反対勢力軍がジュバへ接近中と主張

2016.8.1


 7月31日付けのsudantribune.comによれば、南スーダンの首都、ジュバ(Juba)の周辺で激戦が続いており、反対勢力SPLA-IOは占領を狙って首都に接近していると主張しています。

 戦闘がジュバ・イエイ道路(Juba-Yei road)、ジュバ・ムンドリ道路(Juba-Mundri road)の異なる場所と首都北西部で、サルバ・キール大統領(President Salva Kiir)と解任された第一副大統領レイク・マシャル(Riek Machar)の軍隊との間で、森林の奥深くで起きていると報告されます。

 「激戦が過去3日間続いています。キール大統領の軍隊は我が軍に対して攻勢をとっています。彼らは第一副大統領レイク・マシャル博士を探し、彼を排除することを狙っています。しかし、我が軍は自衛で反撃しています」とマシャルの報道官、ジェームズ・ギャトデット・ダク(James Gatdet Dak)は言いました。

 彼は彼らの軍隊が攻撃を撃退し、キール大統領の軍隊に数百人が森の中で殺される大損害を与え、ランヤ郡(Lanya)とカティギリ(Katigiri)の多くの地域を占領したと言いました。

 彼は反対勢力の軍隊は、ブルドーザー、大型トラック、小型ピックアップトラック、さまざまな種類のライフル銃を含め、軍用トラック21台と補給品を押収したとも主張しました。

 ダクは反対勢力は異なる方向からジュバを包囲して、首都を支配して、法と秩序を回復するために首都へ前進することを強いられると付け加えました。

 「我が指導層は、第一副大統領レイク・マシャル博士がジュバへ戻り、首都で暴力に戻る恐れなく和平合意を実行し続けられるようにするために、第三勢力の軍隊の派遣を促すよう要請しました。しかし、これが起こらず、キール大統領の軍隊がマシャル博士の排除を狙って我が軍を攻撃し続ければ、我が軍はジュバを占領することを強いられるでしょう」と彼は言いました。

 彼はさらに、彼らの軍隊がジュバ・イエイ道路とジュバ・ムンドリ道路に接近し、ジュバに近づいていると言いました。

 ダクは反対勢力がジュバを支配することは、進行中の彼らの軍隊への攻撃を終わらせ、首都で和平と治安を復活させ、さらにその先へ進むと言いました。

 Sudan Tribune紙は何が起きているかを確認するのが困難で、政府からの公式声明がないために、密林で進行中の戦闘に関与する犠牲者のレベルを独自に確認できませんでした。

 キール軍の当局者は、彼は両者にJ1(大統領宮殿)とジュベル・クジュア(Jebel Kujur)の2日間の戦闘よりも大きな損害が出ていると考えると述べました。

 南スーダン政府は金曜日、キール大統領が議長を務める閣議で、第三勢力の軍隊をジュバへ展開することを許さない決定を行い、現在の国連平和維持軍12,000人で十分であり、彼らの委任事項だけが交渉され、評価されることができると言いました。

 しかし日曜日、政府治安当局者が反対勢力がジュバを占領する脅威が起きたのに続いて、金曜日の決定を再評価するための治安会議を行ったとの未確認報告がありました。

 一方で、民間人はジュバで差し迫った戦闘の恐れがある中、首都から逃げ続け、政府軍兵士が首都郊外の国連キャンプへ逃れています。


 記事はほぼ全体を紹介しました。

 これは驚くような展開であり、受け入れるのを躊躇するほどです。

 キール大統領は首都付近に20,000人の軍隊を持ち、マシャル軍は1,200人程度。戦力比20対1の圧倒的差があったはずです。ところが、大統領宮殿での銃撃戦以降、政府軍が大きな損害を出し、いまや反対勢力が首都奪還を宣言するといいます。

 軍事常識的にはこれはおかしなことです。兵力は3倍もあれば攻撃を行え、5倍以上なら勝利は確実といわれるほどです。20倍の兵力で劣勢ということは、戦闘力が兵士個人の能力に大きく依存する小火器中心の軍隊か、士気が格段と低いかのいずれかです。

 ダク氏の発言や記事の記述には疑問もあります。ジュバの郊外には密林と呼べるものはなく、草原に樹木が点在している感じなのです。視線(照準線)を遮る障害物は戦闘に大きく影響しますが、そういう場所は限定されています。どの辺りを密林と呼んでいるのかが少々疑問です。

 首都郊外の西に標高800m程度の山があり、ここは樹木が密生しています。首都付近の平地の標高は400〜500mで、山は300m程度の高地となっています。西へ向かう道路に接し、大部隊が潜伏できる面積があることから戦闘に重要な「緊要地形」といえます。ここは自衛隊がいる空港から約16km。榴弾砲なら射程圏内です。

 反対勢力の1,200人では、防戦に手一杯ですし、ジュバ程度の広さの都市は頭数が足りなくて包囲できません。北部から味方が到着している可能性があります。これは前から感じていたことですが、マシャルは友軍を密かに首都近くに潜伏させていた可能性があります。万一、キール大統領が強攻策に出た場合の保険としてです。また、戦闘が再発してからの日数を考えると、北部からの増援が到着したとしてもおかしくはありません。

 政府軍兵士が国連施設に逃げ込んでいるとの話は、政府軍が総崩れになっていることを示しますが、これも理解しにくい状況です。そこまで状況が変化したのでしょうか?。

 反対勢力が情報戦として嘘の情報を流している可能性もありますが、治安当局者が会議を開いた未確認情報も気になるところです。嘘の情報で行われる会議ではありませんから。

 日本政府は依然として、「首都は平穏」としていますが、現地では反対勢力が近く首都に突入するとみて、対処が進んでいます。これは派遣されている自衛隊部隊にも重大な局面です。

 反対勢力に押された政府軍兵士が自衛隊の基地施設へ逃げ込み、反対勢力軍が追いかけてきたらどうなるのか?。民間人の場合は中へ入れることができますが、中立を保つべき国連部隊である自衛隊は軍隊を入れることはできません。

 恐らく、キール大統領よりは学があるマシャルは国連軍を攻撃するような愚かなことはしないでしょう。しかし、周辺で戦闘が展開されている場合、何があってもおかしくはありません。

 もはや日本政府のやることは一つだけです。何が起きても「首都は平穏」と言い続けることです。それができなくなったら、自衛隊はPKO5原則に反しているので撤退しなければなりません。政府はいま撤退すれば、国際社会から批判されると恐れていますから、撤退なんかできないのです。隊員が死傷しても「流れ弾」によるものとして、攻撃された訳ではないと言い繕えます。

 こういう馬鹿な展開は、最近の米軍でも聞きません。失敗したイラク侵攻以降、米軍は軍事作戦を勧告するのに慎重になっています。日本政府と自衛隊が展開するまか不思議なプロセスは他の国では見ることがむずかしいものとなっています。

 


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