ランド社が中国軍の脅威をシミュレーション

2015.9.22


 military.comによれば、ランド社(Rand Corp)が今月早くに公表した報告書は、中国の対水上艦能力の向上に直面して、アメリカは太平洋上の巨大航空母艦の重要視を減らし、潜水艦を増やし、宇宙空間の能力、基地と航空機の脆弱性を減らす方法に費用を投じるべきだと言いました。

 430ページの報告書は、公表されている書面に基づいて特定のシナリオにおけるアメリカと中国の相対的な軍事能力を分析しました。アナリストは航空、海洋、宇宙、サイバー空間、核戦力の分野など10項目で評価しました。

 能力は1996年から2017年まで7年の間隔を置いて調査され、この二国間のありそうな二つのシナリオ「中国が台湾へ侵攻し、南沙諸島の領有を強制する」「中国が両方に関して主権を主張する」を考察しました。

 ここ数年間、アメリカがこうした動きを群島の軍事化だと非難したにも関わらず、中国は小さな南沙環礁を浚渫と数本の滑走路の建設により拡大しました。「次の5年から15年にわたり、アメリカと中国の軍隊が現在のままならば、アジアはアメリカの優位が徐々に低下するのを目撃するでしょう」と報告書は書きました。全体的な軍事力では中国はアメリカに追いつく間近ではないものの、中国が地域をその戸口で支配するのには必要ではありません。

 「誰も戦争を望みません。誰も戦争に期待しません」と報告書の主筆でランド社の政治家学者、エリック・ヘジンボーサム(Eric Heginbotham)は分析の目的を説明して言いました。「しかし、私はバランス・オブ・パワーが両国の計算に影響を及ぼすと考えます。バランス・オブ・パワーは戦争の可能性に大きく影響を及ぼします」。アメリカによる軍事的優位は、2ヶ国が潜在的に第一撃の動機を検討するときには、不安定時の抑止力を必ずしも等しくするわけではありません。「中国のまわりに高度に攻撃的な力や前方に配置された武器を持ちながら、攻撃への弾力性が弱いと、危機において両国は第一撃を行う動機を持ちかねません」とヘジンボーサムは言いました。危機が安定することへの考察なしにアメリカの優位を回復しようとすることは、その覇権の価値を不注意にも蝕みかねません、と彼は言いました。

 いくつかの広範な要因は中国と比較して軍事能力を維持しようとするアメリカの努力を困難にします。1996年以来、本土からかなり離れた場所でアメリカの水上艦隊を脅かす中国の能力は報告書は急成長したと報告書は言いました。中国の対水上艦能力は、水上艦を追跡する長距離の偵察システム、最新の対艦巡航ミサイルの配備、長距離を移動する攻撃機と艦船、巡航ミサイルを装備する大型で静かな潜水艦の獲得により成長しました。「空母に対する中国の脅威の影響は紛争の最初の段階で最大となるでしょう」と報告書は書きました。

 アメリカには、対ミサイルシステムと空母からの航空偵察のような、これらの対水上艦能力を軽減する手段があります。しかし、それらの手段のいくつかは国力を誇示するアメリカの軍事能力を減らします、と報告書は書きました。「主要な戦闘地域の場からさらに離れた場所に空母を保持することは戦闘機、数少ない空母により長い移動時間と空軍の輸送機の支援要請を引き起こします」。

 2017年に台湾紛争が起きた場合、米空母には大きなリスクがあり、南沙諸島紛争でもリスクにさらされますが、程度は小さいでしょうとアナリストは結論しました。

 中国のミサイルに対する米空軍基地の脆弱性と同様に米水上艦への脅威の高まりは、どの中国のシナリオにおいても、米軍が直面する最も深刻な課題です。中国の進行中の航空・潜水艦の能力の現代化は空母打撃群により確かな脅威となります。中国の近代的ディーゼル型潜水艦の数は1996年の2隻から今年の37隻へと増加し、4隻を除いて巡航ミサイルと魚雷で武装しています。

 ランド社のモデル化は中国潜水艦隊の有効性(空母に対して達成できる攻撃の回数で測定)は1996年から2010年の間に約一桁あがり、それは2017年まで向上し続けることを見出しました。「中国の潜水艦は台湾と南沙諸島での紛争において米水上艦に確実な脅威を示します」と報告書は書きました。

 一方、中国の弾道・巡航ミサイル部隊の規模拡大はアメリカのこの地域の空軍基地すべてを危険にさらします、とヘジンボーサムは言いました。さらに、中国軍の現代的戦闘機とその他の攻撃機は素早く、台湾が関係する地理的に近い紛争に大量に配置できると、彼は言いました。

 アメリカには、中国からより遠くへの新しい基地の設置、軍の生存力の増加、領域拒否能力の強調、反撃能力を確実にするといった、弾力性を向上させるオプションがあると、ヘジンボーサムは言いました。「そのすべては抑止と防御に寄与し、より大きな危機を防ぎます」。


 記事は一部を紹介しました。

 この報告書は尖閣諸島や沖縄に中国軍が侵攻することを想定していません。台湾と南沙諸島しか取り上げていません。それほど、尖閣諸島と沖縄に中国軍が侵攻する可能性は低いということです。尖閣諸島は日本が自衛隊の部隊を配置でもしない限り、中国にとって、差し迫って侵攻すべき場所ではないのです。そのことが分からない日本国民を丸め込み、戦争法を制定するために、政府は盛んに虚偽の情報を流しました。国民が本当の脅威が何かをしらされないのは、本当に悲しむべきことです。日本は戦後、いつもこの調子でした。中身のある安全保障の議論なんか、行われた試しがありません。

 さらに、この報告書は、空軍基地をもっと後方へ下げることも示唆しています。兵器の射程が伸びたことで、日本は第一撃を受けやすすぎて危険なのです。ここから、アメリカ国内にも日本の空軍基地を交替させるべきとの意見が出ています。このことは沖縄の基地問題を考える上でも重要です。沖縄に基地があるのが問題なら辺野古に基地を造ることが妥当とはいえなくなります。

 日本への脅威についていうと、着上陸侵攻に必要な海軍陸戦隊は規模は据え置かれたままです。彼らを運ぶ揚陸艦は増やしているものの、全部隊を運べる程度です。航空自衛隊は対艦ミサイルを戦闘機に搭載でき、海上自衛隊は潜水艦によって揚陸艦を攻撃できます。もちろん、中国軍は艦隊を組み、揚陸艦を戦闘艦で取り囲み、水中には潜水艦、空には戦闘機と哨戒機などを飛ばして護衛します。陸上自衛隊も優秀な対艦ミサイルを持っていますから、かなりの艦艇を事前に撃沈できるはずです。そして、そのことは中国軍にも分かります。だから、日本を攻めようとは考えません。これが「抑止力」です。つまり、個別的自衛権を充実させることで、適度な抑止力が働くと期待できます。海外に自衛隊を送るとアメリカが喜んで、積極的に日本を守ってくれることが抑止力なのではありません。個別的自衛権を基盤に考えないと、防衛論は方向性を見失うのです。

 ところで、岸田外務大臣がロシアを訪問したものの、何の成果もあげずに戻ったのは当然でした。ロシアの関心はクリミア半島とシリアにあります。戦争をしている時に北方領土問題は扱いたくないでしょう。ラブロフ外務大臣は、日本の集団的自衛権について、そうした取り組みは不透明だと批判しました。シリアにこっそり部隊を派遣しているロシアがいえることではありません。それでも主張してくるのがロシア流です。この程度の外交力で、戦争法を制定して喜んでいても仕方がありません。

 


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