トランプの外交顧問が湾岸との協力強化を主張

2016.11.13


 alarabiya.netによれば、次期大統領ドナルド・トランプ(Donald Trump)の外交政策顧問、ワリド・ファレス(Walid Phares)は、対テロ活動において湾岸協力会議(GCC)、ヨルダン、エジプトと同盟をつくる次期政権の計画を認めました。

 ファレスはBBCとのインタビューの間、トランプがイランの核協定を撤回し、EUの参加国に再提出する前にそれを議会で再議論し、次期米政権が合意で大きな変更を求めることを明らかにしました。

 選挙期間の間、トランプはイラン協定がこれまでに交渉された最悪の合意であるといいました。

 2015年9月のUSA Today紙の特集で、トランプは「私が大統領になったら、イランと再交渉する」といいました。

 湾岸のアラブ諸国とアメリカの間の同盟はすでに存在するとBBCに疑問を呈されると、ファレスは「我々はそれが本当であることを望みました。多くのアラブの外交官は我々に、彼らはテロリズムと戦う上でもっと活発な参加をすることを望むと言ってきましたが、オバマ政権はイランとの核協定を行き詰まらせるからイラクとシリアではそれらを望まないといって彼らに反対しました。」と答えました。


 やはり、トランプ政権の外交政策は大味なものになりそうです。

 トランプは選挙期間中に主張した多くの政策を実行しないでしょう。しかし、中東政策については、この通りに実行するつもりです。

 イランとの核協定は今後しばらくはイランに核開発ができないようにするかわりに、イランに対する経済制裁を解除する内容です。イランは保有する濃縮ウランの量の削減、ウラン濃縮活動の制限、核関連施設への査察の受け入れと引き替えに、経済制裁を解除してもらう利点があります。

 この協定を進めるために、オバマ政権が中東への介入を制限しているという見方は、私は受け入れられません。現在でもアメリカはかなり慎重に、かつ大胆に中東に介入しています。

 その理由が中東の外交官に言われたからというのが理由なら、あまりにも近視眼的で馬鹿げています。各国の外交官は自分の国の都合で発言するのですから、それらをすべて真に受けて、受け入れていたら、それは無制限に新しい戦争に足を突っ込むことになるでしょう。つまりは「木を見て森を見ず」という、全体像を把握した上で決定をする手法を放棄しているということです。

 トランプはイスラム国の殲滅が最優先課題だといいます。ところが、中東各国はそれぞれに別の「敵」をかかえています。中東諸国の対テロ活動に参加するという意味は、イスラム国ではなく、それらに対する戦いに新たに参入することに他なりません。早い話が、戦争拡大です。

 おまけに、イラクとシリアではイスラム国の殲滅が目前です。いまさらシリア反政府派への支援を打ち切り、シリア政府軍へ乗り換えれば、イスラム国の延命を許すだけです。シリア軍と共にいずれはイスラム国を殲滅するのだとしても、イスラム国支配地域の住民の苦痛が長引くだけです。(もっとも現地民の苦痛など、トランプには何の意味もないのでしょうが)

 そこで、オバマ政権はバランスをとりつつ、イランとの核協定に影響しないようにしながら、イスラム国を追い詰める策を講じてきました。イラクではイラン軍と米軍がごく間近で活動するという、かつてなら考えにくいことも起こりました。それを可能にしたのは、オバマ政権が全体像を把握しつつ軍事行動を進めたからです。

 トランプが湾岸諸国との関係を強化したがるのは、石油の安定供給を考えるからでしょう。そのためには、中東の民主化などには関心がないのです。もともとイスラム教徒は民主主義など望んでおらず、それを与えるためにアメリカ人が危険を冒す必要はないという訳です。トランプの戦略はイスラム国殲滅ではなく、経済のために軍隊を使うことに他なりません。まさに「ウォール街の住人」のための外交です。

 大量の米軍を派遣することは、現地で反感を買う恐れもあります。それも考えた上で、少数の部隊に限定しているのです。米軍にやかましいほどの注文を出していますが、それは現地の反発や軍の犠牲を減らしているのです。

 要請だけで動くような戦略は、実は「消極的」なものです。トランプは、子供の頃に通った教会の神父が主張した「積極的思考」で動いているはずなのに、国家戦略では消極的なのです。

 そして、なにも理解しようとしない愚かな圧倒的多数のアメリカ国民が、こういう細心の注意を払った戦略を理解せず、大味な戦略へと回帰しようとしています。

 それがトランプ時代を形成していくでしょう。

 多くのアメリカ人にとって、中東政策は人気のない話題です。それよりも雇用問題の解決を求めるでしょう。そんなのは市長や知事にいうべき話で、大統領が直接正せるものではありません。できたとしても、ごく一部に対する改善しか期待できません。軍隊を増強するのだから、兵器産業がある地域は潤うかも知れません。

 「私が大統領になれば、皆さんの収入が増える」と錯覚させて当選させたトランプに対して、次第になにも変化が起きないことに大衆は気がつきます。そこで起きる、元トランプ支持者の宗旨替えは、最悪の場合、トランプ自身へと降りかかることになります。メディアを使った攻撃、暗殺の試みなどが考えられます。 トランプがそれで傷つくことに私は頓着しませんが、そのためにアメリカ社会が大きく混乱することは問題です。

 



Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.