難しました。彼はフランス政府がシリア政府からの承認を得ようとしなかったのだから履き違えだと言いました。「彼らはシリア政府による合意なしに実行したので、我々はこうした行動を支持できません」と彼は新聞に言いました。「施設の爆撃はまったく別の理由に基づいており、自衛行為との正当性は成り立ちません」「アサド大統領とイスラム国は彼らにとって同じ優先順位の敵なのです。彼らはそうした攻撃によって彼ら両方に損害を負わせます。フランスはイラクでは同じ攻撃目標を爆破しないことに注意してください」。
フランス外務省広報官、ロマン・ナダル(Romain Nadal)は「イスラム国が支配する石油基地に対する攻撃は合法的な自衛行為の一部です」と金曜日に言いました。「ダーイシュ(イスラム国のこと)によって行われた攻撃に対する必要で適切なバランスがとれた対応です」。
ロシア派今週、イスラム国がエジプトのシナイ半島上空でロシア人客を満載した航空機を撃墜したことが確認されたことに対して、ラッカに大規模な攻撃を開始しました。水曜日、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣(Foreign Minister Sergei Lavrov)は、西欧がイスラム国に対する国際的な連合を求めるのなら、アサド追放を取り下げなければならないと言いました。
記事は一部を紹介しました。
まったく呆れた展開です。イスラム国という脅威の前に大国同士が意見の相違を露わにしています。これは総合的な戦力の集中を阻害し、イスラム国を利するだけです。
トルコの主張は差し迫った危険に対することですが、爆撃を受けたのはシリア領内で、その主張をどう見るかは微妙なところです。民間人の村が爆撃された件を指摘するのは問題ありませんが、歴史的に先祖だからという理由で隣国のことまで主張する理由が混じっている件は気になります。
同時にロシアの爆撃が無差別的になっている点には注意が必要です。誤爆を一度もやっていないという主張を、そろそろロシアは取り下げてくれないと。ま、無理なんでしょうけど。
フランスが石油施設を攻撃したことに対するロシアの批判は、毎度の「我がことを差し置いての物言い」に他なりません。これはロシア式外交の常のことと考えなければなりません。ロシアも旅客機撃墜で報復攻撃を行っています。それなのにフランスが同じことをすると文句を言うのです。その根底には、石油施設が自分が支援するアサド政権の資産だからという理由があります。国連憲章第51条の条文は次のとおりです。
第51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまで の間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければな らない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対 しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
ロシアはシリア政府の合意がないから違法だと言います。しかし、第51条にはそんなことは書いておらず、安全保障理事会への報告を義務づけているだけです。当事国の同意は必要がありません。ロシアの主張には根拠がありませんが、要するに、シリア政府の資産を破壊するような攻撃を止めさせたいので批判したのです。
さらに言えば、第51条は安全保障理事会が必要な措置を取るまでの間だけ認められる個別的・集団的自衛権ですが、イスラム国への対処に関しては常任理事国が同士がこのようにいがみ合っているので、採決が成立する見込みはありません。つまり、イスラム国に対しては永続的に個別的・集団的自衛権による対処しか行われないということです。
フランスの報復攻撃の正当性は別に考える必要があります。報復としての空爆に意味があるかという問題です。もともと、空爆は独立した手段ではなく、自由シリア軍やクルド軍等による地上戦を支援するために開始されました。ところが、フランスはもっぱら報復攻撃として空爆を開始しています。その内容はすべての情報を手に入れて精査しないと評価はできないのですが、地上戦との連携が保たれているのか、単に報復のためにイスラム国の施設に対して行っているのかを判断する必要があります。
ところで、ラッカに対する空爆が激化したことで、近い将来にラッカが陥落する可能性が高まったといえます。日本としては、後藤健二、湯川遥菜氏の遺体を回収する機会が得られることになるのですが、その作業はするのでしょうか?。とうの昔に、それはしないと宣言してしまった日本政府ですが、改めてチャンスが巡ってきてもやらないのでしょうか?。 ヨルダン政府は間違いなく、焼き殺されたカサスバ中尉の遺体を回収するでしょう。仮にヨルダン政府が日本人の遺体も見つけて、返還を申し出ても受け取らないのでしょうか?。
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