海兵隊の虐待事件で訓練教官に刑期10年の判決

2017.11.12


 military.comによれば、サウスカロライナ州、パリスアイランド(Parris Island)の元海兵隊訓練教官が酒が火を注いだいじめでイスラム教徒の訓練兵を工業用乾燥機で回し、その他の1ダースを虐待、暴行した件で有罪となりました。

 ジョセフ・フェリクス2等曹長(Gunnery Sgt. Joseph Felix)は、異なる3個小隊でイスラム教の訓練兵3人を含めた虐待3件と一般命令違反7件で有罪です。

 彼は飲酒と無秩序な行為、彼自身の行為への調査の間に海兵隊の調査官へ偽の公式声明を出したことでも有罪でした。

 彼は司法妨害と、彼の小隊の訓練兵との許可されていない肉体的な士気向上訓練に付随するその他の違反については無罪になりました。

 決定は、12時間の審議と、数十人の元海兵隊訓練兵と訓練教官が証言した10日間の証言に引き続いて、木曜日午後8時以後になされました。

 明るいスポットライトが、訓練基地に到着後11日目に分隊棟の3階から飛び降りた、2016年3月18日のミシガン州出身(Michigan)のパキスタン系アメリカ人イスラム教徒訓練兵ラヒール・シディクイ(Raheel Siddiqui)の死後、訓練兵いじめに対して嫌疑につけられました。

 サウスカロライナ州検死官はシディクイの死を自殺と決定しましたが、訓練兵の家族は結論に異議を唱え続けています。

 シティクィの死後、訓練基地の訓練教官15人とその他5人の上官が職務から取り除かれました。

 34歳のフェリクスは起訴され、シディクイの死に焦点を当てた1件を含めた、いじめの嫌疑への2016年の3つの別の命令による調査のあと、高等軍事裁判に指定されました。

 その調査で、フェリクスはシディクイを叩いて、彼の悲劇的な自殺の数分前の処罰として、彼に肉体的な士気向上訓練を行わせた上級訓練教官として名指しされました。

 陪審はフェリクスがアミーア・ボーマシュ伍長勤務上等兵(Lance Cpl. Ameer Bourmeche)をテロリストと呼び、彼を乾燥機の中で回し、シャワー室でいじめたと結論しましたが、模倣した斬首の儀式とボーマシュのように罵りと戦っていたと述べたことでは無罪としました。

 10日間の裁判で最大の驚きは、イラクのクルディスタン出身の元海兵隊訓練兵リカン・ハウズ(Rekan Hawez)の証言と共に来ました。彼は、ハウズの民族性に気がついたあとでフェリクスが彼を「ISIS」と「テロリスト」と呼びはじめたと証言した、

 2015年7月、ハウズはフェリクスがボーマシュをいじめたと訴えられたのと同じ夜、彼が「おい、ISIS。乾燥機に入れ」と言い、彼をドラムにセットしたものの、フェリクスはスイッチを入れませんでした。

 彼の訴えは2016年の命令で行われた調査には含められませんでしたが、ハウズはのちにフェリクスの事件に関連して海軍犯罪調査部当局と接触し、説明をしました。

 フェリクスはこの報告されたいじめの儀式の前に、ほかの訓練教官と共に駐車場でファイヤーボールウィスキーを飲んだとされ、いじめの告発に加えて、職務怠慢と飲酒、無秩序な行為で起訴されました。

 裁判の中で、元訓練兵たちは、彼の息にシナモン味の蒸留酒の匂いがしたと証言し、彼は公然とどれほどそれが好きかを話したと言いました。

 フェリクスはハウズに関連するすべての起訴で有罪とされました。

 ハウズの暴露は、フェリクスがすべて異なる小隊から、特別な虐待のために、イスラム教徒の訓練兵3人を選びだしたと訴えられたことを意味しました。

 ハウズはフェリクスは当時、訓練教官として勤務した、第3新兵訓練大隊K中隊3052小隊の隊員でした。

 ボーマシュは近い3054小隊に所属しました。

 シディクイはフェリクスが2016年に上級訓練教官として最初の勤務で加わった3042小隊の一員でした。

 過去4回の3ヶ月間の訓練期間に訓練教官として勤務したフェリクスは、シディクイを彼が死ぬ日の前ですら迫害をはじめていました。

 「前後関係がここで重要です」と、検察官のジョン・ノーマン中佐(Lt. Col. John Norman)は最終弁論で言いました。

 「彼はすでにシディクイをテロリストと呼んでいました。訓練所で、それは彼が知られた方法です。訓練兵シディクイはテロリストのような匂いがした(と彼は言いました)」

 3月18日、シディクイは目覚め、話すことができないほど痛み、血を吐いたと不満を述べるメモを書きました。

 彼が大きな声を出せなかったとき、フェリクスは分隊棟の中で彼を前後に走らせたとされます。

 シディクイが喉をつかんで倒れたとき、フェリクスは彼の顔を叩き、彼に叫んだと告発されました。

 法廷はフェリクスがシディクイをテロリストと呼んだことは無罪としましたが、彼を前後に走らせ、倒れた時に叩いたことは有罪としました。

 命令で行われた報告で述べられるいじめの説明を調査する中で、検察官が訓練兵の虐待のさらに多くの報告を暴きました。

 両方のフェリクスの小隊の訓練兵は、ミスと訓練の失敗のために暴力的な懲罰を使ったと主張しました。

 一般命令違反で起訴された訴えの中で、フェリクスは訓練生を顔をひっぱたいたり殴り、訓練兵の首を絞め、訓練兵に互いに首を絞めさせました。

 非合法な士気向上訓練のその他の説明は、フェリクスが洗濯洗剤「Gain」を分隊棟の床に注ぎ、訓練兵に彼らの肌がヒリヒリするまで這わせ、ブラシの木の持ち手が壊れるまで床をブラシで擦らせたと述べました。

 フェリクスは承認されていない士気向上訓練の訴えに関連する起訴では無罪になりましたが、30~40人の訓練兵を洗濯室に詰め込み、彼らの上を歩いたことでは有罪となりました。

 浮かび上がった最も吐き気をもよおさせる訴えは、フェリクスが訓練兵のグループに訓練基地の食堂でチョコレートミルクを自動販売機が空になるまで、それから士気向上訓練を完了させるよう要求し、彼らの一部が吐くまで飲ませたという説明です。

 「これを行うただ一つの理由があります」とノーマン中佐は言いました。「それは虐待です。嫌がらせです」。

 陪審はフェリクスがチョコレートミルクの件、4件の出来事で訓練兵の首を絞めた件、異なる2件で訓練兵1人にほかの者の首を絞めさせた件で有罪だと結論しました。

 彼は訓練兵3人を平手と拳で叩いた件、訓練兵の胸にロッカーを蹴り込んだ件、1987年の映画『フルメタル・ジャケット』を真似たシナリオで、鎖で訓練兵に自分で首を絞めさせた件でも有罪となりました。

 フェリクスは3個訓練小隊の訓練兵をいじめ、ひどい仕打ちをしました、とノーマン中佐は言いました。

 「彼はイスラム教の信仰を理由として、イスラム教徒の訓練兵3人を特別な虐待のために選びました」と彼は付け加えました。

 ガッチリとした体格の元訓練教官は証言しませんでしたが、顰め面で証言と議論を聞きました。

 評決が読まれたとき、彼は黙って立ち、平然としたままでした。

 検察官がフェリクスを訓練兵を訓練するよりは支配し、苦しめるのを好んだ「弱い者いじめ」と言った一方で、2等曹長の弁護団は非常に異なったシナリオを述べました。

 フェリクスの弁護士、クレイ・ブリッジス海軍少佐(Lt. Cmdr. Clay Bridges)は、元訓練兵の証言をあざ笑い、あまりに矛盾し、信じられないほど誇張されたと言いました。

 彼はフェリクスがもう一人の喉を締め、地面から吊り上げたと主張した訓練兵1人の証言を笑いました。

 「明らかに、フェリクス2等曹長はハルクです」と彼は言いました。

 ブリッジス少佐は食堂でのチョコレートミルクに関するいじめの説明は、たとえ元訓練兵19人がそう証言したとしても、特に信じがたいと言いました。

 「悪魔祓いが主任訓練教官(上級訓練教官)、(周囲の)みんなによって行われたなら、起きようとしていることが何だと思いますか?」と彼は言いました。

 「多くの人たちが言ったからだけでは、理にかなった疑いを越えることを意味しません」。

 ブリッジスはシディクイとその他の訓練生、ギャレット・アイセル(Garrett Issel)に、別々の出来事で施された平手打ちを彼らが気絶した後に意識を戻すことを狙った緊急処置だったと述べました。

 こういう状況では「もはや訓練兵の訓練の秩序の中にいません」とブリッジスは言いました。

 ボーマシュと乾燥機事件について、ブリッジスはこの事件の政府側証人マイケル・エルドリッジ軍曹(Sgt. Michael Eldridge)にも責任があると言いました。

 エルドリッジ軍曹はいじめで起訴された最後のパリスアイランドの訓練教官で、彼を管理上の略式軍事裁判に送り、いかなる判決も60日間に制限する司法取引の一環としてフェリクスに対して証言することで合意しました。

 ブリッジスはフェリクスを指差しました。

 「エルドリッジ軍曹は彼を犠牲にして自分を守りました」と彼は言いました。

 その他の訓練教官5人、アントニオ・バーク3等曹長(Staff Sgt. Antonio Burke)、ライリー・グレス軍曹(Sgt. Riley Gress)、マシュー・バッカス3等曹長(Staff Sgt. Matthew Bacchus)、ホセ・ルセナ-マルティネス3等曹長(Staff Sgt. Jose Lucena-Martinez)はシディクイと無関係な事件のいじめとボーマシュの事件で起訴されました。

 グレス軍曹は無罪になり、その他は法律上、管理上の審理で様々なレベルの処罰を受けました。

 シディクイの死亡に関係したことにより、フェリクスの事件は軍の歴史上、最も注目を浴びた海兵隊いじめ事件の一つとなりました。

 事件は同じくパリスアイランドで起きたいじめが疑われる死亡事件、リボン・クリーク事件(Ribbon Creek)の新しい報告と比較されています。

 1956年、訓練兵6人が訓練教官マシュー・マッキーオン3等曹長(Staff Sgt. Matthew McKeon)が酒を飲んだあとで、彼の小隊を湿地の小川に行進させたときに溺れました。

 最終的に、マシュー・マッキーオン3等曹長は過失殺人、勤務中の飲酒で有罪判決を受け、軍務に戻る前に3ヶ月間の収監を宣告されました。

 金曜日に伝えられることになっているフェリクスへの判決はマッキーオンを上回るかもしれません。

 虐待の起訴ごとに、フェリクスは刑務所への収監1年に直面します。

 一般命令違反の起訴ごとに最大で2年の判決となります。

 フェリクスは懲罰的除隊と階級、給与、恩給などすべての喪失にも直面します。

 military.comによれば、フェリクスは禁錮10年間を科すと金曜日に軍陪審は決定しました。

 フェリクスは審理で、不名誉除隊と2等兵への降格も宣告されました。

 判決は検察官が量刑の弁論で勧告した7年間よりもさらに厳格です。

 彼が受けられた最大の判決は21年9ヶ月間です。

 フェリクスは虐待3件といじめ事件で合法的な一般命令への違反8件で有罪判決を受けました。

 彼は虚偽の公式声明、飲酒、無秩序な行為、職務怠慢の個々の訴因でも有罪判決を受けました。

 彼は一般命令違反1件と別の司法妨害では無罪とされました。

 シディクイの故郷ミシガン州の民主党下院議員デビー・ディンゲル(Rep. Debbie Dingell)は、亡くなった訓練兵に敬意を表し、長い声明を公表しました。

 「パリスアイランドでラヒール・シディクイに起きたことは、職務怠慢と悲劇でした」と彼女は言いました。

 「……そのかわりに、ラヒールとその他の訓練兵は、起訴された個人によって狙われ、傷つけられ、虐待されました。検察官が最終弁論で述べたとおり、フェリクス曹長は海兵隊員を養成しませんでした。彼は海兵隊員を破壊しました」。

 ディンゲル下院議員はシディクイの事件で正義を追求し続け、海兵隊と亡くなった訓練兵の家族とともに活動すると言いました。

 「その上、裁判で示された証拠は、自殺の結論は再検討されるべきことを再確認します」と彼女は言いました。

 「私は、我々がシディクイの家族に平和をもたらすことができるよう、入手できるようになった追加の事実を再確認する初期調査結果に関与するすべての人達と働き続けます」。

 フェリクスと彼の妻ジーン(Jean)は金曜日に感情的な証言を行い、フェリクスの海兵隊と彼の家族への愛、訓練教官になる長年の夢について述べました。

 判決が読まれるとジーン・フェリクスはすすり泣きました。

 被告の主任弁護人、クレイ・ブリッジス少佐は金曜日、判決に対するコメントを広報を通じて辞退しました。

 不名誉除隊は軍の処罰的除隊で最も厳しく、重罪の有罪判決と同じです。

 それは退役軍人が受けられる利益のすべてを失い、除隊した個人が武器を所持することを妨げます。

 フェリクスは金曜日にノースカロライナ州のキャンプ・ルジューヌ(Camp Lejeune)の刑務所に送られると、海兵隊訓練教育司令部の報道官、ヨシュア・ペニャ大尉(Capt. Joshua Pena)は言いました。

 海兵隊司令部当局は彼が刑罰すべてをどこで務めるかを決定します。


 判決直前と直後の記事を両方合わせて紹介しました。

 無罪になった件それぞれの理由は分かりません。この記事もそこまでの詳細は伝えていないので、判決が妥当かどうかは判断を控えます。

 注目するのはやはり、刑期の長さです。求刑7年間に対してさらに3年間を加えたのは厳しい。兵隊を殺すものは重罪という米軍の伝統が出たのでしょう。

 ブリッジス少佐の弁論は熱意を感じますが、逆効果だったようにも思えます。19人が虐待を証言したら、普通はそれを信じるのに、証人の人数は関係ないでは、陪審はむしろ困惑したでしょう。何人証言したら信じられるのかという話になりますから。食堂でのいじめは将校が帰宅した夜間に行われたのかもしれませんし。

 罪を認めて、情状酌量を求める弁護方針は考えられなかったのでしょうか。それは訓練教官としてのプライドが許さなかったのでしょうか。

 強い兵隊を育てるためには、多少のしごきは必要という考え方が未だに米軍にも残っていることが分かる事件です。しかし、フェリクスがやったしごきが実戦でどう役に立つのかはまったく分からず、無駄な努力をしていたとしか思えません。こうした間違った訓練手法はいつでも、どこででもカビのよう広がりかねません。

 ディンゲル下院議員の名前が出てきたように、軍隊のいじめ問題では、女性議員がお母さん役を買って出る傾向が米議会にあります。保護者として、軍隊という閉鎖的環境でのいじめに立ち向かうのです。日本ではそういう議員はいませんし、男性議員にももちろんいません。自衛隊に関しては憲法問題が主題で、現在進行中の問題は放置されています。これもまた、現実から目をそらしていると言わざるを得ません。

 軍事裁判は一般の刑法よりも罪が重たくなる傾向があります。憲法改正を叫ぶために、憲法が特別裁判所を禁じているために軍事裁判ができないことを、法の不備だと叫ぶ人たちは、米軍の裁判をよく観察してみるべきです。隊員の虐待で刑期10年間は日本ではあり得ません。

 

 

 


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