南スーダン派遣隊に安保法適用?
参院平和安全法制特別委員会は11日、防衛省の内部資料に基づき質問した共産党が、中谷元防衛相の答弁を不服として紛糾し、散開となりました。
鴻池祥肇委員長(自民)は、予定されていた野党の質疑を行わないまま散会を宣言しました。国会は12日から事実上の夏休みに入るため、与党はお盆明けの18日の再開を目指し、野党と調整を続けます。
11日の質疑で共産党の小池晃氏は、防衛省統合幕僚監部が5月末に作成したとみられる内部資料を提示。その中に審議中の安全保障関連法案の8月成立、年明けの施行を前提としたスケジュール表が掲載されていると指摘しました。
7日に期間延長が閣議決定されたばかりの南スーダンの国連平和維持活動(PKO)についても、派遣延長を前提に自衛隊の具体的な部隊編成や、来年3月からの「新法制に基づく運用」が明記されており、小池氏は「軍部の独走だ。絶対に許されない」と追及しました。
これに対し、防衛相は「(資料の)真贋(しんがん)や位置付けを即答するのは困難だ」と答弁を避け、審議が中断。再開後、防衛相は資料の存在を認め、内容についても「法案成立後に検討すべきことだ」と釈明したが、小池氏は納得せず、法案の撤回を要求。「これ以上議論できない」と質問を取りやめました。
自衛隊が安保法案が成立したら、直ちに適用する準備をしていたことは不思議ではありません。米軍もベトナム戦争が始まるかなり前から、ジャングル戦の訓練や通訳の養成を行っていました。もしかしたら、この地域で戦争になるかも知れないという可能性が出たら、武装組織はすぐに動き出すものなのです。待っていることはありません。彼らは任務が落ちてくるのを待っているだけではないのです。
一方、これを指摘した共産党の動きも、国会議員として当然のことです。これを質問したことに何の疑問もありません。
南スーダン国連平和維持活動の「新法制に基づく運用」とは、つまりは駆けつけ警護をやりたいということです。これが実現したら、もはやほとんど歯止めはないといえます。現地指揮官の判断で、日本は南スーダンで戦闘活動を始めることになります。当然、駆けつけ警護用に、今後はもっと多くの人員を派遣することにもなるでしょう。
これまでも南スーダンは予断を許さない状態だと指摘してきました。国連は南スーダンがスーダンから独立して、内戦状態が終わったと判断して復興支援のために派遣団を送りました。時の与党、民主党は複雑な南スーダンの状況をよく考えずに、派遣を決定しました。ところが、南スーダン政府内部が大統領派と副大統領派に分裂して、新しい内戦が始まり、派遣部隊は復興支援ではなく、両者がいがみ合うただ中に放り込まれたのです。実際、両者は相手を虐殺もしていおり、当サイトで何度も取り上げてきました。部族単位で動くことが多いアフリカでは、こうした内部分裂は珍しくなく、それを計算に入れなかった民主党は批判されるべきです。
過去から見てくると、ジワジワと日本が戦争に近づいてきたことが分かります。戦争をするのではない、国連の復興支援を助けるのだと、国連平和維持活動への参加を決め、文民警察官の派遣、自衛隊による道路建設などを行ってきました。「戦闘ではない復興だ」という言葉は、戦争の歴史を知る者からすれば、いつ崩壊するか分からないものでした。南スーダンでも、道路建設や難民キャンプの建設を行ってきました。しかし、そこは半分は戦場です。
国の中部から南を支配する大統領派と北部の油田地帯を支配する副大統領派は和解の兆しを見せません。互いに相手が自分を殺そうとしていると考えるだけでなく、国連軍が相手の味方をしていると疑っています。中部にある韓国軍主体の基地はすでに攻撃を受けており、国連のヘリコプターも撃墜されました。
自衛隊は南部の首都にある国連基地にいるから、副大統領派の攻撃を受けにくい状況にあるだけです。もし、副大統領派が力をつけて、北部から南部へ攻めてきた場合、安保法が成立後は、これまでのように撤退するのではなく、国連軍基地を防衛できるなら駆けつけて警護することになります。当然ですが、今後はその為により多くの部隊と武器弾薬を派遣することになります。警護か撤退かを判断するために、撤退を開始する時期は当然遅れます。停戦が実現してからの復興支援を手助けするはずの派遣隊は、現地で戦闘をするための部隊に変身したことになります。すでに自衛隊内部で検討が始まっているということは、国民が知らないところで戦争の準備が始まっていたことになるのです。
そんな話は聞いていないと言っても、もう遅いのです。車に乗ってしまったあなたの過ちなのです。これが戦争というものなのです。
現在のところ、国連は派遣部隊を引き揚げるわけにはいかない状況です。復興支援を建前に派遣した以上、成果が出る前に引き揚げることはできません。しかし、南スーダンの内戦は解消できそうにありません。永遠に派遣を続けることはできないため、いずれは何らかの措置がとられるでしょう。問題はその前に、大統領派と副大統領派が戦闘状態になることです。副大統領が石油収入で武器を買い、軍隊を増強して南下を始めたらどうなるのでしょうか。
まず、中部のボルにある韓国軍主体の基地(kmzファイルはこちら)が攻撃を受けます。そこから150km南にある首都ジュバの国連軍基地(kmzファイルはこちら)も攻撃を受けることになります。
さらにやっかいなのは、両軍共にこども兵を使っていることです。政府軍側は国連の指導で数を減らしていますが、副大統領派がどうかは分かりません。自衛官が未成年者を攻撃する可能性は十分にあります。
国連軍が激しい攻撃を受けるようなら、国連は撤退を決めるはずです。それまでにどれだけの犠牲が出るかは、その時にならないと分かりません。
もはや、結果は相手の出方次第です。こちらが主導権を握っているのではなく、現地が握っているのです。あなた任せの状態ということができます。そんなところで自衛隊は何の疑問持たずに安保法制を適用していくつもりです。日本から現地部隊は十分に支援できません。運を天に任せるだけです。これが「普通の国になる」ということです。
自衛隊から内部資料が流出したことがせめてもの救いです。自衛隊内部にも南スーダン派遣隊や安保法制に危機感を持つ者がいることの現れです。
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