海兵隊大型ヘリに見る米軍の情報公開

2016.10.30


 こんなことは日本では報道されないだろうと思える記事を簡単に要約して紹介します。military.comによれば、今年1月、ハワイで大型ヘリコプター「CH-53E」が墜落した事件に、オバマ大統領一家の休暇が関係していた可能性があります。

 オバマ一家は昨年12月に2週間の年次休暇をとるために、ハワイのカイルア(Kailua)に行きました。大統領を警護するシークレットサービスは、この地域に飛行制限を課しました。

 ここから5マイル足らずにあるカネオへ湾に配置される第463海兵大型ヘリコプター飛行隊は、ハワイで唯一、「CH-53Eスーパースタリオン」を持つ部隊で、9月に整備査察に通らなかった後、即応体制を取りもどすための闘いに取り組んでおり、不可欠な飛行時間を確保するために、搭乗員のために飛ぶに値する航空機の数の減少と闘っていました。

図は右クリックで拡大できます。

 飛行隊に配属された武器・戦術教官は、定期整備を行うためにシークレットサービスに機能チェック飛行、短時間飛行を行う許可を得ようと交渉しましたが、拒否されました。

 1月4日にオバマがハワイを去って、一時的な飛行制限が解除された10日後、第463飛行隊のスーパースタリオン2機がオアフ島沖を夜間飛行中に衝突し、空中で火だるまとなり、墜落して登場していた海兵隊員12人全員が死亡しました。2005年1月26日に、イラクで砂嵐のために31人が死亡した事故以来の大惨事となりました。

 シークレットサービスが飛行を制限したために、作戦のために準備を整えた使用可能な航空機である「飛行基準機(Ready basic aircraft: RBA)の数を増やすのに大きな影響が出ました。観測任務は、部隊の別のメンバーが飛行時間を増やせるように貴重な飛行時間を放棄することを選択した、事故当夜に飛行予定だった乗員によって補強されました。飛行制限を回避するために、機体をコナ(Kona)やホノルル(Honolulu)へ移動することも検討されましたが、結局、カネオへ湾のハワイ海兵隊基地に残しました。飛行制限中は休息、修理、RBAを50%以上にするために時間を使いました。最終的に、限定的な訓練を若干行うために、2機をカウアイ島へ送りました。12月中のRBAは横ばいでしたが、ある時点ではゼロになりました。

 ホワイトハウスは、シークレットサービスは海兵隊の要請を拒否した件を調査しているといいました。シークレットサービスの基準手続きにより、コミュニティへの影響評価は一時的な飛行制限が課されるたびに行われます。例外は一般的なものだと情報筋はいいました。

 事故調査は無数の間接的な原因があったことを示します。

 海兵隊のCH-53E飛行隊すべては飛行可能な数機の航空機を残した消耗と飛行時間の減少のために整復の最中にありましたが、第463飛行隊は大半よりも劣悪でした。準備基本機は2015年の大半を基準の50%、6機を遙かに下回る2機程度を維持しました。飛行隊のメンバーが部隊の即応を再建する恒常的な努力に終わりがみえないために、士気は下がり、疲労は蓄積されました。

 部隊が9月に一か八かの整備査察に通らなかった後、部隊は目標を達成するために究極的な処置に頼りました。上級将校は部隊に、感謝祭の前に準備基本機が最低6機を報告できなければ、厳しい12時間勤務12時間非番の勤務体制をはじめると命じました。最終期限は目標に達しないまま来て、部隊は疲労が溜まる勤務体制を開始しました。

 一方、パイロットは十分な訓練時間がないことに不満を感じました。12月に、副操縦士たちは毎月得られると考えた飛行時間が16時間中10時間を記録できればよい方で、部隊が武器・戦術教官と夜間システム教官のために時間を優先しようとするために取り残されていると感じると主張して不満を言いました。第一四半期が終わる1月までに、飛行隊は予定されたよりも飛行時間600時間が不足していました。

 1月14日の衝突の3日前、第1海兵航空隊指揮官は第463飛行隊指揮官を、9月の査察不合格から元旦までの航空機の即応率の改善不足により、彼の能力に信頼がなくなったとして解任しました。


 記事は大まかなところだけを紹介しました。事故が起きた訓練飛行の詳細も書かれていますが省略しました。

 海兵隊はオバマ大統領の滞在は事故に間接的な影響を及ぼしたことは認めていますが、原因はパイロットのエラーだとしています。

 ちなみに、CH-53Eは部品が不足していて、昨年5月に自衛隊から米軍に不要な部品を提供しているほどです。防衛省のサイトに以下のような告知があります(該当ページはこちら)。海兵隊がCH-53Eの整備で苦労する背景には、部品不足があるのです。

1 米国防省より、防衛省に対し、米軍MH-53E等の部品等について、米国内での製造が終了し、枯渇が見込まれるため、用途廃止した米国製の海自掃海輸送ヘリ(MH-53E)の不用部品等を提供して欲しい旨の要請がありました。
2 これを踏まえ、日米の防衛装備協力を推進するため、用途廃止済の海自MH-53Eの部品等を米軍に提供(売却)することとし、本日、2機分について米軍と契約を締結いたしました。なお、残りの機体分も用途廃止後に米国に提供することを予定しております。

 しかし、ここでこの記事を取り上げたのは、大統領が軍に犠牲を強いたということではありません。

 紹介した部分だけみても、軍の訓練や大統領の警護に関する情報がかなり公開されていることが分かります。日本で同じ分野について、ここまで情報を出すでしょうか。「防衛上の理由により」「敵の手の内をさらす」などと言って、公開しないでしょう。

 熊本地震の際、CH-47をほとんど飛ばさなかったことについて、自衛隊はまともに回答しておらず、部外者から機材の点検のために飛べなかったという話が出ている程度です。

 準備基本機が50%が原則であることなど、自衛隊は決して公表しないでしょう。防衛体制を公表すれば、防衛力を弱めると解釈されているからです。

 自衛隊の情報公開が米軍に比べると圧倒的に少ないことが、この記事からも読み取れます。

 


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