脱走兵バグダールに第99条(卑怯罪)適用へ

2015.9.9


 military.comによれば、脱走して長期間タリバンの捕虜となっていたバウ・バグダール(Bowe Bergdahl)について軍検察官は第2次世界大戦以来あまり使われない条項へと行き着きました。

 彼が脱走罪で起訴されるかは疑問視されてきました。彼は敵前での不正行為と共に、より厳しい罰をもたらす例が少ない違反行為をなしました。

 バグダールは有罪になると終身刑に処せられます。彼が許可なく去った時、同僚を危険にさらし、捜索と救出活動を不当に引き起こしたとして訴えられました。

 不正行為の起訴は当局にバグダールが部隊を出ただけでなく、計画的な行動が彼を探した兵士を危険にさらしたと訴えることを許します。国防総省はバグダールを探して死んだ者はいないと言いました。

 この部局の最高検察官と公選弁護士を務めたローレンス・モリス退役陸軍大佐(Lawrence Morris)は「彼がしたことには特定の影響があり、特定の人たちを危険にさらしたと言えます。単に立ち去ったというよりめ少し全体に関わることです」。

 軍は9月17日にテキサス州、サム・ヒューストン基地(Fort Sam Houston)でバグダールの初出廷を予定しています。その後、事件は軍事裁判に付託され、公判が開かれます。

 第2次世界大戦中、敵前での不正行為は何百回も行われましたが、学者はそれ以降の紛争では減少したようにみえるといいます。

 「Military Law Review」の記事によると、敵前での不正行為は1942〜1945年の間にヨーロッパで兵士について少なくとも494回争われました。

 イラクに続きアフガニスタンで戦闘が始まった2001年以降、司法のデータベースと報道記事は数件の不正事件を見つけるだけです。

 比べて、米陸軍は2001年から2014年の末までの間、約1,900件の脱走を起訴しました。

 不正行為在は軍法第99条に含まれ、「卑怯罪」として起訴されることで知られます。しかし第99条は卑怯には基づかない誤報や部隊を危険にさらすなど、9つの異なる罪を含みます。

 最近の不正行為の起訴事例は2004年にイラクで基地を出て輸送隊の警護を拒否した後、罪を認めた海兵隊伍長勤務上等兵を含みます。イラクにいたある兵士は、惨殺死体を見てカウンセリングを求めた後、第99条の下で2003年に卑怯罪で起訴されましたが、後に取り下げられました。

 バグダールが直面する条項は、1971年のベトナムで待ち伏せ陣地を設ける命令に従わず基地を危険にさらした陸軍大尉の事件のようです。大尉は職務怠慢を含む他の起訴で有罪となりました。

 1955年の軍法専門誌に取り上げられたもう一つの事件は、陸軍大佐が韓国で任務中に飲酒して部隊を危険にさらし、第99条で有罪となったといいます。記事は彼が戦車中隊長が目覚めさせるために30分かけるほど酔っ払ったといいます。

 バグダールの弁護士、ユージン・フィデル(Eugene Fidell)は、過去のテレビインタビューで「誰かが犯罪記録を書く中で同じことを起訴する2つの方法を見つけ出すことで創造性を発揮したのは不幸です」と言い、依頼人が同じ行動で二度起訴されていると訴えました。

 学者はフィデルにとってはこれは正当性がある問題ではあるが、軍当局には影響しないかも知れないといいます。「問題は、それが積み重なるかということです」と法学教授で退役空軍将校、元軍法務官のジェフリー・K・ウォーカー(Jeffrey K. Walker)は言いました。「それは同じリンゴに2回噛みつこうとするようなものです」。


 記事は一部を紹介しました。しかし、全訳に近い内容です。

 この事件については何度も紹介してきました。少し内容が変わっています。バグダールの捜索中に少なくとも米兵6人が死んだと報じられていましたが、過去の記事では直接死んだ者はいないと書かれています。もしかしたら定期的なパトロールの最中にバグダールも探していたということかも知れません。

 第99条の最高刑は死刑。敵前における次の行為に適用されます(第99条の原文はこちら)。

  1. 逃亡
  2. 不名誉に指揮権、部隊、場所、守る任を負う軍資産を放棄、降伏、引き渡すこと
  3. 不服従、怠慢、意図的な不正行為によって指揮権、部隊、場所、軍の資産を危険にさらすこと
  4. 武器や弾薬を放棄すること
  5. 卑怯な行為
  6. 略奪や戦利のために持ち場を放棄すること
  7. 軍の管理下にあるあらゆる指揮権、部隊、場所において誤報を出すこと
  8. 接敵、交戦、獲得、破壊するための命を受けた敵兵、戦闘員、艦船、航空機その他に接敵、交戦、獲得、破壊をするために故意に全力を出さないこと
  9. 交戦中に合衆国や同盟国に所属する軍隊の兵士、戦闘員、艦船、航空機へ実行可能な救出と支援を与えないこと

 青年期に読んだジョン・トーランドの戦記「バルジの戦い」にこの罪の記述があります。懐かしい言葉です。 言われてみれば、最近、軍事記事の中にも見当たらない気がします。

 脱走罪は軍に二度と戻らないと宣言しないと適用できず。それ以外は無許可離隊罪(AWOL)となります。バグダールはタリバンの捕虜となっている間に脱走したことがあるようですから、軍に戻ろうとしたことが認められたのかも知れません。

 そこで、他の罪がないかが検討され、第99条が適用されたのかも知れません。これに関しては味方に実害が出ていないので有罪になっても、重刑ではないかもしれません。

 安保法案が成立すると、バグダールのように脱走する者が出るかも知れません。あるいは、第99条が定義する罪を犯す者が出るかも知れません。その場合、裁判所で裁くことになるのですが、第9項みたいに、味方への支援を怠り、損害が出たような場合、どうするのかという気がします。また、これは戦術の常識が必要な判断ですが、裁判官達にはそれがありません。一々、自衛隊の教科書を証拠請求して公判に提出することになるのか。 アメリカの要求に応えるために、日本はかなりの無理をすることになります。米軍のような犯罪捜査部が必要になるかもしれません。鑑識の能力がない自衛隊に鑑識課の警察官が捜査のために派遣される可能性もあります。 アメリカでは民間人を将校待遇で採用する准尉制度があり、鑑識経験がある警察官が採用されています。

 


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