自民党議員が戦艦大和の引き揚げを提案

2015.5.28


 ANNによれば、太平洋戦争末期にアメリカ軍に撃沈された戦艦大和の引き揚げを目指す、自民党の有志議員による研究会が立ち上がりました。まずは、船体が沈む鹿児島県沖の調査などを政府に求める考えです。

 自民党・中川俊直衆院議員:「様々な部分で引き揚げることに意義があるという観点のなかから、地元の声を大事にさせて頂きながら進めていきたいと思っています」

 会合に参加した議員からは、鹿児島県沖に沈む大和の船体の状況について、海中撮影など調査を進めるべきだという意見が相次ぎました。また、大和が建造された広島県呉市の博物館の館長は、「現在の大和の姿を知ることが、歴史を伝えていくことにもなる」と指摘しました。研究会では、将来的な船体の引き揚げも視野に必要な予算の確保などを求める提言を来月中にまとめ、政府に申し入れる考えです。


 一体何のために大和を引き揚げるのでしょうか?。大和のどの部分をサルベージするのでしょうか?。

 大和は設計図が失われ、その全容が分からない戦艦です。サルベージすることで、それらの謎が解けるのは間違いがありません。模型会社は調査結果に基づいて、大和の新しいプラモデルを発売することでしょう。しかし、いまさら造船技術に資するものはないでしょう。多額の費用をかけて実施する意味は「愛国心の高揚」くらいしか考えられません。大和魂を体現した戦艦を国民に見せることで、愛国心を養うのです。これに意味はあるのでしょうか?。そもそも、サルベージは可能なのでしょうか?。

 大和の重量は公試では69,000トン、満載時は72,809トンなので、70,000トン前後です。全長は263.0mと巨大です。サルベージに成功したロシアの原子力潜水艦「クルスク」は重量18,000トンです。バラバラに沈没しているとはいえ、大和はクルスクよりも遙かに重たく、部品事に引き揚げることが可能かどうか不明です。船体やそのパーツは泥に埋もれているのです。

 人間が行える水中作業は300m以内で、大和はそれより深い345mに沈んでいます。日本で行った最も深い深度でのサルベージは240mから50トンの民間海洋調査船「へりおす」の事例です。無人ロボットを投入しての作業になります。サルベージできても、ごく小さな部品のみでしょう。船体ではなく、備品を引き揚げるのが精一杯と思われます。

 ハワイ真珠湾に沈む戦艦アリゾナを引き揚げようという話は聞いたことがありません。ごく浅い海底に沈んでいる戦艦は記念館として保存されています。余談ながらが、27日水曜日に海軍の病院船、マーシー(USNS Mercy)がアリゾナ記念館に接触し、その一部を破壊するという事故が起きたと報じられたばかりです(記事はこちら)。大和もその場に置いたままにするのが相当でしょう。

 


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