川内原発は停止する方が危険?

2016.4.18


 昨日、熊本地震の余震の影響を考えて川内(せんだい)原子力発電所を停止すべきだとの意見に反対する人とネット上で議論となりました。

 その投稿者は川内原発を止めると、余計に危険だと主張します。

 南九州(熊本、宮城、鹿児島)の電力が不足することにより、原発の冷却機能を動かすための電力までが不足し、数時間でメルトダウンが起こるというのです。

 さらに、南九州には発電所が少ないため、熊本県を通る50万ボルトの送電線が切れると、火力発電所1カ所と水力発電所しか電源がないとも主張します。

 原子炉を停止しても、冷温停止になるまでは何ヶ月間もかかるので、稼働した場合とリスクは同じだとも。

 読んだ瞬間に「何か変だ」と感じました。一系統が故障すると大半が駄目になるようなシステムは設計自体が誤っています。九州電力の送電網はリスクマネジメントの原則に反していることになります。また、本当に電力が不足して、冷却機能が失われるのかについて、データが何も書かれていないので、疑問はさらに深まりました。

 投稿者との議論はうまく行きませんでした。私は外部からの送電がなくなっても、非常電源に切り替えることでメルトダウンは防げると指摘しました。すると、相手は非常電源の説明を書きはじめたのですが、それは最初の投稿には一つも触れられていませんでした。私はそれは後出しジャンケンであり、私の指摘で気がついたことだと反論しました。投稿者は「言い掛かりだ」と言い出し、以後は言葉の応酬となりました。

 どうも相手はあまり原発のことを知らないようで、「炉心溶融の結果、炉心損傷が起きる」などと、誤った知識を披露しました。「炉心損傷の結果、炉心溶融が起きる」のが本当です。投稿者は勘違いしたと言い訳したものの、主張の根幹部分は誤っていないと言い張りました。

 その後、事実関係を確認したのですが、やはり、かなりの部分でこの人の言うことは間違っていました。川内原発を停止しても、南九州には電力不足は起こらないのです。

 不確かな知識を元に、もっともらしい説を作り上げ、それをネットで流布するなんて、私には信じられません。

 議論に用いた情報や、その後に集めた情報から事実関係を明らかにします。

 南九州は火力発電所2カ所(川内、苓北)あり、1カ所ではありません。その他、水力発電など再生可能エネルギーの発電所もあります。これらの発電所だけで、南九州への電力供給は足りています。川内原発は北九州で使う電力を発電するためにあり、それが50万ボルトの送電線で送られているのです。50万ボルト線が破損した場合、川内原発は送り先のない電気を作ることになるため、原子炉を停止しなければなりません。また、50万ボルトの送電線は現在2ルートあり、災害時の耐性が高められています。南九州地域への送電は6〜22万ボルトの送電線で行われています。

 50万ボルト線が1ラインしかないと信じ込み、そこが切れると南九州への送電が止まるというのは誤解です。2カ所の火力発電所と水力発電所などで足りるくらいでないと、九州電力のリスクマネジメントは合格点をもらえません。南九州三県の消費電力は少なく、三県合わせても福岡県一県にも足りません。

 苓北火力発電所の最大出力は140万kw、川内火力発電所は100万kw、水力発電所は私の集計では三県で256万kw、合計496万kwあります。その他にも小規模発電はあり、素人の計算でも500万kwは確保できているといえそうです。これだけの電力があって、原発の冷却機能を動かすことができないはずがありません。

 18日19時現在、熊本県の停電率はたったの2.2%です。送電網が98%動いていて、原発に電気を送れないわけがありません。

 また、冷却機能が失われると原子炉がメルトダウンする可能性があるのは当然ですが、東日本大震災以降に作成された新規性基準では、非常電源が強化されており、全電源が失われた場合でも、メルトダウンを避けるための方策が決められました。確かに、あらゆる手段が失われるとメルトダウンは起こりますが、耐性は実現しているのです。

 福島第一原発では津波によって電源装置のすべてが失われ、冷却機能を復旧できなかったためにメルトダウンが起こりました。川内原発で心配されるのは津波よりも施設の崩壊によって電源を復旧させられないことですから、問題の性質が違います。

 原子炉をフル稼働させた時と、冷温停止した場合やそれに向けて作業していた場合、原子炉が破損するとどちらが危険かは言うまでもないでしょう。フル稼働の方が高温のためにメルトダウンの危険も高くなりますし、より多くの放射能漏れが懸念されます。稼働と停止のどちらにしてもリスクが同じだというのは誤りです。

 本当はこの話をしたかったのだけど、初手から議論が噛み合わなかったので、肝心な部分を相手に説明することはできませんでした。 相手は基本的な調査をせずに書いているのだから当然です。

 熊本地震で動いた断層がつながる位置にある川内原発は、地震の予知ができない以上、防災の観点から停止する方が安全と考えます。原子力安全委員会は、これまでの地震活動からしか検討していません。揺れが起きたら緊急停止すればよいという発想でしょうが、ハイテクシステムは期待通りに動くとは限りません。防災の観点を原子力政策に持ち込む必要があります。

 



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