日本人人質事件とヨルダン人処刑事件の謎

2015.2.14


 その後も、日本人2人の人質事件とヨルダン人パイロットの処刑について、残された謎について考えています。

 モアズ・カサスバ中尉のビデオ映像が処刑から約1ヶ月も後に公開された理由を、私は気になっていました。インターネットで処刑方法を募集したのだから、関心が集まったところで処刑し、映像を公開するのが最も効果的な宣伝方法なのに、時期を遅らせた理由が疑問でした。

 色々考えた末に行き着いたのは、ビデオ制作に時間がかかったためという結論でしたが、次に疑問なのは、なぜそんなに時間をかけたかです。焼殺する映像だけなら、すぐに編集して公開できたはずです。映像は全体で22分間ありますが、処刑映像は最後の7分間しかありません。7分程度の編集には大した時間はかかりません。

 そこで気がついたのは、カサスバ中尉が絶命するまで倒れないという離れ業をやってみせたことです。イスラム国としては、中尉がみっともなく死ぬ光景を宣伝したいのです。自分たちの国に爆弾を落とす大悪人を罰し、罪人が哀れな死に方をすることこそ、彼らが求めるイメージです。ところが、撮影した素材を普通に編集しても、望んだ結果はなかったのでしょう。そこで、彼らは困ってしまった。このまま公開すると、カサスバへの称賛が集まるだけです。

 そこで、映像制作者が劇映画やニュース番組の素材をつなぎ合わせ、ナレーションを入れて、長い前段部分を制作し、欠点を覆い隠そうとしたのではないでしょうか。そのために、予想以上に制作に時間がかかってしまったのです。

 そこへ安倍首相が中東訪問を行い、対テロのための人道支援という、よく分からない声明を出しました。ここで、彼らの行動に予定外の要素が加わったのです。

 幸か不幸か、まだ映像は公開していません。そこで、イスラム国は中尉がまだ生きているように装い、日本を脅すことに利用することを考えました。予定外だったため、この辺から彼らの行動は終始一貫していないように見えました。

 ヨルダン政府も半信半疑だったはずです。もう殺されている可能性が高いと考えていた中尉が生きていると言うのですから。この辺、私はヨルダン政府に思い切りがなかったと感じます。ヨルダンの情報部は中尉が死んだという情報をつかんでいたと思われます。それを生きていると言い出したので、しつこく確認を取ろうとしました。イスラム国にすれば死んでいる中尉と死刑囚の交換はできないわけで、日本人人質を殺すという結果になりました。

 これが一連の顛末の真相ではないかと思います。そうだとすると、日本政府はヨルダンでアタフタしていただけです。外務省に人質事件への対処能力がないことは明らかです。彼らは腹の底では「俺達は警察じゃない」と思っているでしょう。それなら、警察庁にうんと協力させればよいのですが、自分の権限が荒らされると思って、外務省主導でやろうとする。結果、ろくな活動もできずに終わるのです。こんなことを過去から繰り返しているのです。

 もう一つ、ビデオを改めて確認して気がついたのは、イスラム国が意外と西欧志向であることです。中尉の周りに並べた兵士が西欧型の特殊部隊の姿をしていました。わざわざ、この映像のために用意した装備が、西欧型軍隊をモデルにしているのです。彼らは尻尾を出しています。西欧に対する憧れがあるのです。この意識は将来、使えるかもしれません。

 


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