テポドン2号の軌道は人工衛星用だった
北朝鮮監視サイト「38north」のレポートが国内でも報じられていますが、テポドン2号には再突入体がないので、弾道ミサイルには使えないことを、政権に遠慮しつつ控えめに伝えているだけです。
しかし、原文を読むと、日本政府が「事実上の弾道ミサイル」とするテポドン2ン号の軌道は「人工衛星打ち上げロケット」の軌道だったと明確に書いてあります。
そこで、関係する部分を紹介し、私のコメントを付記することにします。冒頭と「How Should the US Respond?」は省略しました。「背景」にはこれまでの打ち上げの経緯が書かれています。既知の事実ですが、テポドンの開発を振り返る意味で掲載しています。
背 景
北朝鮮は1998年以降、長距離ロケット5台を発射しました。1998年8月の最初のテストは、半島の東海岸の舞水端里基地から打ち上げられた3段式ロケット、テポドン1号が関係しました。最初の2つの機体は設計通りに作動し、3段機体は2段機体から切り離されましたが、そのすぐ後に故障しました。3段機体と衛星は打ち上げ場から約1,600kmの太平洋に飛び込みました。
テポドン1号の打ち上げから8年後、北朝鮮は2006年7月により大きなロケットを打ち上げました。米諜報機関に命名されたテポドン2号は飛行後、42秒で爆発しました。打ち上げの写真やビデオ映像はありませんでした。
2009年4月5日、北朝鮮は舞水端里から3段式の銀河2号を使って小さな人工衛星をあげようとしました。日本の自衛隊により収集され、公表された飛行データは、最初の2つの機体が狙ったとおりに作動したことを示しました。3段機体が2段機体から切り離すにに失敗したか、3段機体の点火に失敗したかが飛行を決定づけ、3段機体は失われ、人工衛星は制御を失って回転し、打ち上げ場から約3,200kmの海中に落下しました。北朝鮮の国営テレビが放送した打ち上げの写真とビデオ映像はロケットの大きさとおおよその構造をはじめて公に垣間見せました。
3年後、2012年4月12日に銀河2号の僅かに修正されたバーションである銀河3号が組み立てられ、準備された後、新しい西海既知から打ち上げられました。ロケットは予想された通りに南へ向けて離昇し、約100秒で1段機体が故障したとされます。韓国が1段機体の残余物を回収したものの、故障の正確な性質は不明です。破片の分析は1段機体はそれぞれ独立して動くノドンエンジン4基のクラスターと、ロケットを操縦する小型のバーニヤエンジン4基で構成されることを確認しました。
2012年11月、北朝鮮政府は人工衛星光明星を太陽同期軌道にあげると2度目の宣言をしました。西海施設で銀河3号の組み立て、システムチェック、燃料供給が約2週間続きました。悪天候とちょっとした技術的な不具合が打ち上げをさらに数日間延期しました。同年12月12日、銀河3号は人工衛星を軌道に投入することに成功しましたが、人工衛星は安定し、地表に対して正しい方向に向くことに失敗し、設計通りに地表の写真を撮影することを妨げました。
最も最近の打ち上げは2012年12月のほぼ同じ繰り返しですが、人工衛星光明星4号は過去のものよりも約2倍の200kgと報告されます。これは1段機体と2段機体の指定された落下区域がなぜ2012年の打ち上げよりも僅かに近いのかを説明するのを助けますが、その他の可能性が変化に寄与した可能性もあります。
光明星4号の軌道パラメータ(501x466km 97.5度)は北朝鮮が予測した太陽同期軌道と異なり、銀河ロケットが小さな狙いの逸脱をしたことを示します。さらに、アメリカは3段機体から人工衛星を解放するメカニズムが予定通りに作動しなかったというもう一つの徴候、人工衛星が軌道の中で宙返りしていることを発表しました。それでも北朝鮮は物体を軌道に投入することに再び成功しました。
人工衛星と弾道ミサイルのどちらの試験か?
人工衛星の打ち上げ、特に低軌道へペイロードをあげるものは、最初に上へ打ち上げますが、それからペイロードを軌道が安定するのに必要な速度に達するために地表とほぼ並行の経路に加速します。低推力のエンジンは必要とされた視線速度(観測者の視線方向に沿った速度成分)を達成するために打ち上げられた軌道の後の段階で典型的に用いられます。ペイロードの最大高度は任務が必要とする軌道パラメーターにより、200〜500kmの範囲です。一方で、ペイロードを最大距離まで射程に沿って慣性で進むように弾道ミサイルは弾頭を高い高度に打ち上げます。射程10,000kmの大陸間弾道ミサイル(ICBM)は最小エネルギーの軌道の時、1,000km以上の頂点高度に達します。弾頭をこのような高さにあげることは、上方へ加速する間に重力損失を避けるために高推力エンジンを必要とします。
任務を決定するための打ち上げ軌道であまりにも早くに爆発したテポドン2号の2006年7月の打ち上げを除くと、北朝鮮によるその他のより大きいロケットすべての打ち上げは人工衛星打ち上げ機として最大の性能のために設計されました。それぞれのケースで、テポドン1号と銀河ロケットは人工衛星の打ち上げに完全に一致した軌道を飛びました。さらに、テポドン1号は防空ミサイルの2段機体、S-200(NATO名ではSA-5)からあさった低推力のエンジン(Isayev 5D67)を使いました。2012年12月の銀河3号打ち上げの間に北朝鮮の管制室に表示された飛行データは、2段機体がより燃料を持つためにより大きな直径の機体を持つスカッドBミサイルの修正版であることを示します。3段機体はイランのサフィール打ち上げロケットに見出すものにかなり似ています。それはソ連の潜水艦弾道ミサイル(SLBM)のR-27(NATO名SS-N-6)やソ連では実戦配備されなかったROTAのようなその他のソ連のシステムいずれかのバーニア(制御)エンジンで構成されます。銀河が長燃焼、低推力の上段の機体を使うのは宇宙の任務のために理想的で、弾道ミサイルとして使うなら、低推力エンジンは上向きの軌道の間に大きな重力損失を被り、ミサイルの約800kmの射程を奪うでしょう。
人工衛星打ち上げ機はICBMに転換できるか?
疑いなく、ロケットは人工衛星を軌道に打ち上げるために設計され、長距離弾道ミサイルは同じ技術、主要な部品、操作上の特徴を多く採用します。しかし、ペイロード自体は別として、人工衛星の打ち上げを弾道ミサイルとを区別する主要な特徴があります。第一に、弾道ミサイルのペイロードは地球の大気圏再突入の厳しさを生き残らなければなりません。長距離ミサイルのペイロードを再突入の間に経験する極度の熱と構造負荷から守ることは、本当の状況下で試験し確認される特殊な資材の開発と生産を必要とします。
第二に、先に論じたように、人工衛星の打ち上げ機と長距離弾道ミサイルは、それぞれの任務を成し遂げるために明確に異なる軌道を使います。異なる軌道は最適の性能のために異なる推進システムを要求します。人は単に一つのエンジンを別の物へ交換して、ミサイルが高い信頼性で作動すると思うことはできません。新しい構成での複数の飛行テストが性能と信頼性を確認するために必要です。
第三に、あまり明らかではない操作上の必要条件と共にあります。飛行の前に、人工衛星打ち上げ機は、それらに対応する弾道ミサイルと異なり、数週間ではなく数日間にわたって準備されます。部品とサブシステムは打ち上げの前にチェックされ、確認され、ミッション指揮官はカウントダウンを始める前に理想的な天候を待つ柔軟性を持ちます。カウントダウンの間に異常が起きれば、エンジニアは打ち上げを延期し、問題を特定して修正し、プロセスを再開できます。いままで銀河ロケットの打ち上げが少なくとも一週間を必要としたこと、打ち上げのために組み立てて準備するために完全な一月間を要しなかったことを思い出してください。
(原文にはここでロケットの構造図が表示されています)
対照的に弾道ミサイルは、その他の軍事システムと同様、警告がほとんどないまま、様々な作戦の状況下で確実に作動しなければなりません。こうした操作上の必要条件はより厳しい確認方式を強い、それは広範な飛行試験計画を含みます。通常、検証試験を正常に完了した後にだけ、ミサイルは戦闘準備ができたと考えられます。この後者の必要条件と打ち上げ前の生存性を確保する必要性は、逆のプロセスはしばしば起きたのに、なぜソ連とアメリカが決して人工衛星打ち上げ機を弾道ミサイルへ転換しなかったかを説明します。中国は初期の長距離ミサイル(DF-3、DF-4、DF-5)と人工衛星打ち上げ機(CZ-2、CZ-3)を平行して開発しました。しかし、相前後して開発計画を実行することは軍事ミサイルのために何年にもわたって試験飛行の完全なセットを実行する必要を排除できませんでした。平行計画は開発スケジュールを大きく縮めることはありませんでした。
北朝鮮は銀河人工衛星打ち上げプラットフォームを弾道ミサイルに使うために間違いなく選ぶことができましたが、転換は単純でも素早くもありません。銀河を弾道ミサイルモードに転換する飛行テストが依然として必要です。もし、北朝鮮が銀河3号の最初の2つの機体を使って弾道ミサイルを製造するなら、観念上のミサイルは最高射程4,000〜6,000kmを達成するかもしれません。米大陸に達するには、強力な3段機体が開発され、銀河3号の最初の2つの機体に追加される必要があります。低推力のスカッドエンジンが2段機体に保持されるなら、概念上のミサイルは弾道ミサイルとして使うには十分に適していないままです。
ソ連はヤンゲル設計局がICBMのR-16を造るためにR-12とR-14ミサイルの主ブースターを結合することを提案した時、1957年にアップグレードを再考しました。R-16はうまく開発できましたが、より強力な推進剤を使う新しいエンジンの開発を含む、大幅な再設計のあとでした。ソ連の経験は北朝鮮が主に銀河3号のハードウェアから引き出した使用可能なICBMを造るのが大変で時間を浪費することに気がつくかもしれないことを示します。
北朝鮮は銀河3号を切迫した状況で緊急的な使用のためにICBMの基礎として使うことを考慮しているかもしれません。ミサイルは90トン以上の重さで、それが移動打ち上げプラットフォームで展開するには大きすぎ、扱いにくくします。サイロへの展開は可能性があるものの、北朝鮮は比較的小さい国で、戦略的な深さが限定され、サイトの位置を隠すのが難しいことが分かります。北朝鮮のサイロすべては海岸から200km未満で、そのために朝鮮半島の近くをパトロールするイージス艦に配備されるSM-3迎撃ミサイルを用いたブーストフェーズの迎撃のような最先端の軍事力による先制攻撃には脆弱です。
ICBM用に、新しいミサイルが設計されることがよりありそうに思われます。2012年4月、北朝鮮は平壌での軍事パレードの間に移動式、長距離ミサイル、ファソン13(Hwaseong-13)、米国名KN-08の模型を公開しました。ミサイルはこれまでにテストされず、その起源とハードウェアの構成は不明です。平壌での軍事パレードの間の最も最近のミサイル展示が示すとおり、KN-08の構造は修正もされています。銀河3号やノドン、スカッドミサイルで使われるよりも強力な推進剤が用いられるならば、新型ミサイルは大陸間の射程を持てるかも知れません。しかし、飛行テストが行われるまで、そうした可能性は推論のままです。
北朝鮮がムスダンと同様に、すでにKN-08を配備したとの報告があります。これらのミサイルはどちらもテストされていないため、平壌はそれらを発射しようとすることは必然的に失敗する大きなリスクをみなければなりません。アメリカ、ソ連、中国、フランスの長距離弾道ミサイルと人工衛星打ち上げ機の第一、第二世代の開発に関する大ざっぱな評価は新しいミサイルは最初の半ダースの飛行が成功するよりも失敗しやすいことを示します。北朝鮮の銀河ロケットは成功する前に3回失敗しました。金正恩政権を直接脅かす危機の間にテストされていない弾道ミサイルが発射されるかもしれないものの、それは信頼できる戦略的能力を見られることはありません。
このレポートの骨子は、今回のテポドン2号の打ち上げは軌道から見て人工衛星ロケットの計画に酷似しており、テポドン2号を弾道ミサイルに転用することは困難だということです。
少なくとも弾道ミサイル用の打ち上げ実験を行わない限り、信頼できる兵器システムにはなりません。
テポドン2号の先端に核兵器(完成していればの話ですが)を搭載することはできるでしょう。しかし、重たいペイロードは飛距離を格段に減らし、アメリカには遠く届かないということになります。このレポートは3段機体を改良しない限り無理だとしています。
テポドン2号の設計について詳しくない人は大勢いるでしょうが、この記事を読んでも、他国が開発したロケットのコラージュに過ぎないことが分かったはずです。完成しているロケットを束ね、制御エンジンなどをつけてまとめあげたということです。
随分前に、テポドン2号が弾道ミサイルになることは想像できないと書いたことがありますが、このレポートを読むと、その考えがさらに深まりました。
こう考えてくると、アメリカに脅威を及ぼす可能性が一応はあるという程度のロケットで日本が大騒ぎする必要はまったくないことになります。特に東京にPAC-3を、日本海にイージス艦を配備するのは資源の無駄遣いといえます。
テポドン2号は脅威でないとしても、ノドン300基は脅威だという意見があります。確かに、ノドンミサイルは日本のほとんどすべてを射程に収めています。しかし、300基はミサイルの数であり、ランチャーの数ではありません。一度にどれだけのノドンを打ち上げられるのかは不明ですが、300基より少ないのは確実でしょう。今のところ、ノドンに搭載できる核弾頭はありませんから、通常爆薬か化学兵器しか搭載できません。また、ノドンは打ち上げ実験が非常に少なく、本当に飛ばせるのかについて、私は疑問を持っています。北朝鮮がノドンを次々と生産できるなら脅威ですが、300基を撃ったら終わるのなら、彼らは日本を決して征服できないことになります。北朝鮮が恐れるのは米軍であり、攻撃するとすれば在日米軍基地です。しかし、日本政府はその周辺で避難訓練を行うつもりはありません。実は、今回の騒動が浮かびあがらせるのは、日本の防衛態勢の不備なのです。
|