ハイテク兵器でも根絶できない“誤爆”

2015.2.17


 military.comが有志連合による空爆が民間人に及ぼしている被害について報じました。

 アメリカと同盟国の軍用機は、昨年末以来、イラクとシリアで8,200発以上の誘導式爆弾をイスラム国の標的に投下しました。最新の偵察と誘導システムにより、彼らは爆弾が病院に命中したり、意図しない死者を出すことを、かつてないほど防いでいます。

 米国防総省は、シリアのラッカやアレッポのような市街地を含めた場所の車両、砲座、武器貯蔵庫、その他の攻撃目標に対する2,300回以上の空爆で民間人が殺されたという証明はないと言います。

 しかし、疑惑の隔たりが軍と人権団体の批判との間に広がります。人権団体は、アメリカと同盟国による間違った情報、狙いを逸れた爆弾、お粗末な照準により民間人多数が死亡したと言います。

 今月初期に、イスラム国はアメリカ人の人質ケイラ・ミュラーが、シリアでヨルダン軍の空爆で死亡したと発表しました。ホワイトハウスはミュラーの死亡と建物への空爆を認めましたが、当局者は正確に彼女の死因や死亡場所は確認はできず、調査はしないと言いました。

 米中央軍は先月、18件の民間人の死亡(イラクとシリアから各9件)を調査し、13件を「信頼性なし」と却下しました。他の5件はまだ評価中で、3件(シリアが2件、イラクが1件)は、信頼できる証拠に基づいて正式な調査が始まりました。軍は詳細を公表していません。

 人権団体「Human Rights Watch」の調査員ラマ・ファキ(Lama Fakih)は中央軍にその進展を説明するよう求めました。彼女は9月23日にイドリブ州(Idlib)で、アメリカの巡航ミサイルにより女性と子供7人が死亡したとシリア人3人が団体に述べたと指摘しました。軍は民間人の犠牲を否定しています。

 軍当局者は、これらの主張される犠牲は裏付けのある声明、写真、その他の検証できる証拠を提示する強うがあると言います。しかし、証明は手に入れることが難しいことが多いのです。同盟軍の空爆目標は民兵が支配し、部外者が近づくのは困難です。住民は外国人に協力することで拷問や死の危険にさらされます。

 議論の焦点は、アル・ウデイド空軍基地のイスラム国に対する軍事作戦の司令部「統合航空作戦センター(the Combined Air Operations Center)」です。作戦室はNASAの司令センターに似ています。

 大きな作戦の前に、民間人が生活し、働く場所と民兵が潜伏している場所を判定するために、指揮官達は数日間スパイ機、無人機、人工衛星を使って戦場の情報収集を命じます。システムはイスラム国の携帯電話とデジタル通信も収集します。

 アナリスト達はデータを吟味して、攻撃する場所、目標、時期を決定します。彼らは民兵に最大の被害を出汁、民間人への潜在的な危険を最小限にするよう最良の調整を行うといわれるコンピュータプログラム「weaponeering solution」を使って爆弾の種類(500〜2,000ポンド、レーザー誘導かGPS誘導か)を決めます。

 情報は戦域にいる間に爆撃機と戦闘機の乗員に渡されます。B-1爆撃機の編隊長は、民間人に犠牲が出る可能性がある場合は、民兵を見逃すといいました。

 これは現場ではそれほど明確ではないと批評家は言い、シリア北部のアル・バブ(Al Bab)への攻撃を指摘します。

 12月28日午前7時20分頃、米軍のジェット戦闘機がアル・バブの建物を爆撃しました。米中央軍はそれをイスラム国の司令部と特定し、爆撃航程は建物の一部だけを破壊して、良好に調整され、うまく実行されたと言いました。軍はいかなる民間人の犠牲も認識しませんでした。

 シリアの戦争犠牲者を追跡する独立系団体「the Syrian Network for Human Rights」の理事、ファデル・アブドル・ゲーニー(Fadel Abdul Ghany)は、空爆はイスラム国が、厳しいイスラム法に違反した住人を含む囚人を拘束するのに使っていた政府センターを跡形もなく破壊したと言いました。グループは民間人37人がこの攻撃で殺されたと言い、目撃証言と写真を提示しました。

 中央軍公報、パトリック・ライダー大佐(Col. Patrick Ryder)は、シリア軍の航空機が米軍が攻撃する一日くらい前にアル・バブの近くの建物を攻撃し、そのせいかもしれないとほのめかしました。「新しい、実質的な情報が手に入れば、我々は歓迎し、もちろんそれを評価します」。

 電話インタビューでゲーニーは、その情報は収集していると言いましたが、何が起きたかは疑いの余地がないと言いました。シリア軍のヘリコプターと戦闘機は米軍の軍用機よりも、ずっと低く飛びます。「誰もがシリア政府と有志連合の攻撃の違いを知っています。そういう人たちなのです」「彼らはあらゆる種類の攻撃を経験しています。はっきりとした違いがあるのです」。


 記事は一部を紹介しました。

 日本のテレビニュースがこの種の問題を取り上げると、何か米軍の機密の前に、実態が明らかにされないといった話をするものですが、アメリカでは、このようにアッケラカンとした、議論が行われています。military.comは軍人を対象とした民間メディアで、この記事はネットで誰でも読めます。

 米軍の肩を持つわけではありませんが、米空軍は様々な技術開発で、空爆がもたらす問題を解決するよう努力しています。平時に空軍で出世したければ、こうした分野で実績を積むのが一番なのです。過去の空爆の傾向を分析し、対策を考え、報告書にまとめます。改善案が採用されれば、階級が上がり、勲章が増えるかもしれません。

 この記事では「weaponeering solution」というプログラムで、攻撃方法の決定が半自動化されていることが分かりました。確かに、こういうプログラムがあれば便利でしょうが、元々は手作業でやっているノウハウを機械にやらせているだけなので、完璧は追求できません。

 米軍の発想からすると、今後、もっと民間人の犠牲を減らすために、ロボット偵察機が使われるようになるかもしれません。無人機では調べきれない情報を、近くまで行って収集するような機械です。

 開発が中止された未来戦闘システムに、小型の偵察ロボットがありました。偵察部隊の代わりに戦場へ侵入し、敵の動静を探る機械です。攻撃目標を最終的に確認するために、こうしたロボットが攻撃候補地に潜入し、映像や音声を収集するのです。対テロ戦で、精密爆撃が一層求められる時代には、こういう装備も採用される可能性があります。

 


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