病院誤爆事件で裁判がなさそうな理由

2015.11.7


 military.comによれば、アフガニスタンのクンドーズ(Kunduz)の病院に対する空爆を止めさせるために、国境なき医師団がどのような事を行ったかが明らかになりました。

 10月3日の早朝、空爆が1時間以上続いた時、彼らは少なくとも17回電話をかけ、テキストメッセージを送りました。彼らは繰り返しカブール(Kabul)の米軍に電話をかけました。彼らはアフガン軍に電話をかけました。彼らは米国防総省に電話をしました。彼らは赤十字社に電話をしました。空軍特殊作戦軍のAC-130U「ガンシップ」から攻撃を受けていると言ったとき、カブールにあるNATO軍の「確固たる支援任務(Operation Resolute Support)」司令部の米当局者は「それを聞いて申し訳なく思います。まだ何が起きたのかは分かりません」といいました。攻撃が続いているといった時、「確固たる支援任務」の別の当局者は「ベストを尽くします。貴方たち全員のために祈ります」といいました。

 国境なき医師団は初期評価の一環として電話とテキストメッセージの記録を公表しました。その評価は犠牲者の一部が病院から逃げようとした時に、AC-130のミニガン(訳註 後述しますが、これは誤記と思われます)により撃たれたことを示します。「多くの職員は人々が、空爆の度に攻撃を受けた病院の中央棟から逃げようとした時、恐らくは航空機から撃たれるのを見たと説明します」と報告書は書きます。「一部の説明は人々が走る動きに続いたように見える射撃に言及します」。

 初期報告は23人が殺されたと言いましたが、医師団は死者は現在少なくとも30人(患者10人、職員13人)で、7人以上の死体は判別不能なまでに焼かれていて、未だ身元特定の過程にあるといいました。「患者は彼らのベッドの上で焼かれ、医療職員は首を切り取られ、四肢を失い、他の者たちは燃える建物から逃げるときに旋回するガンシップで撃たれました」と報告書は書きました。

 医師団はクンドーズ診療所(the Kunduz Trauma Center)の位置はすでに、米軍とアフガン軍、NATO軍、米政府とタリバンに知らせていたと主張しました。

 空爆の5日前の9月28日、タリバンがクンドーズに移動した時、医師団は診療所の位置をGPS座標を電子メールで送って、米国防総省、アフガン内務省と国防省、カブールの米軍へ再び知らせたと初期評価は書きました。「受け取りの確認が米国防総省と米陸軍の代表の両方から受け取りました。両者共に座標が適切な部隊に渡されたことを保証しました」「口頭の確認をアフガン内務省から受け取りました。医師団はGPS座標を、確固たる支援任務へ直接伝達したことを確認した国連の仲介者とも共有しました」。

 医師団は水曜日に初期評価を米国防総省、ジョン・キャンベル陸軍大将(Army Gen. John Campbell)と共有したと国防総省広報官ジェフ・デービス海軍大佐(Navy Capt. Jeff Davis)はいいました。

 先週、キャンベル大将はウィリアム・ヒックマン陸軍少将(Army Maj. General William Hickman)を第15条6項の調査を指揮するために指名したと発表しました。医師団は独立した国際的調査を求めましたが、デービス大佐は第15条6項の利点は、軍事裁判、司法外の処罰、その他の法的手続きを含む法的な根拠として使えることだといいました。

 ベトナム戦の帰還兵で元軍法務部長だったゲーリー・ソリス退役海兵中佐(Retired Marine Lt. Col. Gary Soli)は、現場の特殊作戦部隊や航空機乗員に対する訴訟は難しいといいました。「間違いなく誰かがヘマをやりました。問題は誰かです。調査の輪は指揮系統ではなく、通信系統です」とソリスはいいました。「現場の者たちは特定できますか?。彼らは正確な情報を伝えましたか?。航空機内の者たちは攻撃目標外のリストに気がついていましたか?。あるいは彼らは言われたことを誤解したのですか?」「それは武力紛争の法律に違反していましたか?。民間人に故意に発砲することは常に違反です。病院のように保護された建物に故意に発砲することは常に違反です。その意味では、それは戦争犯罪でした。問題はそれが犯人がいない戦争犯罪ではないかということです」「告訴を可能にするには、証明できる事件である必要があり、論拠に故意が含まれる必要があります」とソリスは言い、故意は証明するのは不可能を越えていると言いました。「彼らはどうやって誰かが病院を意識的に、故意に攻撃目標としたかを証明するでしょうか?。私はそれが起きたとは思いません」。

 アメリカは目下、医師団が1991年にジュネーブ条約によって設立された国際調査委員会に調査させるという要求を拒否しています。しかし、ここ数週間の間、NATO軍と米軍の欧州軍司令官、フィリップ・ブリードラブ空軍大将(Air Force Gen. Philip Breedlove)は国際的調査を受け入れるよう提案するように見えました。「私はこれが調査を求める彼ら(医師団)の絶対的な権利だと思います」とブリードラブ大将はドイツの新聞「Deuutsche Welle」に先月末に言いました。国際的な調査を指示するかを尋ねられると、ブリードラブ大将は「我々はそれを支持するでしょう。我々はそれを支持するつもりです」。その後、ブリードラブ大将は先週金曜日に国防総省での記者会見で撤回しました。「私は完全で、開かれていて、透明性のある調査なら何でも賛成です」と彼は言い、「私は輪がアメリカの少佐が進行中だと思います」と付け加えました。

 「病院内部からの見解は、この攻撃が殺人と破壊を目的として行われたということです」と、医師団のクリストファー・ストークス理事(Christopher Stokes)は言いました。「しかし、我々には何故かが分かりません」「我々にはコックピットからの見解も米軍とアフガン軍指揮系統の中で何が起きたかの知識もありません」。ストークスはタリバンの負傷兵が病院で治療を受けていたことを認めました。医師団は治療において戦闘員を区別しませんでした。「我々がタリバンを治療していたために病院への攻撃が正当化されるという報告が流れています」「負傷した戦闘員は国際法上の患者であり、攻撃から保護され、差別なく治療されなければなりません」「医療職員は負傷した戦闘員を治療したことで処罰されたり、攻撃されたりしてはなりません」。


 記事は一部を紹介しました。

 米軍を弁護するつもりはありませんが、この記事は米軍向けの新聞に掲載されました。ロシアと違い、アメリカには誤爆を一切認めないのではなく、起こりうることと認識され、問題視されています。その点では世界的に見てもしっかりした検証態勢を持っています。そもそも戦後は誤爆の経験がない日本がこういう場合にどうするつもりなのかは、まったく分かりません。自衛隊はそんなことをしないと考えているとしか思えませんが、米軍でもこの調子なのですから、推して知るべしです。

 AC-130U「スプーキー II」は、GAU-12 25mmガトリング砲5砲身×1門、40mm機関砲×1門、105mm榴弾砲×1門を搭載します。記事中にミニガンと書いてありますが、これは口径7.62mmのガトリング砲です。AC-130Uは口径25mmのより強力なガトリング砲を搭載します。記者は罪悪感からか、少しでも小型の武器だったと書いてしまったのかもしれません。

 医師団が攻撃を受けたときに行った対処が明らかになりました。彼らはやるべき事を十分に行ったとしか言いようがありませんし、攻撃の結果の悲惨さがより理解できました。医師団の怒りはまったく正当です。

 この事件で裁判を行うことは難しいと以前に書きましたが、ソリス中佐の言葉でそれが裏づけられました。一般の法律では裁かれる過失は、軍隊ではより軽い処罰しか行われないものです。過失は戦闘につきもので、一々処罰していると士気が下がると考えられるからです。

 気になるのは、先の報道でも、パキスタンの工作員が出入りしていたとか、タリバンが利用していると米軍が考えていたと報じられていることです。敵兵でも負傷したら治療するのがジュネーブ条約の哲学です。負傷したタリバン兵を病院へ連れてくるためにタリバン兵が病院に出入りしたとしてもおかしくはない訳で、むしろ当たり前の話です。もし、敵が出入りしているから攻撃目標になり得ると考えた者がいたのなら、そこから誤りが拡大した可能性があるように思えます。これは明らかに国際法への無理解であって、言い訳ができないことです。そう考えるのなら、捕虜にならず、敵軍の要請で活動することもある味方の衛生兵や従軍聖職者も裏切り者となってしまいます。

 そんな中、国際調査団を受け入れるべきとの考えが米軍内にも出てきたことは驚きでした。米軍隊員の本音は「誰がやったのか知らないけど、ひどいミスだ」というところで、ブリードラブ大将は本音を口にしたのです。

 


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