宮古島市議会の辞職勧告は行き過ぎ

2017.3.23


 宮古島市の石嶺香織市議の自衛隊に関する発言について、宮古島市議会から辞職勧告が出たとのことです。石嶺氏の発言には行き過ぎた表現が含まれていますが、市議の辞職は不必要であり、辞職勧告を出した市議会の見識を疑います。

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 民主主義の素晴らしいところは、自由に発言できることです。誤った発言をしても、それが許されるのが民主主義です。石嶺氏の発言は不適切な内容でしたが、誰かの名誉を直接毀損するわけでもなく、悪意が込められている訳でもありません。単に、現実に起きていることから類推して、起こり得る脅威との認識から発言しているだけです。表現に行き過ぎがあったとしても、それは不安として理解できるものであって、頭から否定すべきものではありません。実際に、武装組織による性暴力は世界中で起きているのであり、それを指摘しても何ら不自然ではありません。

 石嶺氏の発言に対して、自由に意見を述べることも、また民主主義では許されています。宮古島市議会が石嶺氏に意見したいのなら、それを自由に表明すればよいのです。むしろ、そうした意見交換を拒絶して、辞職勧告を出したことには問題があり、議会の閉鎖性を指摘せざるを得ません。

 石嶺氏の発言は犯罪行為ではありません。パワーハラスメントをしたとか飲酒して交通事故を起こしたのとは訳が違います。議会が議会の根本的な役目である議論を放棄して、議員を追放する意図をもって議員辞職を出すことは、民主主義とはまったく違います。この辞職勧告は取り消されるべきものであり、石嶺氏は市議を辞職する必要はまったくないといえます。

 以上を読んでも納得がいかない人もいるでしょうから、石嶺氏の発言について、現実に即しながら解説をしていきます。

 石嶺氏の発言は次のとおりです。

海兵隊からこのような訓練を受けた陸上自衛隊が宮古島に来たら、米軍が来なくても絶対に婦女暴行事件が起こる。
軍隊とはそういうもの。
沖縄本島で起きた数々の事件がそれを証明している。
宮古島に来る自衛隊は今までの自衛隊ではない。米軍の海兵隊から訓練を受けた自衛隊なのだ。

私は娘を危険な目に合わせたくない。
宮古島に暮らす女性たち、女の子たちも。

 主旨を整理するとこうなります。

 宮古島に来る自衛隊は他の自衛隊と違う。米海兵隊に訓練を受けた部隊である。米海兵隊は沖縄で婦女暴行をしているのだから、そこに訓練を受けた自衛隊も婦女暴行を行う。

 普通に考えると胃の腑に落ちない主張です。米海兵隊が婦女暴行事件を起こしたのは確かですが、日米共同訓練ではそうした犯罪行為を教えることはありません。従って、宮古島に来る自衛隊が海兵隊に訓練を受けたことと婦女暴行事件が起きることの関連はありません。これが、石嶺氏の発言の最大の問題点です。さらに、「絶対に」という最大級の表現を用いたことも、問題を拡げています。

 しかし、その次に「私は娘を危険な目に合わせたくない。宮古島に暮らす女性たち、女の子たちも。」と書いてあるのをみると、これは事件が起きる潜在的可能性についての警告なのだと分かります。広く解釈すれば、婦女暴行だけでなく、痴漢やのぞき、盗撮、下着泥棒など、性犯罪全般について述べているようにも受け取れます。女性たちの安全を心配した上での発言であり、それは何ら否定できるものではありません。石嶺氏の意見を批判する人たちも、宮古島に配備された自衛官が「絶対に」性犯罪を行わないと断言することはできないでしょう。

 石嶺氏の発言は多少言葉足らずではあったものの、本旨においては誤ってはいません。

 私がそう考えるのは、米軍内部の性犯罪が意外に多いことを知っているからです。何十年も、米軍に関する報道記事をチェックしていると、実に多くの事件が起きていることが分かります。

 たとえば、2014年12月、弾道核ミサイル潜水艦「ワイオミング」で、男性乗組員が女性乗組員のシャワー室にカメラを仕掛けて盗撮をする事件がありました。関係した隊員は処罰を受けています。

 2012年5月には、在韓米軍の一等兵が17歳の少女の家に侵入して強姦し、禁固6年の有罪判決となりました。

 2006年3月に起きた事件は衝撃的でした。イラクで精鋭第101空挺師団のスティーブン・デール・グリーン上等兵が同僚と上官をそそのかして事件を起こしたのです。彼らは検問所で目をつけた14歳の少女の家に押し入り、少女を強姦してから頭部を数発銃撃して殺し、さらに一家を皆殺しにしてから家に放火しました。関係した兵士は、グリーンを除いて軍事裁判で有罪となり、グリーンは除隊したために一般の裁判所で裁かれ、保釈なしの終身刑となりました。

 2005年7月、米陸軍のラビーナ・ジョンソン上等兵が軍用テントの中で殺害された事件はあまりにも奇怪で、軍隊内部の性犯罪の深刻さを思わせるものでした。軍は自殺として処理しましたが、遺体を見た父親が疑問を抱き、事態が明るみに出ました。ジョンソンの鼻は折れ、眼瞼皮下出血があり、歯が欠損し、性器が腐食性薬品で焼かれ、さらに銃で撃たれていました。どうみても自殺ではありません。性器を焼いたのは体液をDNA分析されることを避けるためと推測されており、性犯罪が疑われています。様々な請願にも関わらず、この事件は正式に調査されておらず、未解決のままです。

 米軍もこういう問題を意識していて、様々な研究を行っています。2015年に公表された報告書によれば、復員軍人援護局は11年間のデータを調べた結果、18〜29歳の女性退役軍人は非退役軍人より12倍多く自殺していることを見出しました。こうした自殺の原因の一つが、同僚による性暴力です。米国防総省によれば、軍隊内の女性10%が軍務中に強姦され、別の13%は望まない性的な接触を被っているとみています。その上、自殺に使える道具「銃」が身近にあることも原因だとしています。

 こういう現状の米軍故に、性犯罪者と関連性を指摘されても、ある意味で仕方がないことです。

 自衛隊については、小西誠氏が隊内のセクハラに関してレポートを発表しています(こちら)。また、自衛隊の三宿駐屯地で、幹部が看護婦や秘書課の秘書らにお酌をさせているとの、清谷信一氏のレポートもあります(こちら)。

 こうしたセクハラは自衛隊だけでなく、残念ながら他の組織でもみられるものであり、それ故に自衛隊だけについて言うのは不適切です。しかし、軍隊や自衛隊のような武装組織は、そのように見られることは、過去からいわれていることでもあります。慰安婦問題がまさにそれです。有名な時代劇『七人の侍』には、村人を助けるためにやってきた侍に娘が強姦されると思い込み、男に見せかけるために、娘の髪の毛を短く刈ってしまう父親が登場します。終戦直後、進駐軍が来る前に日本政府が慌てて米兵向けの公営の売春宿を設置したのも、世の中にこういう常識がはびこっているためです。こういう批判は武装組織にはつきものと思い、いちいち目くじらを立てても仕方がないことなのです。

 

 


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