北朝鮮がSLBMを固体燃料、地上発射型へ改良

2017.2.14


 北朝鮮が12日に発射したミサイルについて、公開情報から、なぜ迎撃できなかったのかを考えます。

 聯合ニュースによれば、韓国情報機関の国家情報院は14日、北朝鮮が12日に発射した弾道ミサイルについて、発射角度は89度と垂直に近く、これを通常の角度で発射すれば射程が2000キロ以上になると明らかにした。国会情報委員会への報告で伝えた。

 北朝鮮の朝鮮中央通信は13日、前日のミサイル発射について「周辺国の安全を考慮し、高度を高める高角発射方式で行われた」と報じた。

 国家情報院はあわせて、北朝鮮の移動式ミサイル発射台について、前回の車輪型から無限軌道型に変わり、速度が遅くなったと伝えた。

 FNNによれば、北朝鮮が12日に発射した弾道ミサイルについて、北朝鮮のメディアは、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の視察のもと、核弾頭の搭載が可能なミサイルの発射実験に成功したと伝えた。
北朝鮮メディアは、「核弾頭の搭載が可能になった」と核・ミサイル技術が格段に進んでいることを誇示した。

 朝鮮中央放送は、「敬愛する最高領導者同志は、弾道ミサイル『北極星2型』型の試射計画を了承し、発射の命令を下した」と伝えた。

 13日の北朝鮮の労働新聞は、金正恩委員長が発射に立ち会ったと伝え、金委員長は「威力ある核攻撃手段がまた1つ誕生した」と、発射の成功に満足感を示したとしている。

 また、今回のミサイルは、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を改良し、大出力の固体燃料エンジンを搭載したとしている。

 日本政府関係者は、「今回実験で使用したという固体燃料エンジンは、弾道ミサイルの飛行距離を伸ばすほか、燃料搭載の時間など、発射準備を短縮できる。今後は大陸間弾道ミサイルの発射実験に踏み切る可能性もあり、日本にとって脅威となる」と警戒感を示している。

 一方、今回の発射を受け、日米韓3カ国は、国連安保理に緊急会合の開催を要請した。

 時事通信によれば、韓国軍合同参謀本部などによると、北朝鮮は日本時間の12日午前7時55分ごろ、北西部の平安北道・亀城から弾道ミサイル1発を発射した。

 ミサイルは高度約550キロに達し、約500キロ飛行して日本海に落下した。

 これを受け、日米韓3カ国は同日、国連安全保障理事会の緊急会合開催を要請した。会合は13日午後(日本時間14日午前)に開かれる見通し。

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信は13日、新型の中長距離戦略弾道ミサイル「北極星2型」の試験発射に成功したと報じた。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の改良型で、高出力の固体燃料エンジンを利用。金正恩朝鮮労働党委員長の立ち会いの下、飛距離を抑えて高度を高める「高角発射方式」で試射が行われたという。

 トランプ米大統領の招きでフロリダ州を訪れていた安倍晋三首相は大統領と記者発表に臨み、「断じて容認できない。北朝鮮は国連決議を完全に順守すべきだ」と非難。大統領との間で「日米同盟を緊密化、強化していくことで完全に一致した」と語った。大統領は「同盟国である日本を100%支持する」と強調した。

 トランプ政権の発足後、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したのは初めて。日米首脳会談に合わせ、弾道ミサイルの能力を誇示し、日米をけん制する狙いがあるもようだ。16日に故金正日総書記の誕生日を控え、国威発揚を図る意図もあったとみられる。

 米戦略軍も、北朝鮮による「中距離ないし準中距離」の弾道ミサイル発射を確認したと発表。声明で「米戦略軍と北方軍・北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)、太平洋軍は引き続き北朝鮮による挑発を警戒し、安全確保に向け日韓両国と緊密に連携していく」と表明した。

 菅義偉官房長官は12日午前、臨時に記者会見し、「日米首脳会談直後だったことを考えても、わが国や地域への明らかな挑発行為だ」と強調。北朝鮮に厳重に抗議したことを明らかにした。ミサイルによる船舶や航空機への被害は確認されていない。

 安倍首相は関係省庁に対し、情報収集・分析に全力を挙げ、不測の事態に備えて万全の態勢を取るよう指示した。 


 これらの情報から何がいえるのかを、Google Earthで考えてみました。

 まず、最高高度が550kmということなので、打ち上げた場所である方峴飛行場(パンヒョン)に高度550kmのポリゴンを設置しました。実際にはもっと東方でこの高さに達したはずですが、打ち上げ角度が89度とほぼ垂直で、Google Earth上で作業がやりやすいので、こうしました。

図は右クリックで拡大できます。

 このポリゴンがどこからなら見えるのかを考えました。ポリゴンが見えなくなる、またはほとんど見えなくなるような場所を探しました。

 北朝鮮の東海岸、ハムン市付近の海岸からは、このように見えます。これだけ上がっていれば、レーダーなら確実に捉えられます。

図は右クリックで拡大できます。

 韓国の鬱陵島(ウルルン)の山頂、高度950mからもはっきりと見えます。

図は右クリックで拡大できます。

 ポリゴンが水平線に沈む位置からの眺めです。この位置は「北緯39度3分22.02秒 東経135度4分58.38秒」です。

図は右クリックで拡大できます。

 方峴飛行場、ミサイルの落下点、ポリゴンが見えなくなる捕捉限界点の位置関係は次のとおりです。ミサイルの落下点から細く限界点までの距離は367.7km。

図は右クリックで拡大できます。

 それほど北朝鮮に近寄らなくても、イージス艦が日本海の真ん中あたりにいれば、今回の打ち上げが捕捉できた可能性を感じさせる結果です。また、この位置で捕捉できないのなら、どんなミサイルも迎撃できないでしょう。

 海上自衛隊が保有するSM-3ブロック1Aは迎撃高度が120km以上、射程半径1200kmとされます。探知していれば、落下してくるミサイルを迎撃できた可能性は十分にあります。

 韓国とアメリカが探知を発表しながら、日本は今回も失敗したようです。アメリカが探知していたのなら、日本にも連絡があるはずですが、それはなかったようです。24時間、イージス艦が警戒しても、ミサイル防衛は実行できないということです。そう考えざるを得ません。

 日本のミサイル防衛を、私は常に理解できません。

 ミサイル防衛については「抑止力」という言葉がよく用いられます。相手を阻止する力を持つことで、相手が実力を行使することを思い止まらせる力のことです。抑止力を有効たらしめる実力を、日本はどうやら持っていないようです。何度も迎撃できないことが続けば、誰も実力があるとは思わなくなります。防衛省は「常時破壊命令」構想を打ち出し、破壊を宣言した上で、迎撃をしない、あるいは迎撃ができないという状況を続けています。このままでは、抑止力は有名無実なものになります。それなのに、何の発表もせず、対策を打っている様子もありません。どこに戦略があるのかが、まったく見えないのです。

 その最たるものが、毎度、「北朝鮮のミサイル技術は進んでいる」といった、毒にも薬にもならないコメントが防衛省関係者から聞こえてくることです。

 今回、北朝鮮が見せた技術は、SLBMをそのまま地上に持ってくるという、技術的には不完全なものです。地上で打ち上げるのなら発射チューブは不要です。発射チューブは余計な重量となって、運搬車両の性能を損ないます。今回、キャタピラ式にしたのは、重量が重すぎて、タイヤ式が使えなかったからでしょう。その結果、運搬車両の速度が落ちるという問題があります。全般的には、あまり技術的に褒められるものはありませんが、それでもなりふり構わず前進しようとする北朝鮮の貪欲さには警戒が必要です。

 評価できるのは、固体燃料式エンジンを完成させたことです。これで、短時間で打ち上げ準備が完了します。

 射程2,000kmは日本を攻撃するに十分な能力です。

 北朝鮮はいつでも日本を攻撃できる能力を持っているかも知れません。そして、日本はそれを阻止する能力を持っていない可能性が高まっています。

 

 


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