オスプレイのための水撒き記事 どこが削除された

2016.8.13


 しつこいようですが、熊本地震でのオスプレイ活用の是非について再度書きます。

 前に今年4月18日付けの毎日新聞の記事を引用して説明しました(過去の記事はこちら)。これはネット版の記事で、タイトルは「オスプレイ物資搬送 『政治利用』の声も」でした。紙面版には「オスプレイ物資搬送 『政治利用』の声」(字数の関係か「も」が削除されています)。

 ネット版の方が記事は長く、紙面版はかなり削除されていたことが、縮刷版で確認できました。以下にネット版の記事を引用し、ピンク色でどこが紙面版に掲載されたかを示します。

(引用開始)

 熊本地震の被災者支援のため米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが18日、熊本県内で救援物資約20トンを輸送した。国内の災害派遣で同機が使われたのは初めて。防衛省側は災害救援で有効性を示す機会だと考えたが、省内でも「オスプレイを政治的に見せつける作戦」と冷ややかな見方も出ている。

 米軍普天間飛行場(沖縄県)配備の4機が17日に岩国基地(山口県)に着陸し、うち2機が18日に熊本空港に向かい、水やパン、レトルト食品、簡易トイレなどを積み、熊本県南阿蘇村の白水運動公園に着陸した。待ち受けた陸自隊員がオスプレイから食料などが入った段ボールを運び出し、輸送車で村内3カ所の避難所に向かった。

 熊本空港など各拠点に物資は届いているが、道路の寸断や渋滞で被災者まで渡っていない状況に米軍が加勢した形。オスプレイを巡っては、陸上自衛隊が導入するオスプレイの佐賀空港配備計画の協議や、本土への訓練移転による沖縄の負担軽減など地元との懸案を抱えている。防衛省関係者は「オスプレイ投入は災害で使えることを示して安全性の懸念を取り除こうとする取り組み。災害の政治利用という批判はあるだろう」と指摘する。

 オスプレイは陸上自衛隊の輸送ヘリCH47より航続距離や速度は上回るが、搭載できる空間が狭く容積は半分ほど。比較的軽い生活物資ならばCH47の方が一度で多くの物資を運べる。オスプレイは着陸時に巻き上げる風が強いため、2015年のネパール大地震で住宅の屋根が破損したとの報道もあった。この日は白水運動公園にオスプレイが着陸する前、砂が巻き上がるのを防ぐためか自衛隊車両が散水していた。

 南阿蘇村立長陽中学校の体育館では1日3回の食事が配給されるが、一度の食事はこぶし大のおにぎり1個程度。村内のスーパーやコンビニエンスストアは品薄状態が続く。16日未明の地震で自宅の柱がゆがみ同体育館に避難している農業研修生、丸山慎裕(しんすけ)さん(36)は米軍の支援について「カロリーが少ないためか自宅の後片付けも力が出ない。素直にありがたい」と話した。

 一方、オスプレイの佐賀空港配備に反対している佐賀市の主婦、石丸初美さん(64)は「被災者の方々はおにぎり一つでもありがたいと思う状況。政府は(オスプレイの国内配備のために)どんな状況でも利用するのか」と憤った。配備計画には地権者の佐賀県有明漁協が防衛省の現地調査を拒否している。

 日米は陸海空自衛隊で構成する「統合任務部隊」内に18日、「日米共同調整所」を開設し、日米連携を加速させる。オスプレイは岩国基地を拠点に19日以降も物資輸送を続ける。熊本県沖に停泊する海上自衛隊の大型護衛艦「ひゅうが」で給油する準備もしている。【町田徳丈、蓬田正志、関東晋慈】

(引用終わり)

 記者はオスプレイのダウンウォッシュが強く、砂塵を巻き上げたり、周囲の物を破壊することがある点を指摘し、さらに自衛隊が水を撒いたことも書いていました。

 編集部がそれをうまく切り貼りして、当たり障りのない記事にしたようです。おかげで、この問題の重要性は国民の目から隠されることになりました。よくあることですが、記者はしっかり仕事をしても、編集の段階でその努力がぶち壊しにされるのです。

 見事な大本営発表となっています。すでに防衛省とマスコミの共同正犯が成立しているといって過言ではありません。南スーダンの件もそうですが、危機が起きているのに、あたかも存在しないように国民に思い込ませる態勢が、この国にはあります。

 残念ながら、日本のマスコミはアメリカと比べてレベルが格段に低いのが現状。アメリカも元々はマスコミは簡単に買収され、有名なところでは米西戦争が新聞が煽り立てた戦争として知られています。おそらく、写真、ラジオ、テレビの発達により、マスコミが嘘をつきにくくなったこともあり、報道倫理が確立され、記事の書き方についてはルールが生まれました。

 日本では周囲に配慮したがる日本人の性質が健全なジャーナリズムの発達を阻害しています。映像の時代なら映像をごまかせばよいのだと、オスプレイの着陸前に水を撒いた自衛隊を告発する気にはならないのです。現場の記者はともかく、編集部の椅子に座っている人たちは。

 


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