演習開始でテキサス州民は半信半疑

2015.7.17


 military.comによれば、米国内で議論を呼んだ大規模な演習「Jade Helm 15」が始まりました。テキサス州は半信半疑で演習を見つめています。

 「状況がもつれるなら、州民の多くが立ち上がり、支援するようになると考えたいです」と退役したアリゾナ保安官で「Counter Jade Helm」という州組織のテキサス州の主催者、エリック・ジョンストン(Eric Johnston)は言いました。

 アリゾナ州、フロリダ州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、ニューメキシコ州、ユタ州も3ヶ月間の演習のホストを務めています。そこで陸軍は特定の規模と範囲を認められました。軍当局者は選ばれた地域の地形が外国の戦闘地域を再現するために理想的だと言いました。保守政治家のウェブサイトがテキサス州とユタ州をシミュレーションの目的のために「敵」と記した陸軍の地図に飛びついたあとで疑いは強まりました。バストロップ郡(Bastrop County)で約200人のコミュニティ会議に集まり、陸軍指揮官に戒厳令が迫っているのかと尋ねた時に、恐怖が4月に一般に広まりました。

 テキサス州知事グレッグ・アボット(Greg Abbott)は州軍に連邦軍の移動を監視するように命じ、批評家から新任の共和党知事が過激な理論家に迎合したとして激しい批判を受けました。


 記事は一部を紹介しました。長い記事ですが興味深いところだけを選びました。

 日本では考えにくい展開がアメリカで起きています。これはアメリカが「州」という「国」が集まって建国されている「合衆国」だという考え方から来ています。つまり、アメリカは多数の国が集まってできあがっている国なので、それぞれの州は互いに他州の友好国だという考え方です。自治は州政府が行い、連邦軍は国土の防衛もしますが、国外で活動するものだという考えがあります。そのため連邦軍には警察権が与えられていません。戒厳令を発布すれば連邦軍にも警察権が与えられる訳ですが、それに対して米国民からは強い不信感があるのです。

 これは連邦軍による州への侵略を想起させます。実際、ある州で起きた事件で大統領が「支援が必要だ」と述べたので、側近たちが連邦軍を州へ差し向けたところ、州知事が「連邦軍が侵略に来る」と声明を出したことがあります。連邦軍が州に入る場合、事前に州に通告するのですが、米政府がそれを忘れていたために起きた珍事でした。アボット知事の珍奇な命令もそうした背景から生まれています。

 日本は政府が「治安出動」を命じると自衛官が警察権を持ち、ごく当たり前に戒厳令が実現します(自衛隊法第78条)。地方議会は治安出動を政府に要請することができます。それを防ぐための法律はどこにもありません。議会には政府が出動を命じた日から20日以内に承認する権限がありますが、国会が閉会中の場合や衆議院が解散されている場合には、その後最初に召集される国会で承認するので、20日間だけと考えない方が無難でしょう。治安出動を防ぐ理由があるとすれば、治安出動により日本が内乱状態と国外から見られ、様々な制約が発生するので、そう簡単には発布できないことくらいです。実際、226事件の際、昭和天皇はそれを恐れたとされています。

 アメリカ人の強い独立心と違い、戦後、日本ではアメリカのための防衛論を日本の防衛論として論じる悪習が続いていたため、こうした問題について正面からの議論は行われてきませんでした。治安出動下では何が起きるか誰も考えていないでしょう。防衛省だけが考えればよい問題ではなく、民間人が考える必要があります。官と民では発想が違うからです。

 


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