人質事件で分かった安倍首相の資質欠如

2015.2.1


 後藤さんの斬首映像が公表された直後、安倍晋三首相は首相官邸で記者会見しました。皮肉にも、この会見が彼に集団的自衛権など、彼が言う「積極的平和主義」を実行する資質がないことを露わにしました。

 安倍首相は記者会見で二つの誤ったメッセージを発信しました。

 まず、会見で毅然とした態度を見せず、涙ぐんでいたことです。テロに屈しないという言葉とは違い、安倍首相は明らかに斬首映像にショックを受けていました。言葉が途切れることもありました。いつもの強気な発言と違い、その姿は弱々しいものでした。彼の威勢は平時だけで、有事には発揮されないことが明白になりました。

 今回の映像はナイフを首にあてるところまでは動画ですが、切断する場面はなく、切断後を静止画で示しただけです。残酷な場面は削除されていますが、安倍首相には耐えられない内容だったようです。

 軍事問題を研究すると、必然的に死体の写真をみることが多くなり、どんな写真を見ても、気にならなくなるものです。私は斬首映像を見て、むしろ怒りや落胆の感情を覚えました。そして、すぐに間違いなく後藤さんが殺されたのかを確認しなければならないと考えました。泣く暇なんかないのです。

 しかし、安倍首相は感情を押さえ切れませんでした。死者に涙する感情は、他の場合なら好ましいものです。しかし、彼は自衛隊の最高指揮官であり、集団的自衛権を叫び、離島防衛には物理的力しかないと主張する人物です。それが、2人殺されただけで涙ぐむのです。普段の主張と違い、彼が小心者であることが明らかになりました。彼が望む武力行使が現実になったら、彼は途端に弱々しい姿をさらし始めるはずです。そんな人物が主張する武力中心の政策など信じるに値しません。

 イスラム国のテロリストは、首相の映像を見て、手をたたいて喜んだでしょう。2人殺せば首相が涙ぐむのなら、二桁も日本人を殺せば号泣するはずだと、彼らは考えるでしょう。この会見は日本人の精神的な脆さをテロリストに教えたのです。イスラム国が公表した写真には、イスラム国の兵士が十人ほどの男の首を一斉に切り落とす、凄惨なものもあるのです。暴力について真剣に考察したことがない安倍首相には、現在行われているテロリストの戦いが理解できていないのです。

 もう一つ、安倍首相はまたしても、テロと戦うために食糧支援、医療支援などの人道支援を続けると宣言しました。この人はいつになったら、人道支援と対テロ活動を混同するのを止めるのでしょう。人道支援活動を対テロのために行うのなら、テロリストは人道支援活動を攻撃します。実際、近年は人道支援活動は彼らの攻撃対象になっているのです。

 すでに、今回の事件が2億ドルの対テロ支援という言葉により引き起こされたという見解が各方面から出ているのに、何の反省もなく、少なくとも今回の会見では言葉を控えるという配慮も見せずに口にしたことは、私には信じられません。

 かくも平和学、軍事学に無知な人が日本の首相であることに危機感を覚えます。

 安倍首相にテロリズム、イスラム国に限定し、他のテロ組織との戦いに、どう行動し、どう勝利を収めるかのシナリオがないことは明白です。考えたこともないでしょう。それはアメリカがやってくれると夢想しているでしょう。戦いの結末を想定することなく、戦いを始めれば、敗北が待っているだけです。

 


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